アメリカが低出力核弾頭W76-2の第一生産ロットを完成
アメリカは1年前のNPR2018(核態勢見直し)で決定し、先月からテキサス州アマリロのパンテックス核兵器組み立て工場で生産を開始した低出力核弾頭「W76-2」の第一生産ロットを2月22日に完成させたと、エネルギー省国家核安全保障局が2月25日に発表しました。核問題の専門家ハンス・クリステンセン氏によるとW76-2は既存のW76-1(100キロトン級)の出力を5~7キロトン程度に抑えた改修をしたものと推定されています。W76-2は2019年度末(アメリカ年度末は9月)までに初期作戦能力を獲得し海軍に引き渡される予定です。
W76-2低出力核弾頭はトライデントD5潜水艦発射弾道ミサイルに搭載されます。本来は射程1万kmの戦略核兵器であるトライデントD5を、射程そのままに核弾頭を低出力化して戦術核兵器として使用する想定になります。現状のアメリカ軍の戦術用途に使える核兵器は、戦闘機に搭載する自由落下型の核爆弾と戦略爆撃機に搭載する核弾頭型の巡航ミサイルであるため、攻撃を決断してから着弾するまでの時間が場合によっては数時間とかなり掛かってしまいます。そこでマッハ20と速度の速い弾道ミサイルに搭載した戦術用途の核兵器が欲しいというのが開発の動機です。
しかし戦術用途としてはトライデントD5の射程1万kmは明らかに過剰であり、さらには攻撃を行った場合に従来の戦略核弾頭型のトライデントD5と誤認される可能性もあります。戦術核兵器を用いた限定核戦争をする気だったのに、相手が誤認して戦略核兵器を用いた全面核戦争を誘発する可能性が懸念されています。それでもトライデントD5が低出力核弾頭の運搬用に選ばれたのは、今すぐ使える適当なものがこれしかなかったためです。
このためトライデントD5ではない戦術用途の新しいミサイルを開発する必要性が論じられていますが、具体的にはまだ何も決まっていません。しかしINF条約の破棄で中距離ミサイルを新しく開発する必要性も生じているので、今後W76-2低出力核弾頭が搭載されるミサイルの種類は増えていくことが予想されます。それは中距離弾道ミサイルだけでなく、極超音速滑空ミサイルなども候補として考えられます。