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「鳴かせてみよう」のトランプ政権の「戦略的関与政策」で北の核ミサイルは止まるか!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ホワイトハウスでのトランプ大統領(両脇はティラーソン国務長官とマティス国防長官)

トランプ政権は北朝鮮と取引する中国など第3国の企業、金融機関、個人を米市場、延いては国際金融市場から締め出す「セカンダリーボイコット」にいよいよ踏み切る構えだ。

北朝鮮と貿易を行っている中国企業を制裁する内容を含んだ国防守権法(米国家安保予算構成の根拠となる法)が7月14日、米下院を通過した。この日、344対81で通過した国防守権法には北朝鮮のサイバー攻撃を物質的に支援した通信会社が米国防総省との事業をできないようにする内容が含まれている。

この法案を主導した議員らは「中国は北朝鮮の核開発と国際的挑発を傍観してきた」とみなし、この法が北朝鮮及び中国を狙ったものであることを隠さなかった。これに伴い、国家情報局のダン・コーツ局長は法案施行30日内に北朝鮮のサイバー攻撃と連携している外国の通信業者のリストを提出しなければならない。

(参考資料:北朝鮮の外貨獲得最終秘密兵器はサイバー部隊!

「セカンダリーボイコット」は2010年にオバマ政権がイランに適用し、核開発断念に追い込んだ米国のみが取れる「制裁措置」である。

米国はすでに北朝鮮と貿易している中国企業を対象に「ブラックリスト」を作成し、不法取引の疑いで調査をしている。容疑が判明すれば、金融制裁を掛け、国際金融ネットワークから締め出す方針だ。すでに過去3年間北朝鮮の石炭を最も多く輸入した丹東の貿易会社が北朝鮮の軍装備や武器開発関連の物品購入に関与したとして制裁対象にリストアップされているようだ。

米国の独自制裁は今に始まったことではない。トランプ大統領が「戦略的忍耐」を口にするだけで何もしなかったと扱き下ろしたオバマ政権下でも北朝鮮の企業に対して制裁を掛けてきた。

幾つか例を挙げれば、2009年8月に米財務省は北朝鮮の朝鮮クァンソン銀行(KKBC)を金融制裁の対象企業に指定している。この銀行は金正日総書記が直接管掌する蓄財窓口として知られており、中国・丹東に支店があった。制裁対象に指定されたことで朝鮮クァンソン銀行は米国金融機関との取引システムへのアクセスが遮断され、米国内の全資産が凍結された。

同年9月には大量破壊兵器開発などに関与したとして朝鮮タングン貿易会社が新たに制裁対象に追加された。朝鮮タングン貿易会社は大量破壊兵器の研究・開発を支援している北朝鮮第2自然科学アカデミーに属していた。

2年後の2011年には北朝鮮の武器輸出入業者「グリーン・パイン・アソシエーティッド」社の商取引に協力したとして、北朝鮮の金融機関「バンク・オブ・イーストランド」(別名ドンバン銀行)を新たに金融制裁対象に指定された。米財務省によると、同銀行は07年と08年、グリーン社とイランのメリ銀行、セパ銀行などとの商取引に協力。制裁を逃れるためグリーン社を代行して資金の支払いなどを行っていた。

また2015年には北朝鮮がソニーの米映画子会社に対しサイバー攻撃を行ったとして、コリア・マイニング・デベロップメント・トレーディング・コーポレーション(KOMID)、コリアン・タングン・トレーディング・コーポレーションが制裁対象に指定された。

さらに同年10月には「ヘソン貿易会社」など2社が新たに制裁対象に加えられた。直前には米国務省が「イラン・北朝鮮・シリア非拡散法」を違反した容疑で北朝鮮の第2連合貿易会社を制裁対象に指定した。その3か月前には北朝鮮の「遠洋海運監理会社(OMMC)」と業務提携し、武器取引に関与していたシンガポールの船舶会社「SSC」が制裁対象に指定され、「SSC」が保有している船舶「ダンライト」の資産が凍結された。

任期最後の年の2016年には北朝鮮に対して包括的で強力な制裁を規定した法「2016年対北制裁と政策強化法(H.R.757)」が正式に発効されている。

この法は北朝鮮だけを制裁対象とする法で、核とミサイル開発、サイバー攻撃、人権侵害を行っている金正恩政権の金の流れを断ち切ることに焦点を合わした法律である。北朝鮮の主要外貨収入源である鉱物輸出を厳格に制限し、北朝鮮の関連船舶への検査を強化することが規定されていた。また、北朝鮮と取引、手助けする第3国の企業や個人を処罰する内容も含まれている。

同年7月には中国で運営されていた貿易会社である南興貿易会社と生必貿易会社を加えている。南興貿易会社は1990年にウラン濃縮開発に必要な装備を北朝鮮に輸出した疑いを持たれていた。さらに米財務省は人権侵害の責任者として金正恩朝鮮労働党委員長を含む党・軍最高幹部11人と政府機関など5団体を制裁対象に指定する措置も取った。

この頃からは中国やロシアなど外国企業も制裁対象にし、中国の最大通信装備企業「華為(ファーウェイ)」がやり玉に挙げられたほか、北朝鮮の大量殺傷兵器やミサイル生産技術を提供した疑いでロシアの三つの企業が制裁対象に定められた。

オバマ政権の「戦略的忍耐政策」は差し詰め「鳴くまで待とう時鳥」だが、トランプ政権の「戦略的関与政策」は「鳴かしてみよう時鳥」のようだ。どちらにせよ、外交的、経済的圧力を加え、孤立させることで北朝鮮を屈服させる政策を指すことには変わりはない。

(参考資料:国連の北朝鮮制裁決議は本当に「最強」?――核・ミサイルを止められない5つの理由

オバマ政権の8年間にわたる「鳴くまで待とう」の「戦略的忍耐政策」は皮肉なことに北朝鮮に時間的余裕を与え、核とミサイル開発を向上させる結果を招いてしまった。

トランプ政権の「鳴かせてみよう」の「戦略的関与政策」でも北朝鮮の核とミサイル開発を止められないとなると最後のオプションである軍事力の行使しか残されてない。

(参考資料:国連の新たな制裁に北朝鮮はどう出る!?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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