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アップルが開発中の『ARヘッドセット』とは? 謎の「T288」製品化は2020年との観測

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 米テッククランチが伝えたところによると、米アップルは今年(2017年)の夏に、AR(拡張現実)用のヘッドセットを手がけるカナダの新興企業を買収した。

独自技術を持つカナダ企業を買収

 この企業は、バーバーナ(Vrvana)と言い、モントリオールを拠点にして活動していた。「トーテム(Totem)」という同社が開発したヘッドセットは、通常のAR用ヘッドセットのように、透過型ディスプレー越しに見える現実の風景にデジタル情報を重ね合わせるのではなく、前方にあるカメラで目の前の風景を捉え、それを内部のOLED(有機EL)ディスプレーに、デジタル情報とともに映し出す。

 そのメリットは、利用者を完全にデジタル空間の中に没入させるVR(仮想現実)にも利用できる点。また搭載するカメラシステムは、利用者の3D(3次元)空間上の位置を捉えることができる。赤外線カメラも搭載しており、こちらは利用者の手の位置を追跡する。

 事情に詳しい関係者の話によると、アップルはこのバーバーナを、3000万ドル(約33億6000万円)で買収した。同社のウェブサイトには今もアクセスできるが、ソーシャルメディアのアカウントは今夏から更新が止まっている。すでに従業員の多くが、米カリフォルニアにあるアップル本社のチームに加わったと、テッククランチは伝えている。

信憑性増す、アップルのヘッドセット開発

 アップルは、こうした報道について、コメントしないことで知られているが、今回のバーバーナ買収が事実であれば、同社がAR用ヘッドセットを開発しているという、これまでにもあった観測や報道の信憑性を示すものだと米アップルインサイダーは伝えている。

 アップルインサイダーによると、アップルはコードネームで「T288」と呼ぶ、AR用ヘッドセットを開発している。これには自社開発のディスプレーやプロセッサー、OS(基本ソフト)が搭載されるのだという。

 また、同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)は、たびたび、AR技術に投資していることを明かしている。同氏は、昨年9月にABCニュースのインタビューに応じ、「VRとARはともに非常に興味深い技術。しかし私の見解では可能性があるのはARだ。おそらく格段に大きな可能性だろう」とも述べていた。

 同氏のこの言葉を裏付ける1つの例は、今年リリースしたモバイルOS「iOS 11」で、AR用アプリの開発を支援する「ARKit」を導入したことかもしれない。これにより開発者は、iPhoneなどのiOS端末に搭載される、さまざまな高性能電子部品と連携するARアプリを容易に作れるようになった。

 同社のARへの取り組みについては、ドイツの光学機器大手、カールツァイスと連携し、メガネ型の端末を開発しているとも伝えられたほか、早ければ2017年にも製品が発売されるといった観測も出ていた。テッククランチやアップルインサイダーの報道によると、同社製ARヘッドセットの製品化は2020年、というのが最新の観測のようだ。

「製品化には、まだ大きな課題がある」とクックCEO

 ただ、そこには立ちはだかる問題が数々あるとクックCEOは考えているようだ。今年10月に英ジ・インデペンデントのインタビューに応じ、同氏は次のように述べていた。

 「現在のところ、十分な品質をもたらすことができる技術は存在しない。ディスプレー1つを取ってみても、まだ技術はそこまで達しておらず、今も大きな課題が存在する。アップルは確固たる品質が保証されない限り、製品を市場に出すことはしない」(同氏)

(このコラムはJBpress2017年11月23日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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