労働党政権の秋季予算案、400億ポンドの大増税に経済界が猛反発―雇用危機と景気後退懸念広がる(下)
レイチェル・リーブス財務相が10月30日発表した秋の予算案(新年度予算)で400億ポンド(約7.6兆円)の増税案が盛り込まれ、経済界から失業者の増大や景気後退を招くと痛烈な批判を浴びている。
米信用格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も11月1日付の顧客向けリポートで、同業大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスと同様、秋の予算案について、「リーブス財務相の公共支出(公共サービス向け投資)の急増は英国の財政に圧力をかけ続け、その結果、政府の計画はインフレ圧力を高め、政策金利を長期にわたり高止まりさせるだろう」、さらに、「(インフレ圧力による)金利上昇や人件費上昇、税負担増加は企業の投入コストを押し上げ、民間投資の回復を遅らせる可能性がある」と悲観的な見方だ。
英紙デイリー・テレグラフのマット・オリバーとシー・ピン・チャン(Szu Ping Chan)の両経済部デスクは11月1日付コラムで、「多くのエコノミストは財務相は早ければ2025年春にも財政均衡を図るため、さらなる借り入れや増税を余儀なくされるだろうと予測している」と指摘している。
ムーディーズの予測によると、現時点では、政府支出は今後5年間で、毎年約700億ポンド(約13.4兆円、対GDP比2%相当)増える見通しで、その財源は増税と約280億ポンド(約5.4兆円)の追加借り入れ(国家債務)で賄われることになるが、「この政府支出の規模は2020年3-7月のコロナ禍以来の積極財政支出となることが予想される。我々の見解ではこうした借り入れの増加は、すでに困難な財政再建の見通しをさらに難しくする」と懸念を示している。また、借り入れ増加により、政府が支払う国債費は今後10年間で、毎年1000億ポンド(約19.1兆円)を超えると予想している。
英放送局BBCによると、予算案による経済成長の見通しについても、英予算責任局(OBR)は10月31日、「労働党政権の経済対策では最終的には5年間、GDPはほぼ変わらないだろう」とし、2025年の成長率は2%増と、従来予想を0.1ポイント上回るものの、それ以降は減速、2028年には1.5%増に鈍化すると指摘している。
保守党寄りのテレグラフ紙は11月21日付の社説で、「労働党政権は、現在導入されている政策により1970年代を再現しようとしている」と、英国経済が1970年代初め(1970-1971年)に経験したスタグフレーション(景気後退にもかかわらず、インフレ率が上昇する状態)に戻ると警告。さらに、「スタグフレーションは投資の価値を低下させ、リスクテイクや起業家精神を阻害するため、経済的な野心に対する重大なブレーキ。解決策は減税と規制緩和で経済を刺激することだが、政府は逆の方向に向かっている」、また、「政府は改革の兆しをまったく見せることなく、非生産的な公共部門に資金を注ぎ込んでいる。労働党は成長を公約にして政権に就いたが、これまでのところ、その言葉は行動と一致していない。公共部門の失敗の代償が企業や農家に押し付けられている」と批判している。
英放送局スカイニュースも労働党の400億ポンドもの大増税予算に否定的で、スカイニュースのクレア・ギルボディ・ディッカーソンとジェームズ・シラーズの両経済部記者は11月25日付で、「OBRは増税による負担の大半は賃金の低下を通じて労働者に、また、物価上昇を通じて消費者に転嫁されると指摘している。最近、小売業界の数十人の経営者が財務相に宛てた書簡で、同相が予算案を強行すれば、経済と雇用に悲惨な結果をもたらすと警告した」と報じた。
また、CBI(英国産業連盟)のレイン・ニュートン・スミス事務局長も11月25日の講演で、ジョン・メージャー保守党政権(1990-1997年)の1993年以来最大の予算増税について、労働党が14年間の保守党政権で生じた220億ポンド(約4.2兆円)のブラックホール(2024年度予算の歳入不足額)を埋めるために必要だと主張するリーブス財務相の財政政策を批判した。
スミス氏は、「(現在)多くの企業が自社の成長計画に妥協せざるを得なくなっており、あらゆる分野で利幅が圧迫され、厳しい取引環境がさらに厳しくなったことで、利益が打撃を受けている」とした上で、「利益は企業が枕カバーに詰め込むだけの余分なお金ではない。利益は投資だ。利益が上がれば競争力が上がり、投資が上がり、成長が上がる」と、大増税が企業負担を高め、投資と成長の機会を奪うと警告している。(了)