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「世界猫の日」8/8「ネコのストレス」を考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 今日8月8日は、IFAW(国際動物福祉基金)が2002年に制定した「世界猫の日(International Cat Day)」だ。ほかにもネコの日はいくつかあり、日本では2月22日(にゃんにゃんにゃん)が一般的かもしれない。「世界猫の日」にちなみ、ネコのストレスについて考える。

ネコは孤独を愛するのか

 一般社団法人ペットフード協会の2017年の飼育実態調査によると、完全室内飼い(散歩外出しない)ネコ(Felis silvestris catus)の割合は74.9%にもなるようだ(※1)。イヌの場合、散歩がほぼ必須だろう。住環境にもよるが狭いワンルームマンションで飼われているケースもあり、室内飼いや多頭飼いはネコにとってストレスにならないのだろうか。

 トラやヒョウなど単独行動をするネコ科のネコは、もともと社会的な動物ではなかった。ライオンやチーターのように群を形成し、社会的な生態を持つネコ科の種もいるが、人間の近くで暮らし始め、家畜化が進んでもネコの基本的な生態は孤独で非社会的といえる。

 それはネコの祖先が、ライオンやチーターではなく、単独行動をとるヤマネコ(Felis silvestris lybica)と考えられているからだ。

 ネコが家畜化したのはせいぜい約1万年前で、それ以来、人間とはつかず離れずの共生関係を構築してきた(※2)。ネコがヒトと一緒に暮らしたり、多頭飼いを許容したり、集団を形成したりするという生態は、家畜化が進む過程で獲得されたのか、それとも家畜化以前から持っていたものかは議論が分かれる(※3)。

 単独行動が好きなネコも集団を形成する。それは単に餌の多寡といった利害関係だけではなく、ヒトとネコとの関係から生まれた生態だったかもしれないと示唆されている(※4)。社会性の強いイヌの場合、ヒトや同じイヌ同士の結びつきを評価する研究は比較的容易だが、気まぐれなネコの場合はなかなか難しい。

 もちろん、個体差もあるのだろうが、ネコが自宅に放置された時間経過で飼い主に対する反応をどう変化させるのかを調べた研究(※5)によれば、放置されていた時間が長いほどネコが社会的な関係性を構築するように振る舞ったという。長い放置がネコのストレスにつながるかどうかはわからないが、むしろ飼い主にとってストレスになるのではないかという研究もある(※6)。

ネコにストレスを与えないために

 ネコのストレス評価については、身体の姿勢や各部位の様子などによってスコア(Cat Stress Score)が確立されている(※7)。それによれば、フルリラックス(Fully Relaxed)で身体は横寝か仰向け(Laid out on side or on back)になり、恐怖に怯えるストレスフル(Terrified)な状態になると四肢を縮めて震える(Crouched directly on top of all fours, shaking)ことになる。

 多頭飼いの場合、ネコでは飼育面積によってストレスが変わってくるようだ。ストレス・スコアを使った多頭飼いの研究(※8)によれば、1頭あたりの面積が増えればそれだけストレスも軽減されるという。

 多頭飼いと面積でいえば、保護ネコのシェルターやネコ・カフェが考えられる。複数の論文を比較検討したシステマティック・レビュー(※9)によれば、保護されたばかりだったり来歴がわからないネコの場合、隠れ場所を用意したり、環境変化を少なくし、可能なら同じ場所で保護されたネコやすでにグループが形成された仲間ネコと同じケージに入れたほうがいいという。

 ネコも家畜化される過程で社会性を持ったと考えられ、遊びなど飼い主や同じネコ仲間との接触も重要だ。一方で孤独を好むので、1頭で隠れる場所(隠れ箱)も確保したい。飼育面積は広いほどいいが、少なくとも1頭あたり4平方メートルほどが必要だろう。

 先日、首都圏のネコ・カフェでネコ・パルボウイルスが流行したが、ワクチンをプログラム通り打ち、ネコにストレスを与えない環境で営業してもらいたい。多頭飼いの問題もあるが、ヒトとの触れ合いが過度になれば、ネコにとってそれは強いストレスになる。

※1:一般社団法人ペットフード協会:平成29年の全国犬猫飼育実態調査(2018/08/08アクセス):猫の主飼育場所:室内のみ74.9%、散歩・外出時以外は室内11.1%、室内・屋外半々10.9%、主に屋外3.1%

※2:Claudio Ottoni, Eva-Maria Geigl, et al., "The palaeogenetics of cat dispersal in the ancient world." nature ecology & evolution, 0139, 2017

※3:John W.S. Bradshaw, "Sociality in cats: A comparative review." Journal of Veterinary Behavior: Clinical Applications and Research, Vol.11, 113-124, 2016

※4:I Merola, et al., "Social referencing and cat-human communication." Animal Cognition, Vol.18, Issue3, 639-648, 2015

※5:Matilda Eriksson, et al., "Cats and owners interact more with each other after a longer duration of separation." PLOS ONE, doi.org/10.1371/journal.pone.0185599, 2017

※6:John O. Volk, et al., "Executive summary of the Bayer veterinary care usage study." Journal of the American Veterinary Medical Association, Vol.238, No.10, 1275-1282, 2011

※7:M R. Kessler, et al., "Stress and Adaptation of Cats (Felis Silvestris Catus) Housed Singly, in Pairs and in Groups in Boarding Catteries." Animal Welfare, Vol.6, No.3, 1997

※8:Jenny M. Loberg, et al., "The effect of space on behaviour in large groups of domestic cats kept indoors." Applied Animal Behaviour Science, Vol.182, 23-29, 2016

※9:Lauren R. Finka, et al., "A critically appraised topic (CAT) to compare the effects of single and multi-cat housing on physiological and behavioural measures of stress in domestic cats in confined environments." BMC Veterinary Research, doi.org/10.1186/1746-6148-10-73, 2014

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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