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「あー! ごめんなさい!」「うわっちょ!」絶叫系女流棋士・渡部愛女流三段、新たな伝説を作る

松本博文将棋ライター
王手馬取り! 悲鳴をあげる渡部愛女流三段(記事中の写真撮影、画像作成:筆者)

 まずはこちらの映像をご覧ください。

「あー! ごめんなさい!」

 対局場に響き渡る、渡部愛女流三段の声。王手馬取りをうっかりしての叫びでした。

 6月5日。東京都港区、男女平等参画センター・リーブラにおいて、LPSA将棋フェス2022「企業対抗ペアマッチ」がおこなわれました。

 準決勝▲加藤桃子清麗・山田洋次アマ(リコー)-△渡部愛女流三段・武田竜治アマ(トリプルアイズ)戦は、長い中盤のねじり合いを経て終盤に。渡部・武田ペアが勝勢になったところで問題の局面を迎えます。

 1図では△6九銀と先手玉をしばっておけば、後手よし。それは渡部女流三段もわかっています。その上で、ほかにもよい順はあるのか。

 渡部女流三段は考えた末、△3七馬と指しました。駒得しながらの攻めでよさそう・・・。ですが。しかし。途端に先手からは▲5七飛という返し技がありました。

 この王手馬取りを見て、渡部女流三段は絶叫したというわけです。

「あー! ごめんなさい!」と叫んだ渡部愛女流三段
「あー! ごめんなさい!」と叫んだ渡部愛女流三段

「悲鳴がありましたね」

 解説の佐藤天彦九段も驚いた一幕でした。

 普通ならここで逆転というところですが、将棋で重要なのは悪手を指した直後。ペアを組むアマ強豪の武田さんは冷静でした。△5六桂の逆王手が崩れない返し技です。

 以下は▲5六同飛寄△5五歩▲3七飛△5六歩と進んで、差は縮まったものの、後手は優位をキープすることができました。

 ピンチを乗り切った渡部・武田ペアは準決勝、決勝と勝ち進み、優勝を飾っています。

 渡部女流三段は4年前のペア戦において、瀬川晶司六段に絶妙手を指され「うわっちょ!」と叫んだことがありました。

 今回また、新たな伝説誕生となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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