脱・好きな仕事探し―ー。キャリア成功の鍵は、“直感”にあり!
「会社……辞めようかと思って…。だって、好きな仕事がちっともできないんだもん。今の仕事って、自分にあってない感じなんで~」
そんな相談メッセージが教え子から届いた。
好きなことを仕事にしなさい―─。
そんなオトナたちの一言に、「好きな仕事=自分に合う仕事」とばかりに、“好きな仕事探し”シンドロームに翻弄される若者は多い。
かつて『13歳のハローワーク』(幻冬舎)の冒頭で村上龍氏は、「この世の中には2種類の人間・大人しかいないと思います。活き活きと充実感を得ながら仕事をやっている人と、そうではない人の2種類」と断言し、「好きなことを仕事にすればいい。だって嫌いなことだったら長続きしない」と書いた。
確かにいやいやながらやる仕事よりも、自分に向いた、自分が好きだと思えることをやった方がいい。
でも、実際に働いていると、最初は「嫌いだ」と思っていた仕事が好きになったり、目の前の仕事に真摯に向き合っていると、「ん? 何だか面白いな」とか、「やってみてよかった」という感覚が芽生えることがある。実に不思議なことだ。でも、そういった経験は長年働いていれば、誰しもが1度はしているんじゃないだろうか。
そもそも、「好き」という感情は、自分の意志とは無意識に湧き立つ感情。「好きな男を見つけよう!」と思ったところで見つからない。逆に、「好きだ」と恋に落ちた時に、「なぜ、好きなのか? どこが好きなのか?」を論理的に説明することは意外と難しい。
結局、好きな仕事というのは、働いているうちに見つかるものーー。そうなのだ。キャリアは常に、現在進行形なのだ。
大切なのは、「好きな仕事=自分に合う仕事」探しではなく、ちょっとでも興味を引かれる仕事に携わること。その瞬間の、“直感”を大事にする。私たちは働きながら成長する。いくつになっても成長し、考え方や価値観が変わっていくものだ。
私自身は、ただただ自分の関心のある方向に向かって歩いているだけ。「好き」とか、「嫌い」とか、「合っている」とか、「合っていない」とか、考えて仕事を選んだことは1度もない。気が付けば、空を飛ぶCAから、空模様を見るお天気キャスターになり、心模様を探る研究者になった。ただただ自分のセンサーの赴くままに、進んだまでである。
だいたい好きな仕事といっても、好きなことだけやっていればいいなんて仕事はない。好きなことをするためにはそれ以外のこともやらなくてはならない。
「お花が好き」だからと花屋で働いても、お花の世話をしているだけで仕事が完結するわけじゃない。接客もしなければならないし、おカネの計算だってしなければならない。人事部に配属になることだってあるかもしれないし、営業として取引先を回る仕事になるかもしれない。
「お菓子作りが好きだから」といってパティシエになっても、お菓子作りをさせてもらう前に、お店の掃除やら、お客さんの対応やら、ケーキの包装やらをやらされる。多くの現場は長時間労働だし、意外と賃金は高くないし、自分のケーキをお店に出すまでには時間だってかかる。
キャリア形成に重要なのは、「組織社会化(organizational socialization)」。いわば外的要因へ適応である。
組織社会化では、
・ 自らに課せられた仕事を遂行する。
・ 同僚や上司と良好な人間関係を築く
・ 組織文化、組織風土、組織の規範を受け入れる
・ 組織の一員としてふさわしい属性を身につける
ことが課題となり、 組織社会化に成功した個人は、その後は順調なキャリアを重ねることができる。
まずは自分の関心のある方向に向かって歩き出し、歩き出した先で出合った環境に合わせる努力をみる。自分の内面を大切にしながらも、同時に自分を取り巻く環境、職務、役割に適応する力を高めてみる。
言い古されたことわざではあるが、石の上にも3年なのだ。
ちなみに、私は学生や新入社員たちにいつも言っていることがある。「石の上にも3年という言葉があるから、今日目の前のあることを3年間だけでいいから、一生懸命にやってみなさい」と、そして、「どうしても苦しい、3年は無理だと思ったら、SOSを出しなさい。それは決して恥ずかしいことではないからね」と。
意外にも若者たちには新鮮に響くらしい。「今までそんなことを言われたことがなかったけど、それって大切なことだと思う」、「自分も部活で苦しい時、目の前のあることを一生懸命やったら乗り越えられて、すごい満足感を感じたことがある」といった感想を言ってくる。
ちょっとだけ踏ん張ってみて……、それでもダメなら逃げろ! その先はどうするかって? またの機会にお話しましょう!