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米FRB、7月会合で「米経済の進展」を強調―8月下旬にも量的緩和縮小を表明か(上)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
7月28日のFOMC会合後、記者会見に臨むパウエルFRB議長=FRBサイトより

<7月28日のFOMC会合の要点>

●FRB、「米経済は2つの目標(雇用と物価)の達成に向かって進展した」と明記

●FRB、国債・MBS買い取りによる量的金融緩和(QE)策を据え置き

●FRB、国債買い入れ目標を月800億ドル、MBSを月400億ドルに据え置き

●FRB、「雇用最大化と物価目標の達成が前進するまで国債買い入れ継続」

●FRB、デルタ株感染急拡大への懸念示さず―市場のサプライズ

●FRB、「インフレ率が当分、緩やかに2%上昇を超えるまでゼロ金利を継続」

●FRB、IORB(準備預金金利)を0.15%に据え置き

●FRB議長、「インフレの加速は経済再開によるもので短期的。中期的には低下する」

●FRB議長、「米国経済支援から手を引くタイミングに近づいている」

●FRB議長、「テーパーリング(QE縮小)の開始決定はまだ数カ月先の話」

 FRB(米連邦準備制度理事会)は7月28日のFOMC(公開市場委員会)会合で、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を現状のゼロ金利(0-0.25%)に据え置くことを全員一致で決めた。また、FRBは市場が注目していた量的金融緩和(QE)政策の質と量の両面からの調整(見直し)についても、現状通りに据え置いた。市場では現在の堅調な株式相場を支えている国債買い入れの規模の段階的縮小、すなわち、テーパーリングの開始時期に注目しているが、FRBは今回の会合でも国債買い入れ目標を月800億ドル(約8.8兆円)、MBS(不動産担保証券)を月400億ドル(約4.4兆円)と、いずれも現状通りに据え置き、当面、QEを継続する考えを示した。

 しかし、金融緩和政策の現状維持を決めたものの、FRBは会合後に発表した声明文で、前回6月会合と同様、「ワクチン接種の進展はコロナ危機が経済に与える影響を継続して緩和する可能性が高い」とし、「経済見通しに対するリスクは依然残る」としたものの、前回会合で使われた「米経済の今後の道筋は新型コロナウイルス感染の進展にかなり左右される」という文言から、「かなり(significantly)」が削除され、市場が注目していた、デルタ株感染急拡大の経済への悪影響を強調せず、やや楽観的なトーンに変更した。

 また、FRBは今回初めて、声明文で、テーパーリングの議論開始の条件となっている2つの目標(雇用の最大化と物価目標)の達成度合いを検討していく考えを示している。声明文では、「昨年12月、FRBは雇用の最大化と物価目標の達成でかなりの進展が見られるまで、毎月800億ドルの国債と400億ドルのMBSの買い入れ拡大する方針を示したが、それ以降、米経済はこれら2つの目標に向かって進展している」とし、その上で、「FRBは今後、複数回開かれる会合で、進展具合を検討していく」とした。

 こうしたFRBのテーパーリングに前向きな姿勢を受け、米債券市場ではFRBが今後のテーパーリングの開始について手がかりを示したとの見方を強め、長期金利の指標である10年国債の債券価格と反対方向に動く利回りが決定直後、0.024ポイント上昇し、1.262%に上昇している。長期金利はインフレが急加速した4-5月に1.6-1.75%に一時、急伸し、市場が混乱したが、その後、FRBがインフレ加速を一時的と判断したことを受け、6月中旬から1.5%近辺に低下、7月19日には1.194%に低下。今回の会合前は1.25%近辺で落ち着いていた。

 会合前、市場では今回のFOMCで、米景気回復の力強さや経済刺激策の縮小開始時期について手掛かりが得られるとし、FRBはデルタ株の急速な感染拡大に懸念を示し、ジェローム・パウエル議長もデルタ株感染拡大による経済悪化リスクを強調することにより、バイアス(金融政策に対する姿勢)も利下げを急がない「ニュートラル(中立)」スタンスからハト派にシフトし、QEのテーパーリングを急がない考えを示すと予想していたが、予想外れとなった。

 6月中旬の前回会合時から10年国債の利回りは低下していた。これはリフレトレードの巻き戻しで売り過ぎから買い戻しが続いているためだが、こうした債券市場の動き(長期金利の低下)も金融引き締めへの転換を遅らせる根拠となっている。ただ、長期的にはデルタ株感染拡大でロックダウンが起きない限り、長期金利は上昇して行くと見られている。今回の会合後、10年国債の利回りが一時、上昇に転じたことはロックダウンの懸念が弱まり、ややタカ派に寄ったため、リフレトレードに戻ったが、全体的には市場の予想通りの結果だったとの見方で利回りは結局、1.23%台と、前日終値水準の1.247%を下回った。

 テーパーリングの議論の開始については、FRBは5月19日に公表したFOMC議事録(4月27-28日開催分)で、多くの委員が6月会合以降に議論を開始する可能性を示唆していた。実際、議事録では、「多くの委員が、もし米経済が急速に回復し、FRBの目標(物価の安定と雇用の最大化))に向かって進展が続く可能性が示されれば、次回6月以降の会合のある時点で、資産買い入れのペースの調整計画について議論を開始することが適切となるかもしれない」としているからだ。

 しかし、この点について、パウエル議長は今回の会合後の会見でも、前回会合に続いてテーパーリングの開始について議論したことは認めたが、市場ではFRBはテーパーリング開始の手がかりを示しただけで、基本的には前回と変わっておらず、FRBはまだできる限り選択肢を残し、一つの方向に舵を切ることは避けたがっているとみている。

 パウエル議長は前回会合後の会見で、「次回以降の会合で引き続き、目標(雇用の最大化と物価安定)に向かって経済が進展しているかどうか検証する。我々は資産買い入れに対する変更を発表する前に(市場に対し)予告する」とし、テーパーリングの議論は開始していないが、議論の入口にいることを明らかにしたが、今回の会合後の会見でもこのトーンは変わっていない。これはテーパーリングの開始のカギの一つを握るインフレの加速について、一時的というスタンスを変えていないからだ。(「下」に続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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