【シリーズ・訪問看護の現場から】難病と共に生きる〜「その人らしい生き方」に関わるために
病院で亡くなるのが当たり前になってきた今、もう一つの選択肢として再び注目が集まっている在宅医療。このシリーズでは、株式会社ケアプロ在宅医療事業部様の協力で、訪問看護の現場を、写真と看護師さんへのインタビューを通してお伝えしていきたいと思います。
●患者の意志決定に関わること
「原因不明で治療方法が確立していない病気」である難病。その中でも運動神経細胞が侵され、五感は残ったまま思い通りに体が動かせなくなる難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」は日本にも8000人以上の患者がいるといわれます。
「このような難病の利用者さんは、長期にわたって身体の状態変化が大きくなりますので、自身の意思決定が迫られる場面が多くあります」という看護師の石塚奈津さん。呼吸は、自律神経だけではなく、随意筋である呼吸筋が関係するので、ALSが進行すると、呼吸筋が次第に弱まり、呼吸困難になります。そのような状況で、人工呼吸器にするのか、それともしないのか。あるいは、食事が取れなくなる前に胃ろう(内視鏡手術で腹部につくる小さな口)を作るのか、それとも食べられなくなるまでは普通に食事し、食べられなくなった時点で点滴に移行するのか、など自ら判断しなければならないわけです。
当然のことながら、この決定は簡単なことではなく常に「これでよかったのだろうか」という迷いと背中合わせだといいます。「身近にいる、訪問看護師だからこそ、訪問中に本人や、ご家族と話し合い「どう生きるか」を一緒に考えます。迷いながら、揺らぎながら、それでもこの意思決定は、その人の生きる活力になります。そして、看護師の思いを押し付けるのではなく、その人がその人らしい決定ができるように話し合うのです」。看護師自身も、常に悩みを抱えているという石塚さんは、それでも医師や介護スタッフが一丸となって「その人らしい、生き方」を模索していくことが、明日を切り開くためのプロセスだといいます。
●地味な仕事に表れる思いやりとリスク
訪問看護の仕事の1つに、爪切りがあります。その人の好みの爪切り方を聞きながら、靴下に引っかからないようにヤスリできれいにし、巻き爪などがないか確認します。年齢が重なるに連れて、特に足の爪は切るのが難しくなり、爪も固く分厚くなってしまいます。
足の先まで、看ることは看護師にとって、大切な仕事だといいます。一見地味に見える仕事ですが、糖尿病などの場合、足のささいな傷から壊死してしまい、足を切断しなければならないケースもあるといいます。
●難病への取り組み
2015年施行の「難病医療法」では、(1)患者数が人口の0.1%程度以下、(2)発症の原因が不明、(3)効果的な治療方法が未確立、(4)生活面への長期にわたる支障があるの4つを満たし、診断基準が確立しているものを「難病」とする基準を打ち立てました。これにより、対象となる疾患は、これまでの56疾患(約78万人)から約300疾患(約150万人)に拡大すると試算されています。医療費の自己負担も3割から2割になりますが、今までは全ての医師が行えた指定難病の新規診断が、難病指定医しか出来なくなってしまったなどの新たな問題もあります。
リハビリなどの「デイサービス」や、宿泊サービス「ショートステイ」など、介護する家族の用事や、介護疲れなどを緩和するためのサービスもありますが、特にショートステイなどは多くの施設が満床で予約が取りにくい上、介護困難な認知症は断られてしまうなど、改善すべき課題が沢山あります。在宅医療や訪問看護という方法が認知され、拡大することで「病気と共に生きていく」ための選択肢が増えていくことが望まれます。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE・教養の未来研究所)
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