日本人も地球人になれたら投資が上手になるのだ
投資は資金運用で、その反対側には資金調達があります。資金調達した人は、その資金で付加価値を創造し、それを資金運用する人に分配するので、投資は利益をあげるのです。
投資と経済循環
投資は、広義には、経済活動に資金を投じることで、資金が投じられる先には、資金を調達する企業等の経済活動主体があります。同じことを逆向きにいえば、企業等の経済活動主体は、金融機関も含む広義の投資家から資金を調達して、それを事業に投じているのです。そして、経済活動主体は、調達した資金を稼働させて、付加価値を創造し、創造された付加価値は、調達資金の利用料として、投資家に分配されるわけです。
こうして、経済活動が付加価値を創造していくなかで、即ち、経済が成長していくなかで、経済循環に投じられた資金は、循環過程で増殖していき、その増殖分が融資の利息になり、投資の利益になり、不動産等の賃料になっているのです。
同じコインの両面
資金調達には、多種多様な方法がありますが、基本には三類型に整理されます。第一は、融資を受けたり、債券を発行したりして、債務を負担すること、第二は、株式を発行して、資本を増加させること、第三は、不動産等の資産を売却することです。そして、これら三類型のなかには、様々に異なる個別の手法があり、更に、三類型の中間には色々な混合型の変種があります。
資金調達側にとっての調達手段であるものは、投資家側からみれば、投資対象です。例えば、社債や株式は、発行体企業にとっての資金調達手段ですが、投資家にとっての投資対象であるように、同じコインの片面が投資対象ならば、反対面が資金調達手段なのであり、コインには多様に異なる種類があって、その一種として社債や株式があるのです。
分配における優先順位
資金調達した企業等は、資金供給した投資家等に対して、創造した付加価値を分配しますが、分配には法律上の優先順位が付けられていて、その優先順位の差が資金調達手段の差であり、同時に投資対象の差になっています。
創造される付加価値は経済情勢によって変動するのですから、投資対象としては、融資や債券のように、優先順位の高いものほど、分配を得られる確率が高い、即ち、安全性が高くなり、逆に、株式のように、優先順位の低いものは、安全性が低くなります。しかし、大きな付加価値が創造された場合には、優先順位の高いものは、分配額が一定であるのに対して、優先順位の低いものは、分配額が大きくなります。ハイリスク、ハイリターンとは、こうした事態を意味しているわけです。
地球の全体と部分
閉鎖された経済圏において、投資対象の総額は、全ての資金供給額の総計であり、同時に、全ての資金調達額の総計ですが、経済圏が成長している限り、必ず増加する、即ち、必ず利益を生んでいるはずです。しかし、閉鎖された経済圏として想定し得るのは地球全体になりますが、誰しも、地球上の全ての資金調達手段には投資し得ず、また、地球経済が多数の通貨で構成されているなかで、誰しも、自分の基軸通貨に拘束されますから、地球上の全ての投資家が必ず利益を得るとは限りません。
例えば、日本の投資家は、現状において、円という通貨から、地球の極めて小さな部分に著しく偏った投資を行っているわけですから、その成果は、地球経済の成長とは甚だ大きく乖離しているのに違いなく、地球全体における利益は、日本という部分における損失と矛盾なく併存しているのです。故に、安定的に地球経済の成長に参与するための技術的工夫として、国際分散投資の課題があるわけです。
国際分散投資とは
国際分散投資の決定的な難点は、宇宙人にならない限り、地球の全体は見えないことです。自分自身が全体の極小の一部にすぎないなかでは、その無にも等しい点から、全体が見えるはずもないのです。そこで、国際分散投資の第一歩は、地球全体のなかから一部の投資対象を選択し、自分なりの地球を定義することになります。
このとき、一方では、地球全体を複製する、即ち、地球を主にして、そのなかに日本を位置付けるべきではありますが、他方では、日本の円という特定の通貨から投資するのである以上は、日本を主にして、日本に対する関係で、日本以外の地球を定義する方向も重要になります。つまり、英語でいえば、グローバル、即ち、日本を含む地球という視点と、インターナショナル、即ち、日本を除いた外国という視点との適切な組合せが重要なのです。
投資の高度な技法
株式と債券のほか、不動産等の多種多様な実物資産、投資としての融資、プライベートエクイティなど、地球上の広範囲な対象を視野に入れて、そこから少数の対象を厳選するところに、投資の技術があるわけです。このとき、例えば、航空機という実物資産の価値が地球上の人の移動の活性度を反映するように、地球経済の動向を内包する投資対象を上手に選択することが重要です。
また、為替も難しい課題です。米国に投資することと、米国のドルという通貨に投資することとは異なります。為替ヘッジを使って、米国に投資するために取得したドルを常に先日付で売却しておくことができるからです。外国に投資することは、その国の通貨に投資することを内包しているとも考えられますが、地球経済における日本の地位が低下していき、外貨建ての投資の割合が大きくなるときは、基軸通貨が円なのですから、一定の為替ヘッジが必要になります。
こうした高度な工夫は普通の投資家には困難ですから、専門家としての投資運用業者が存在しているわけです。
購買力の保存
金融の目的は消費の時間軸上の調整であって、借りて先に消費するか、貯めて後で消費するか、この二通りの課題解決に帰着します。投資は、いうまでもなく、貯めて後で消費することですから、購買力の保存が投資の基本課題となります。このことは、年金基金の資産運用や、金融庁のいう豊かな老後生活のための資産形成を考えれば、理解できるはずです。
そもそも、投資とは、地球経済の成長に起因する自然な利益を得ることですが、そのことは、見方を変えれば、地球経済における購買力を自然に保存することになるわけですから、ことは簡単なようでいて、実は、誰も地球人たり得ずに、特定の国の通貨に拘束されているところから、難しい問題が生じるのです。
つまり、日本の投資家にとっては、投資の目的は円という通貨の購買力を保存することになるわけですが、一方では、グローバルな視点での購買力の保存、即ち、地球経済全体の成長への参与を基礎としつつ、他方では、日本から見た日本の外の地球というインターナショナルな視点において、その基礎のうえに技術的な調整を加えることが必要になるわけです。
投資の動態
日本経済の構造は、地球経済との関係の構造であって、当然に変化し続けていますが、構造というからには、短期的に急激に変化し得るものではなく、長期的に緩やかに変化していくものです。実は、投資といえば、必ず長期投資といわれますが、真の長期投資とは、同じことの継続ではなく、日本経済の長期的な構造変化に追随することなのです。実際、企業年金の資産運用の内容は、大きく変化してきました。
金融庁は、資産運用の高度化を重点施策に掲げ、企業年金の資産運用についても改善余地の大きいことを指摘していますが、日本の他の投資家と比較したとき、最も高度な投資をしているのは企業年金です。そして、少なくとも過去においては、その投資内容は、日本経済の構造変化に合わせて、大きく変貌してきました。今、金融庁が問題とすべきは、現在の企業年金は、そうした対応力を失いつつあるのではないかという点です。