アメリカが低出力核弾頭W76-2の実戦配備を発表
アメリカ国防総省は2月4日、低出力核弾頭「W76-2」が実戦配備されたことを発表しました。核問題の専門家ハンス・クリステンセン氏によるとW76-2は既存のW76-1(100キロトン級)の出力を5~7キロトン程度に抑えた改修を施したもので、今回の実戦配備ではトライデントD5潜水艦発射弾道ミサイルの弾頭をW76-2に換装し、大西洋側に配備されている戦略原潜「テネシー」の搭載ミサイルのうち数発がW76-2仕様になっていると見られています。
なおこれは戦術核の保有数でアメリカよりも優位に立つロシアとのギャップを埋めるための装備です。数で対抗するのではなく、強力な敵防空網を容易に突破し短時間で配達できる運搬手段「弾道ミサイル」の特性に意味があります。つまり新機軸なのは低出力核弾頭そのものではなく「低出力核弾頭+弾道ミサイル」という組み合わせであり、低出力核弾頭それ自体は以前から存在するものに過ぎません。
- B61戦術核爆弾(現役)
- ALCM空中発射巡航ミサイル核攻撃型(現役)
- トマホーク巡航ミサイル核攻撃型(退役)
アメリカ軍はW76-2搭載型トライデントD5以前に既に現役で2種類の低出力核弾頭(威力可変型)の運搬手段を保有済みです。トマホーク核攻撃型は今はもう退役していますが現役だったころは攻撃原潜にも搭載していたので、実はテネシーは低出力核弾頭を初めて搭載した潜水艦ではありません。戦略原潜テネシーは「低出力核弾頭+弾道ミサイル」という新しい組み合わせを初めて搭載した潜水艦というのが正しい認識です。
そしてややこしいのですが「低出力核弾頭W76-2搭載型トライデントD5潜水艦発射弾道ミサイル」は威力が抑えられており都市などではなく軍事目標への戦術用途に使うので戦術核兵器と言えますが、核軍縮条約の定義上は射程が長いので戦略核兵器に分類されます。文脈によって分類が異なってしまうので少し注意が必要となるかもしれません。条約上は戦略核兵器なので保有数に制限があり、W76-2への換装では現役の核弾頭保有数は変化しないようになっています。つまり核戦力は増えてはいません。