前代未聞のリクルートスーツ無料レンタル、「太っ腹」サービスは普及するか?
最近、会社説明会などの案内で「カジュアルな服装で来て下さい」と学生に周知する企業も増えている。しかしそれでもリクルートスーツは欠かせない。
就活生にとって「リクルートスーツ」が頭を悩ます1つの問題であることは今も変わっていない。
リクルートスーツは社会人になってからは着なくなる事も多く、「就活中や入社直後の限られた期間しか使わない」という学生も多い。
限られた就活時期のために2〜3万円かけてスーツを購入するのは学生にとってそれなりに負担となる。
(1万円以下の安いスーツもあるが、学生の多くが購入しているのは1.5万〜3万円程度の価格帯のスーツが多い。)
そこに目をつけた企業がある。「カリクル」というリクルートスーツの無料レンタル事業を展開するC-mindという企業だ。
2018年にサービスを開始させ、すでに今年7月時点で登録者は4000人を超えたという。
一企業のサービスを単体で紹介する事は稀なのだが、これまでになかった珍しい学生支援サービスであるため今回はこのサービスについて取り上げてみたい。
【なぜ「無料」でスーツレンタル?】
先程リクルートスーツの「無料」レンタルと書いた。基本的にこのサービスは学生からお金を取らない。
そして1日や2日の短期間ではなく、就活を始めてから終わるまでずっとスーツを借りていられることができるのだ。
途中から有料契約に切り替わったりするわけでもない。
希望する場合、就活を終えても企業への入社時期までレンタルしていても良く、インターンでの利用も認められている。
スーツを後日配送する場合には片道分の送料のみ発生するようだが、採寸会でそのまま受け取って帰るなら送料も完全無料となる。
「学生は無料」というと「企業からの広告か協賛が付いているんでしょう」と察する方も多いだろう。
もちろんビジネスモデルとしてはそうなっているのだが、スーツ自体に広告が付いているわけではない。レンタルされるスーツ自体は至って普通のリクルートスーツだ。
レンタルをする際にLINEでサービスの申込みをするのだが、このLINEを通じて企業の情報が来たり、「採寸会」で企業のパンフレットやチラシなどを渡していく計画のようだ。
ただし今はまだ試験的に運用されている段階で、「広告も特に受け取らなかった」という学生もいる。
1人1着しか借りられないという制限はあるが、学生にとって出費を抑えられる有り難いサービスであることには変わりない。
すでにリクルートスーツを持っていても「2着目もあった方が良い」と考え登録している学生は多いようだ。
【持続可能なビジネスモデルなのか?】
気になるのは、このビジネスモデルで継続的に運用ができるかどうかというところだ。
先日、学生無料の就活カフェについて紹介したが、あれは「特定の大学の近く」という事で学生のターゲッティングができるからこそビジネスとしての成功事例が出てきている。
それに対して「リクルートスーツのレンタル」では特定層の学生のみをターゲットする事は困難だ。
「ターゲッティングされていない学生を集客したLINEアカウント」をマネタイズするには、相当なユーザー数が必要となってくる。4000人が登録していたとしても、密なコミュニケーションが取れていなければ広告事業として元を取るのはかなりハードルが高いと予想される。
助かる学生は確実にいるはずなので是非続いて欲しいサービスなのだが、採寸会やその後のスーツ配送などで運営にマンパワーがかかることを考えると、かなり高コストな事業であると言える。
レンタルするスーツを繰り返し使うとしても一回転するのに1年かかってしまうという事であり、「1着のスーツが元を取るまでに何年かかるのか」という話になる。
【実は丸井も参入。有料のスーツレンタル相場は?】
参考までに、「有料のスーツレンタルサービス」の価格を調べてみた。
ECサイトでの相場としては、3泊4日で5000円〜7000円程度(送料込み)。1ヶ月レンタルすると+8000円程度になるようだが、ここまでの価格になると買ってしまってもそんなに変わらないように感じられる。
「入社まで返さなくて良い」というカリクルのサービスがいかに太っ腹運営なのかと思い知らされる結果となる。
これに比べると少し割安なのが、丸井がスタートさせたスーツレンタルサービス「COCONi」(ココニ)だ。
女性限定だが月額制で4320円/月(送料込み)となっており、仮に2ヶ月で就活が終わるなら9000円弱の支出に抑えられる。
かなり割安だが、おそらく丸井としてはそこまで利益を見込んでいる事業ではなく将来の顧客との接点を持つ目的が強いようだ。(エポスカードでのみ支払いを受け付けているという)
こちらについては丸井の店舗で試着できるというのも強みだ。
ただ、レンタル期間の延長で支出が増えるというのは、いつ内定を取れるかわからない学生の視点ではそれなりにプレッシャーだとも言える。それが相場より割安であったとしても、である。
丸井の調査では「2ヶ月しかスーツを使わなかった学生が6割を超えた」というデータがあるようだが、結果的に2ヶ月しか使わないことと、「2ヶ月で終わらせる事を始めから想定する」事は全くの別だ。
興味深い事業ではあるが、内定の出る時期を就活生本人がコントロールできるわけではない。
思いがけず就活が長期化してしまった場合、「買った方が安く済んだ」という事にもなりかねない。
【ポイントは協賛メリットを見いだせるか】
現状、カリクル以外にリクルートスーツの無料レンタルを行っている企業は筆者が調査した範囲内では存在しなかった。真似しようにも採算性を気にして迂闊に参入できないというのが実情だろう。
今までは積極的にマネタイズしてこなかったカリクルだが、初年度ですでに登録4000人を超えたというのは非常に興味深い。
しかしサービスとして続いていくには、協賛した企業に実際に学生が入社するなど「協賛メリット」をどこまで生み出せるかどうかが鍵となるだろう。
この実績を持って来年以降どう運用されていくのか、サービスとして継続していけるのか見守っていきたい。