なぜ日本のリサイクル率は世界ランキングで低いのか?全国トップ自治体の事例から探る
日本では、ごみを何種類にも分別している。だが、海外と比べてリサイクル率は圧倒的に低い。なぜだろうか。
日本にもリサイクル率の高い自治体は存在する。環境省は、毎年、リサイクル率の高い自治体を、人口3区分別に発表している。特にリサイクル率が高いのが、人口10万人未満の自治体だ。
ごみ排出量の少ない自治体については過去の記事(1)でお知らせした。本記事では、リサイクル率の上位10自治体と、ごみ少ないランキング上位自治体を両方見ていこう。
人口50万人以上の自治体トップ10
まず、人口50万人以上の自治体トップ10。
1人1日あたりごみ排出量の少ない自治体は次の通り。
そして、リサイクル率の高い自治体トップ10は次の通り。
両方のランキングに名を連ねている自治体は次の5自治体。
東京都八王子市(ごみの少なさ1位、リサイクル率の高さ2位)
神奈川県横浜市(ごみの少なさ5位、リサイクル率の高さ6位)
埼玉県川口市(ごみの少なさ6位、リサイクル率の高さ7位)
埼玉県さいたま市(ごみの少なさ10位、リサイクル率の高さ8位)
北海道札幌市(ごみの少なさ9位、リサイクル率10位)
東京都八王子市は、市民自ら、生ごみを資源化するダンボールコンポストや、余っている食品を必要な方へ届けるフードドライブを積極的に実施している。講演で伺った際、その姿勢に感銘を受けた(2)。
ごみの少なさでトップにランクインしている京都市、松山市、いずれもごみ削減では毎年トップに位置する先進自治体だ。
埼玉県川口市は、筆者が2017年7月から2023年6月までの6年間、廃棄物対策審議会の委員を務めた自治体だ。リサイクルプラザという施設があり、市民からリサイクル品を無償で預かり、欲しい方にお渡しする橋渡しコーナーを設置、施設見学を受け付けたり、余熱を利用したプールを市民向けに解放したりしている(3)。
人口10万人以上50万人未満の自治体トップ10
次に、人口10万人以上50万人未満の自治体のトップ10を紹介したい。
1人1日あたりごみ排出量の少ない自治体は次の通り。
そして、リサイクル率の高い自治体トップ10は次の通り。
両方のランキングに名を連ねている自治体は次の5自治体。
東京都小金井市(ごみの少なさ3位、リサイクル率の高さ2位)
東京都国分寺市(ごみの少なさ8位、リサイクル率の高さ3位)
東京都東村山市(ごみの少なさ9位、リサイクル率の高さ6位)
東京都立川市(ごみの少なさ4位、リサイクル率の高さ8位)
東京都西東京市(ごみの少なさ6位、リサイクル率の高さ10位)
こうして見てみると、東京都の西部の自治体がほとんどだ。中でも、東京都小金井市は、廃棄物行政に詳しい山谷修作氏の著書(4)でも、家庭ごみ有料化と個別収集の導入、そして「ごみ非常事態宣言」を発令した自治体の事例として紹介されている。
その後も、『循環型都市「ごみゼロタウン小金井」 ごみを出さないライフスタイルへ』というスローガンを打ち出し(5)、2022年1月1日には「小金井市気候非常事態宣言」を表明した(6)。自治体としての意思や、向かうべきベクトルが明確である。
小金井市は、生ごみの減量やリサイクルに早くから取り組んできた。生ごみ処理機の購入への補助は、2007年度から始めている(4)。
人口10万人未満の自治体トップ10
では、最後に人口10万人未満の自治体のトップ10を紹介しよう。
1人1日あたりごみ排出量については次の通り。
そして、リサイクル率については次の通り。
両方のランキングに名を連ねている自治体はゼロだった。
ごみ少ないランキングでトップ1位2位を占めている長野県南牧村や川上村は、重量の8割が水で、重量がかさむ生ごみを、自治体が回収していないため、ごみ量が少なく抑えられている(7)。
前述の山谷修作氏の著書に取り上げられている自治体は、徳島県上勝町や福岡県大木町、鹿児島県大崎町などだ。
徳島県上勝町は、日本で最初にゼロウェイスト宣言をした自治体として、全国的に知られており、国内外から視察が止まない(8)。
上勝町のごみステーションには、住民自身がごみを持ってくる。分別は45種類だ。それぞれ、いくらで売れるのか、処理にいくらかかるのかが書いてある。持ち込まれるごみの80%がリサイクルされている。
とはいえ、2019年のリサイクルによる利益は約180万円である一方、ごみ処理費用は約680万円(リサイクル費用の300万円を含む)。ただ、もしリサイクルしないで焼却処分や埋め立て処分をした場合、このごみ処理費は1700万円ほどかかってしまうそうだ(9)。日本の多くの自治体がごみを焼却処分していることを考えると、上勝町のごみ処理費用は、黒字ではないものの、コストを格段に抑えることができているといえる。
福岡県大木町も、ごみ削減の取り組みで全国に名を馳せている。ゼロウェイスト宣言は、上勝町に次いで全国で2番目におこなった。13年間でごみを60%も削減している(10)。町の中心部にごみ処理施設であるおおき循環センターがある。
徳島県上勝町と福岡県大木町に共通するのは、生ごみを焼却処分していないということだ。上勝町は、住民自ら処理し、大木町では分別回収してメタン発酵させ、液肥などの資源にしている。第二位の鹿児島県大崎町も、生ごみを資源化しており、リサイクル率は80%超。これまで14回「リサイクル率日本一」になったことのある自治体だ。
なぜ日本のリサイクル率は韓国や欧州に比べて低いのか?
OECD加盟国のデータを見ると、日本のリサイクル率はOECD加盟国の中で非常に低い。トップクラスはドイツや韓国、オランダ、スウェーデン、デンマーク、イギリスなど、欧州や韓国が占める。あんなに頑張って分別しているのに、なぜなのだろう?
かつて神奈川県の葉山町で廃棄物行政に携わっており、現在は高知県在住で『ゼロ・ウェイスト・ホーム』などの翻訳書を持つ服部雄一郎さんは「生ごみを燃やしているから」と説明している(11)。
確かに、日本のごみ焼却率は80%近く、OECD加盟国の中でも圧倒的に高い。
服部雄一郎さんは、自身のブログで次のように述べている。
お隣の韓国では、ずいぶん前に生ごみの直接廃棄(韓国の場合は当時は埋め立て)を「国として禁止する」という大胆な政策が取られたため、生ごみの資源化が一気に進みました。ごみの30~50%を占める生ごみが資源化に回れば、リサイクル率は大幅アップします。日本だって、生ごみさえ何とかすれば、すぐに上位国の仲間入りができるのです。
韓国は、生ごみを焼却せずにリサイクルする割合が97%を超えている(4)。1997年の廃棄物管理法改正で、2005年から生ごみの埋め立てを禁止した。そして、全国の自治体が、生ごみ再利用条例を制定し、生ごみを飼料や肥料、バイオガスなどにリサイクルしている。日本との違いは、トップダウンで、国全体で実施していることだ。日本の場合、意識の高い自治体が頑張っているものの、全体で見ると「ほとんど焼却処分している」ので、国としてのリサイクル率は上がらない。
欧州では、ごみ分別の際、生ごみや落ち葉、剪定した枝などは「Organic(オーガニック)」というくくりで分類され、資源化されることが多い。
OECD加盟国の中でもリサイクル率が圧倒的に高いドイツでは、廃棄物をごみとしてではなく、リサイクルに必要な資源として位置付けており、廃棄物を二次原料として再利用することを処理よりも優先し、安易な焼却処分を戒めているという(12)。北海道教育大学の久村聖美氏は、
生ごみを堆肥化することも国全体で取り組んでいることや、堆肥化にかかる費用を徴収されることを市民が受け入れていることも生ごみリサイクルを成功させた要因である
と述べている(12)。
80%以上が「水」 生ごみを資源としてリサイクルすること
こうして見てみると、生ごみを焼却処分せず、資源として活用する(リサイクル)することが、全体のリサイクル率を上げる一因であることが読み解ける。
一戸建てや地方ならともかく、「マンションでは無理」という人もいるかもしれない。が、筆者はマンションに住みながら、家庭用生ごみ処理機を使って乾燥させ、LFCコンポストに入れている。「ごみ」としては出していない。乾燥させる前と後とで重量を量り、これまで400kg近くの生ごみを減らしてきた。下のグラフのオレンジの部分が減らした量だ。やはり、生ごみのほとんどは水なので、これまでの累計平均で70%程度を減らしている(7)。
「分ければ資源 混ぜればごみ」
暑い夏は、生ごみを放置しておくと、臭いやコバエの発生につながる。生ごみを乾燥させる、あるいはコンポストにするなどして、できる限り生ごみを資源として活用していきたい。家庭用生ごみ処理機に対する助成金制度は、全国の自治体の60%以上が取り入れているので、検索してみてほしい(13)。
肥料も物価も高騰する今こそ、生ごみを「ごみ」とせず、資源として活用すべきだ。
参考情報
1)5月30日は「ごみゼロの日」全国で最もごみの少ない自治体は?人口3区分のトップ10発表(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023.5.30)
2)あなたの住む街はランキングに入ってる?環境省が最新(H29年)ごみ排出量発表、八王子市の優れた取組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019.3.29)
4)『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版
6)東京都小金井市「小金井市気候非常事態宣言を表明しました」(2022.8.2)
7)「水」を燃やすために1兆円 食品ロス・生ごみ処理に多額の税金が費やされる日本(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023.4.18)
8)柑橘類の皮や規格外の鳴門金時も使うゼロ・ウェイストのクラフトビール 徳島県上勝町のRISE&WIN(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020.3.16)
9)循環型農業でクラフトビール生産、ホテルでごみゼロを体験するまち(井出留美、朝日新聞SDGsACTION!、2022.11.10)
10)ごみ13年間で60%減、毎年約3千万円削減 大木町は自治体のロールモデル「燃やせば済む」からの脱却(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022.7.20)
11)焼却大国ニッポン ~ 日本のリサイクル率はなぜこんなに低いのか?(服部雄一郎、サステイナブルに暮らしたい、2020.1.23)
12)外国における生ごみリサイクル(北海道教育大学、久村聖美)
知ってほしい、リサイクルとごみのこと(社会対話・協働推進オフィス、国立環境研究所、2017.11.30)
持続可能な日本の食料システムのために 地方の事例と『せかいのおきく』が示すもの(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023.5.3)
「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円のごみ処理減らす自治体の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021.5.30)