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中国の過酷すぎる大学受験はなぜ起こるのか?

中島恵ジャーナリスト
中国の高校の教室。夜遅くまで学生たちが自習している

6月7日と8日は中国の大学入学試験だ。中国での正式名称は全国普通高等学校招生入学考試、通称は中国語で「高考(ガオカオ)」という。

中国の大学はほとんどが国立大学なので、日本の私立大学のように大学ごとの入試はなく全国統一の一発勝負だ。つまり、この日に自分の命運をかけているといってもいい、中国の高校生にとっては最も大事な2日間である。

韓国の受験戦争の様子が日本でもおもしろおかしく報道されるが、中国でも受験当日は特別な緊張感が漂う。受験に備えて本人はもちろんのこと、父母も親戚も、教師たちも、教育界にも大きなプレッシャーがかかるからだ。

人口が多く、大学数が少ない中国の受験は、日本の大学受験の緊張感とは比べ物にならないほど大変だ。

一例を紹介しよう。天津に住む私の友人の子どもは高校3年生。天津で「1~2を争う進学校」に通っている。自宅は高校から30分くらいかかる距離だが、子どもが高校2年のとき、高校のすぐ近くにもう1軒アパートを借りた。 

自宅があるのになぜ? と不思議に思うが、母親は「子どもは勉強だけで疲れ切っている。少しでも通学時間を短くして、楽をさせてあげたい。近くに住めば睡眠時間も多く取れるでしょう?」と話していて驚いた。そこまでしなければいけないのか……と思ったのだ。

日本人の感覚では「過保護すぎるのでは?」とも思うが、受験戦争が激しい中国の都市部では珍しいことではない。他の親がやっているからうちも…と思う気持ちもわからなくはない。

その子どもは朝7時にアパートを出て徒歩2分の高校に通学。1時間ほど自習をしたあと授業。放課後は5時ごろから8時半ごろまで教室に残って勉強し帰宅。お風呂に入って夜12時まで勉強をするというスケジュール。高校には食堂があり、昼食だけでなく夕食も取ることもできる。放課後は塾に通う子どももいるが、教室に残って勉強する子どももいるからで、夜遅くまで子どもが学校に残ることは、中国では「ごく普通のこと」だ。

中国の大学合格は日本の何倍も“狭き門”

中国の大学受験競争がここまで厳しいのは、もともと科挙のお国柄で「勉強ができる人が世の中でいちばん偉い」という考え方もまだ根底にあるが、人口の多さに比べて「よい大学」があまりにも少なすぎるということも、原因のひとつとして挙げられる。

日本の東京大学の学生数は約2万8000人だが、中国の北京大学の学生数は約5万人。中国の人口は日本の10倍以上もいるので、この点だけを見ても、中国人が中国で一流大学に入学するのは非常に“狭き門”だということがわかる。

また、中国は国土があまりにも広く、教育レベルに格差があることや、都市部の子どもを優先させる政策があるため、地方(省)によって大学の合格者数や合格ラインが異なる。北京の大学に進学するには、地方よりも北京出身の子どものほうが合格しやすい(都市部のほうが合格者数が多く、合格ラインも低い)ことから、地方から都市部のいい大学への受験はより過熱しやすい。

昨今はあまりにも激し過ぎる受験戦争に嫌気がさして、また、国内でたとえいい大学に進学できても、必ずしもいい就職や成功に結びつかなくなってきていることなどから、最初から国内での受験はせず、海外留学を目指す高校生も増えてきた。

北京のある高校教師の話では「クラスの3分の1は欧米に留学するのが当たり前。留学ブームもあるし、親に経済力もある。それに、留学するほうが将来性があり、他の人より抜きん出ることができる、と考えているからでしょう」と話していた。

中国でも大学受験は勉強だけでなく、経済力がモノをいう時代に入ってきた。はたして、今年はどんな受験戦争が繰り広げられるのだろうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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