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不条理に奪われた生命、刻まれる時の音が教えてくれること

工藤啓認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長
生命(いのち)のメッセージ展(筆者撮影)

生命(いのち)のメッセージ展」について知ったのは、ある少年院の院長からだった。少年院の少年が東京都日野市にある展示室に行くことはできないが、その少年院でも展示会が開催されるので、その様子を見に来ませんかというお誘いをいただいた。

「生命のメッセージ」とは

人が暴力的に生命を奪われることなく精一杯生きることが出来る社会を夢見ています。

戦争はない、殺戮はない、犯罪はない、被害者の生まれない世界。

しかし現実には多くの生命が犯罪や社会の不条理のもとに生命を断ち切られています。

ひとつとして忘れることの出来る生命はありません。

彼らの生きた証を私たちがたどれば亡くなった生命がそのことを教えてくれるはずです。

メインの展示は犠牲者一人ひとりの等身大の人型と彼らの遺品の「靴」。靴は彼らの生きた証の

象徴です。

人型には一人ひとりの素顔や遺された家族の綴ったメッセージが添えられています。

多くの人々が現実を知り生命の重さを考えてもらうために、日本全国、そして世界各地へと

巡回展をしています。

私たちは人型となった犠牲者たちのことを、生命の大切さを伝える「メッセンジャー」と呼んでいます。

一人でも多くの人が「メッセンジャー」に出会って頂きそのメッセージをうけとめて頂きたいと

願っています。

出典:生命のメッセージ展ウェブサイト

学校の跡地を利用した教室では、研修等も行うことができる。(筆者撮影)
学校の跡地を利用した教室では、研修等も行うことができる。(筆者撮影)

しかし、どうしても都合がつかず、いつかは行ってみたいと思っていたところ、偶然にも生命のメッセージ展の常設展示室「いのちのミュージアム」に伺うことができた。

日野市の小高い丘の上に並ぶ団地群を抜けると、小学校の跡地を利用して設立された日野市立百草台コミュニティセンターがある。下駄箱でスリッパをいただき、階段を昇った3階に展示室があった。

そこには不条理に生命を奪われた個人と同じ身長に模られた白い人型のボードに、亡くなられた故人の写真と、ご家族などからのメッセージが張られている。そして、足元には故人の靴がそっと置かれている。

こちらに写真があります

部屋には数えきれないほどのボードが設置され、各ボードにはそれぞれ小さな時計がかけられている。静寂の教室に刻まれる無数の時の音、ボードに貼られた個人の写真と足元にそっと置かれた遺品としての靴。

飲酒運転の車に奪われた生命、同級生に奪われた命、メッセージには愛する家族が突然奪われた理由、悲しみや怒りの言葉が綴られる。夢をかなえることも、幸せな生活を続けることもかなわなかった故人の生命を無駄にせず、同じ事故や事件が起こらないように祈る言葉の数々に、呼吸が苦しくなっていく。

一つひとつはとても小さな時計の針が刻む音が重なり、教室中を埋め尽くすほどの大音量となって、そこにいる生命ある人間の心を突き刺してくる。

整然と並べられたボード(生命)を眺め歩くと、少しずつ自分の目線の上にあったものが、徐々に下がってくる。故人の身長に合わせたボードの高さが自分より小さくなり、最後には私自身の子どもたちよりもずっと小さな高さになっていく。

教室の外には、保育園でうつぶせのまま息を引き取った、小さな小さなものもあった。まさにこれから「生きる」ことを始めていく幼児の写真に、ひとりの親として胸が強く痛んだ。

いま、事件や事故のみならず、病気や生きづらさと生命の関係を考えさせられる報道が続いている。生きたいと願うひとたち、明日も生きられるはずなのに奪われてしまった生命の傍にいるひとたちを、もし身近に感じる機会がないということであれば、ぜひ、「いのちのミュージアム」に足を運ばれてみたらどうだろうか。

刻まれ続ける時の音に耳を傾け、生命の重さを感じることで、ひとの尊厳や、他者とかかわることの大切さを改めて考えるきっかけを持ちえる空間がここにはある。

ご自身も交通遺児であり、犯罪被害者等支援に取り組む菅原直志東京都都議会議員に、本機会をいただいたこと、感謝いたします。

認定特定非営利活動法人育て上げネット 理事長

1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。Bellevue Community Colleage卒業。「すべての若者が社会的所属を獲得し、働くと働き続けるを実現できる社会」を目指し、2004年NPO法人育て上げネット設立、現在に至る。内閣府、厚労省、文科省など委員歴任。著書に『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析』(バリューブックス)『無業社会-働くことができない若者たちの未来』(朝日新書)など。

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