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SXSW2022メタバース上で日仏協演ウクライナ支援の輪

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
ウクライナ平和を願ったバーチャル・チャリティイベント(写真提供:m1n0t0r)

 世界最大級のクリエイティブの祭典SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト、以下サウスバイ)がメタバース上に米オースティンの街を再現した。初の試みとなった昨年ほどのインパクトは残さなかったが、唯一無二の会も企画された。それが、日仏らのVRパフォーマーたちが集い、ウクライナ平和を願ったバーチャル・チャリティイベントだった。

今年もメタバース上にオースティンの街を構築

 音楽、映画、テクノロジーが融合するクリエイティブの祭典としてサウスバイは毎年3月に米テキサス州オースティンで開催される恒例イベントだ。今年は3年ぶりに現地開催が復活し、オンラインと並行した初のデュアル開催でもあった。2022年3月11日から20日まで10日間にわたって、世界中の参加者がオースティン現地またはオンライン上に集結し、音楽ライブから映画上映、ビジネスカンファレンス、ネットワーキングの場などが提供された。

 さらに、VRプラットフォームの「VRChat」内にワールドと呼ばれるVR空間「SXSW XR Experience World」(サウスバイ・エックスアール・エクスペリエンス・ワールド、以下、サウスバイXR)も期間限定で出現した。今年もフランスのVRスタジオVRrOOmがサウスバイに協力し、デザイン・制作を担当。リアルのオースティンの街にあるコングレス・アベニューとレッドリバー地区がデザインリニューアルして再現され、1年ぶりに自前のアバターで体験することができた。

米オースティンの街がサウスバイXR内で再現された。(写真提供:SXSW2022)
米オースティンの街がサウスバイXR内で再現された。(写真提供:SXSW2022)

 昨年は大成功と言えるもので、このサウスバイXRの賑わいぶりを大いに実感できた。今年はリアル会場とXRに参加者とスタッフが分散されたことが要因となったのか、集客度の高いプログラムが見当たらなかったことが残念ではあった。だが、今あらゆるビジネスカンファレンスで叫ばれている「Web3」「NFT」「メタバース」を座学で学ぶだけでなく、サウスバイはこれらの入り口としてコミュニティの場を継続して作り出していることは評価に値する。

 プラスして、サウスバイらしさを今回もしっかりと残していた。サウスバイらしさとは、あらゆるクリエイターに機会を創出することにある。メタバース上でもそれを実現できることにこそ価値があるはずだ。それを具現化したものがウクライナ平和を願ったバーチャル・チャリティイベント「United for peace in Ukraine」だった。最終日に迫った日本時間3月19日の朝、静かに始まった。

ウクライナのクラブシーンで活躍するアーティストたちに焦点

 会場はオースティンの街から離れて、バーチャル上のフランス・パリのとある建物最上階の屋上だった。通りの向こう側にはエッフェル塔が見える。そこには青と黄色のウクライナの国旗が掲げられていた。プライベート空間のような会場内にはDJブースが設けられ、音楽が鳴り響く。アバターに扮した参加者が集まっていた。

 聞こえてくる言語はフランス語が多い。聞けば、主催者はサウスバイXRのデザイン・制作を担当したVRrOOmら。会場を提供したのは、パリを拠点とするデジタルクリエイターで今回のイベントでDJを担当した「m1n0t0r」だった。

 m1n0t0rが語り始めてくれた。

「メタバース上で人を集めて平和的に抗議し、特にこの困難な時期にウクライナの人々を支援する国連UNHCR協会への寄付を集めるために、VRrOOMと、Digital Rise、Denis Semionovらと一緒に企画した」と。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻を受けて、急遽立ち上げたイベントだったのだ。

 焦点を当てたのは、ウクライナのクラブシーンで活躍するアーティストたち。だが、今はウクライナ軍に入隊し、国を守るアーティストもいる。ポーランドで難民となったアーティストも、家族と共に地下に避難しているアーティストもいる。m1n0t0r はこれらウクライナ人たちによって作られた楽曲をDJミックス(選曲)して届けた。

SXSW2022ウクライナ支援イベントのポスター(写真提供:m1n0t0r)
SXSW2022ウクライナ支援イベントのポスター(写真提供:m1n0t0r)

 m1n0t0rはこれまでもメタバース上のチャリティイベントを積極的に働きかけてきたという。日本で言うところの「24時間テレビ」にあたるフランスの「Telethon」では、昨年12月に実施されたデジタルライブ版で歌手やYouTuber、プロゲーマーなどの協力参加によって、1500万ユーロの寄付を集めた。日本円に換算すると、20億円にも上る。予想以上の反響だった。

 地域や国境を越えて自宅からも参加できるメタバース上ならではのチャリティイベントのかたちだ。今回のウクライナ支援もまさにバーチャルでオースティンとパリを繋ぎ、そして、実は日本もその輪に入った。

 日本の参加者の中には、『カソウ』舞踏団の団長として活動するyoikami(よいかみ)の姿もあった。彼が昨年、サウスバイが公式企画したアバター・ダンスコンテスト(正式名称「XR Avatar Costume Contest+Dance Contest」)で優勝した日本人VRパフォーマーであることがわかると、即興のダンスバトルまで始まった。ウクライナ平和を願いながら日仏協演のパフォーマンスが披露されたこの時間は会場の参加者の想いを1つにまとめていたのではないか。その場にいた筆者はそれを強く感じ取った。

 来年も引き続きサウスバイXRが開催されるかどうかは未定だが、クリエイター同士の輪が広がり、活動のチャンスに繋がる場がメタバース上でも作り続ける意味はあるはずだ。

 (以下、ウクライナ支援バーチャルイベントで急遽企画されたダンスバトルの動画はm1n0t0rのTwitter投稿から確認できる)

トップ写真:m1n0t0r/DJVR アバタークレジット:MiguelAngelo Rosario

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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