ディープインパクトを取り巻く名騎手3人、ルメール、横山典弘、武豊の逸話
唯一2度先着した騎手
今週末、中山競馬場で弥生賞(G II)が行われる。
2020年からディープインパクト記念のサブタイトルが付けられたこの皐月賞(GⅠ)の前哨戦だが、05年にはディープインパクト自身が見事に勝利している。同馬はその後、無敗でクラシック三冠を制すと、古馬になってからは天皇賞・春(GⅠ)、ジャパンC(GⅠ)、有馬記念(GⅠ)も優勝。今でもこの馬を日本競馬史上最強馬と言う人は多い名馬である。
そんな駿馬だが、14戦の現役生活の中で2度だけ他馬に先着を許した事がある。1回目はハーツクライに敗れた有馬記念で、2度目がフランスへ遠征して挑んだ凱旋門賞(GⅠ)。そして、その2度の敗戦時に、いずれもこの最強馬に先んじてゴールに飛び込んだのが、クリストフ・ルメール騎手だった。
有馬記念を勝つ前に、私は彼と香港で話したのだが、その際、後のJRAリーディングジョッキーは次のように語っていた。
「前走のジャパンCでは驚異的な時計(アルカセットの2着で、当時レコードとなる2分22秒1で走破)で走れたように能力があります。以前は腰が弱くて前に行けなかったそうですが、僕が現在乗っている限り、そんな弱さは感じないので、前で競馬が出来るはずです。小回りの中山コースでディープインパクトより早目に仕掛ければ勝つチャンスは充分にあると考えています」
無敗で三冠を制したディープインパクト一色のムードが漂う中、彼はハッキリとそう言うと、それを実践してディープインパクトに初めて土をつけ、競馬ファンをアッと言わせた。ちなみに凱旋門賞ではプライドに乗って2着になり、3位入線(後に失格)のディープインパクトに先着したのだが、その時は「ディープさえ負かせば勝てると思ったのに、前にもう1頭いた」と苦笑しつつ言ったものだ。
最強馬相手にも諦めなかった騎手
さて、ディープインパクトの強さの前に多くの騎手達がひざまずく事となったが、彼等は必ずしも常に白旗をあげていたわけではない。
そんな思いを強く感じさせたのが横山典弘だ。アドマイヤジャパンでディープインパクトに挑んだ弥生賞では単勝1.2倍の後の三冠馬を相手にインから早目に抜け出し、大番狂わせを演じたかと思えた。最後は“あの”末脚に屈したものの、その差は僅かクビ。ディープインパクトの12勝の中で、タイム差無しで走った相手は唯一この時のアドマイヤジャパンだけだった。
アドマイヤジャパンは他に菊花賞(GⅠ)でも横山典弘を背にディープインパクトの2着となったが、通算成績は10戦して2勝しただけ。やはり横山とタッグを組んで勝利した京成杯(GⅢ)が主な勝ち鞍という馬である。また、ディープインパクトが天皇賞・春を制した時の2着だったリンカーンも横山が騎乗していたが、同馬も最後までGⅠは勝てずにターフを去っている。これらで再三最強馬を脅かしたのは、鞍上の手綱捌きによるところが大きかったのは疑いようがないだろう。
この23日には56歳となった彼は、25日に行われた中山記念(GⅡ)で7番人気のマテンロウスカイを見事に優勝に導き、自らが持つJRA重賞勝利騎手の最高年齢記録を更新した。これからもまだまだ活躍が楽しみなジョッキーだ。
最強馬とレジェンドのその後
そして、ベテランの活躍という意味では武豊のそれも注目される。弥生賞にディープインパクト記念の副題が付けられたのは、冒頭で記したように20年だが、いきなりその年にディープインパクト産駒のサトノフラッグを優勝に導いたのがこの天才騎手。さすがの千両役者という騎乗ぶりを披露した。
そんなレジェンドは今年の弥生賞ではサンライズジパングに騎乗予定。同馬の父はキズナであり、そのまた父がディープインパクトという血統だ。前走の若駒Sを制してここに駒を進めて来たのはディープインパクトと同じ臨戦過程となるが、果たして今回はどんな結果が待っているのか、期待したい。
(※残念ながらその後、サンライズジパングの出走回避が決まりました)
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)