災害大国ニッポンは、ますます「能力主義」から「成果主義」の時代へ
■ 自然災害はさらに続くだろう
「一難去ってまた一難」という言葉があるが、とりわけ千葉の窮状はまさに、それにあたるだろう。
台風15号、19号が残した傷を手当てする猶予も与えず、災害級の大雨が襲った。台風21号と低気圧の影響である。
千葉に限らない。今秋は、台風などの自然災害によって日本各地に深刻な影響が及んだ。とくに台風19号は首都圏を直撃。JRや私鉄などが計画運休を相次いで発表したことにより、数多くのサラリーマンは通勤の足が断たれた。
今後も異常気象による自然災害はつづく――。多くの日本人は、こう覚悟しているだろう。昨年の西日本豪雨に引き続き、今年は巨大台風が次々と襲来したのだから。
企業サイドは、どう対策すべきか。私は、真剣にテレワークの導入を検討したほうがいい、と考えている。働き方改革のためでもあるが、事業継続性確保のためでもある。
テレワーカーを増やすことで、不要不急の社員を出社させなくてよくなるのは、社会にとってメリットがある。非常時の交通混雑緩和に協力できるし、それが企業の社会的責任だからだ。
■ テレワーク普及を阻むもの
働き方改革時代となり、テレワークという言葉はより一般的に使われるようになった。にもかかわらず、認知度の割には普及していない。昨年の総務省「通信利用動向調査」によると、テレワーク導入企業はまだ2割弱。しかも実際にテレワークを利用するワーカーは「5%未満」だという。
育休の制度はあっても、活用する男性社員が増えないのと同じだ。テレワークに適さない仕事もあるが、いくらなんでも「5%未満」は少なすぎる。おそらく問題の根源には組織風土があるだろう。
営業時、出張時ならともかく、それ以外は「上司の顔が見えるところで仕事をするのが当たり前」という風土が、まだまだ日本企業に定着しているのだ。
■「成果」でしか評価できない
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。クライアント企業からテレワークの相談があったら、こう答えるだろう。
「テレワーカーのみならず、マネジャーの意識も変える必要がある。それと評価制度も」
と。
いちばん足かせになるのが、テレワーカーのマネジメントである。説明するまでもないが、「時間単位」ではなく「成果単位」に変わる。
つまり、ますます「能力主義」ではなく「成果主義」に評価制度がシフトしていくということだ。
学歴や保有資格、過去の経験値など関係がない。成果を出せるかどうかという指標が、人事評価においても大きなウエイトを占めることになる。
いちばん困るのは「肩書」に依存して働いているベテラン社員たちだ。テレワークが普及すると、賃金に見合った生産性の高い仕事ができるかどうか。以前よりハッキリするようになるのは明らか。
■ 残酷な例
私どもの支援先では、次のような例があった。残酷な例だ。
オフィスにいれば、部下の相談に乗ったり、長い会議に出て発言したりして、一所懸命に汗をかいて仕事をしている風(ふう)の営業部長が、自宅やサテライトオフィスで仕事するようになり、突如その存在が消えてしまったのだ。
電話やメールで連絡すればつかまるが、どこで何をしているのか。単独で営業先をまわっているのか。主体的に部下とコンタクトをとっているのか。わからなくなったのである。
不思議なことも起きた。部下たちの生産性がきわめて高くなったことだ。私どもコンサルタントとバーチャルチームを結成し、毎週のようにWEB会議でコミュニケーションを取り合い、高速で成果に結びつく行動の見直しをつづけた。営業部長は完全に蚊帳の外になったが、成果のパフォーマンスは上がるいっぽうだった。
半年がたっても、残念なことにテレワーカーとなった営業部長の「成果にいたる行動プロセス」を可視化できなかった。オフィスにいた時代では、部下や他部署から声がかかった。しかし姿が見えないと、誰もこの部長に相談もしなかったし、WEB会議の誘いもしなかった。この事実を見て社長が嘆いたのは言うまでもない。
異常気象による自然災害は、今後も増えると考えたほうがいい。だから企業は、いちはやくテレワークなどを導入すると同時に、「自律型人材」への教育を徹底すべきだ。
そうでないと、テレワーク導入後いてもいなくても同じだという社員が明らかになってしまう。能力や経験、肩書ではなく、成果を出すのには誰が必要なのか。それは組織メンバーがいちばんよくわかっているからだ。