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アベノミクスは日本を貧しくする!円安で富裕層30万人が消滅のうえ、「サヨナラ日本」が加速中!

山田順作家、ジャーナリスト

■日本の富裕層は約182万人でアメリカ次いで第2位

2012年11月から始まった円安は、2013年3月の時点で、円はドルに対して約25%も切り下がったことになった。世界の経済指標はすべてドルベースだから、こうなると、統計数字も大きく変わらざるをえない。

その一つが、富裕層(HNWI :high-net-worth individual)の数である。

富裕層の動向に関しては、キャップジェミニとRBCウェルス・マネジメントが毎年発表する「ワールド・ウェルス・レポート」がもっともよく使われている が、その2012 年版によると、世界の富裕層人口は約1100万人。このうち日本人は約182万人で、アメリカの約306万人に次いで第2位となっている。

しかし、今回の円安で、日本人約182万人のうち、なんと約30万人が富裕層でなくなる可能性が出てきたのだ。

■リーマンショック以前の約150万人に戻る

どういうことかというと、富裕層の定義が、主な居住用不動産、収集品、消費財、および耐久消費財を除き100万ドル以上の投資可能資産を所有する資産家とされているからだ。100万ドルとは、ワンミリオンダラー。つまち、単純にミリオン(100万ドル)を超える資産があれば、ミリオネアー、富裕層と称されるわけだ。

このミリオネアーは、ドルなら資産額に変化はない。しかし、円だと、円高、円安で、資産額が変化してしまうのである。

現在のミリオネアーは、円に換算すれば9000万円台である。しかし、1ドルが78円台だった昨年半ばは7800万円ということになる。そこで、1ドルが100円台だった当時、2008年のリーマンショック以前を見ると、日本の富裕層は約150万人だった。

つまり、この先、アベノミクスで円安が100円台までいくとすると、日本の富裕層人口は約30万人減ってしまうのである。

■日本の富裕層が世界と大きく違う3つの点

30万人も富裕層人口が減るといっても、富裕層人口では日本は依然として世界第二位の富裕層大国である。しかし、その富裕層の実態を見ると、世界の富裕層とは大きく違う点がある。

私はここ数年、富裕層取材を続けているが、日本の富裕層が世界と大きく違う点は3つある。

それは、次の3点だ。

(1)富裕層の大半が高齢者であること

(2)超富裕層が少ないこと

(3)富裕層が国内でおカネをほとんど使わないこと

日本は資産のほとんどを老人が所有している国で、富裕層と定義される資産100万ドル以上を持つ人口のうち、30歳以下の人口はわずか1%しかいない。さらに、その富裕層の内訳を見ると、超富裕層と言われる層は世界に比べると、大幅に少ないのだ。

■日本のビリオネア(百億円)世帯数は推定で200世帯

富裕層調査の別のレポート、クレディ・スイス(世界の富裕層数ランキング、2012年10月発表)のレポートによると、純資産100万ドル以上を持つ富裕 層数がもっとも多い国はアメリカの約1100万人。日本は2位の約360万人となっている。3位はフランス(約230万人)、4位はイギリス(約160万 人)である。

これは、先のキャップジェミニのレポートと変わらない。

しかし、このレポートには、純資産500万ドル以上を持つ超富裕層数のランキングもあり、それによると、第1位は、はアメリカ(約3万8000人)で、断 トツの数を誇っている。続いて、中国(約4700人)、ドイツ(約4000人)、日本(約3400人)、イギリス(約3200人)となり、日本は順位を大 きく落としている。

クレディ・スイス「世界の富裕層数ランキング」

1、アメリカ    1102.3万人

2、日本       358.1万人

3、フランス     228.4万人

4、英国       158.2万人

5、ドイツ      156.3万人

6、イタリア     117.0万人

7、中国        96.4万人

8、オーストラリア  90.5万人

9、カナダ       84,2万人

10、スイス      56.2万人

さらに、ボストンコンサルティングの「ワールド・ウェルス・レポート」(2012)によると、資産1億ドル以上を持つ層(ビリオネア)を「超富裕層」としていて、この世帯数となると、日本は世界で15位にも入らない。

みちろん、ここでも第1位はアメリカで2928世帯、第2位はイギリスの1128世帯で、ランキング外の日本は推定で200世帯と考えられる。

■日本の富裕層数は、じょじょに減少している

日本の富裕層の実態がどのようなものか?日本には、正確な調査レポートがない。

民間シンクタンクとして知られている野村総合研究所が2005年に金融資産の保有額別のマーケティングを行い、2006年にその推計を発表したレポートが ある。その後、このレポートは2年ごとに更新されている。これが、いまのところもっともよく使われており、正確ではないかと思われる。

このレポートでは、 純金融資産の保有総額で富裕層の各世帯を分類している。そうして、富裕層を、超富裕層(純金融資産5億円以上)、富裕層(1億円以上)、準富裕層 (5000万円以上)、アッパーマス層(3000万円以上)、マス層(1000万円以上)に区分している。 

このレポートでの富裕層の定義は、不動産による資産とは別の金融資産のみで、負債を差し引いた預貯金や株式、投資信託、債券などの純金融資産の所持総額が1億円以上を富裕層、5億円以上を超富裕層としている。

では、この野村のレポートでの富裕層数はどれくらいだろうか?

2011年の調査では、 資産5億円以上の超富裕層は、その規模44兆円で、5.0万世帯。富裕層(資産1億円以上)に区分されている層は、76.0万世帯。資産5000万円~1億円の準富裕層は286.7万世帯である。

しかし、2005年の調査では、資産5億円以上の超富裕層は、その規模46兆円で、5.2万世帯。資産1億円以上の富裕層は、81.3万世帯。資産5000万円~1億円の準富裕層は280.4万世帯だった。

ということは、日本の富裕層数は、じょじょにだが減少しているのだ。

■首都圏で約10万人が富裕層マーケットを形成している

ところで、私は富裕層取材の過程で、富裕層クラブ「YUCASEE」を運営するアブラハムホールディング(株)の高岡壮一郎氏と、メイドサービスの会社(株) シェヴの社長の柳基善氏と、首都圏の富裕層の数に関して話し合ったことがある。

「富裕層といっても、資産を持っているだけで、アクティブでない方は、私たちのサービスの顧客になりません。そこで、そういう方がどれくらいいるか、いろいろ調べたんですが、首都圏で10万人前後ではないですか?」と高岡氏。

「YUCASEE」は入会資格を資産1億円としているので、だいたい、この数字は正しいだろう。

柳氏も、「港区、世田谷区を中心にメイドを派遣していますが、マーケットには限界があり、その限界は約3万世帯。人口では10万人ぐらいですね」と言った。

この10万人がアクティブな富裕層だろう。

彼らは、企業オーナー、病院経営者、貸しビル経営者、起業家などで、好奇心が強く、海外投資にも積極的で、海外にもセカンドハウスや投資物件を持っている という特徴がある。とくに、この富裕層中の最大のシェアを占めるのは中小企業経営者で、とくに「ニッチ製造業」に富裕層が多い。日本企業のサラリーマン社 長、重役は、このカテゴリーには入らない。

■富裕層が海外に出ていくので住民税収入が減少

富裕層というと、一般には「年収1000万円以上」もしくは「純金融資産3000万円以上」の層を指す。 少なくとも、一般庶民は、こうした人々を「お金持ち」と言っている。

そこで、この層を見ると、年収1000万以上の者は280万人、金融資産3000万以上は1000万人存在すると言われているが、その実に85%が東京国税局管内(東京・神奈川・埼玉・千葉等)に在住している。

こうしたプチ富裕層で、最近ブームなのが「資産フライト」と「海外移住」である。すでに、本当の富裕層(超富裕層)が資産の海外移転を終えた後のいま、最後に残ったこうした層が積極的に動き出している。この動きは、アベノミクスによってさらに加速している。

この先の日本はインフレになり、増税は必至。鎖国状態も変わりそうもない。となると、いくら働いても報われないのだから、日本で暮らす意味はないと、彼らは考えているようだ。

2月の最終週の経済週刊誌の特集でもっとも注目を集めたのは『週刊エコノミスト』の「金持ちの鉄則」。この特集の巻頭記事は、「富裕層は続々海外へ 東京・港区の税収にも影響」だ。港区では資産数億円、数十億円の富裕層が出ていくたびに、住民税が大きく減少する。すでに、この現象が起き始めていて、住 民税収入は減少しているという。

アベノミクスによる円安とインフレで、日本はますます貧しい国になろうとしている。

*この記事は、自身のサイトに書いた記事 ≪円安で富裕層30万人が消滅、富裕層の「サヨナラ日本」現象が加速!(3月3日)≫に加筆したものです。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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