「年収400万円が高給取り」は本当か、住宅やクルマのローンの審査は通る?
高給取りと聞いていくらの収入をイメージしますか? 1000万円、800万円を思い浮かべる人もいるかもしれません。会社員や公務員など勤め人の場合、給料が勤務先によって決められています。最近の若者は年収400万円が高給取りであると認識している、というニュースが話題になりました。日本という国が貧しくなったと感じた人もいるようです。実際には住まいの地域により年収400万円の価値が変わりますが、どのような生活を送ることができるのか検証します。
年収400万円は日本国内では高給なのか
国税庁が集計している「令和2年分民間給与実態統計調査」の調査結果報告によると、働いている人の平均給与は433万円となります。「年収400万円」はほぼ平均的な給与水準と言えますが、むしろやや下回っており、高給取りと表現するのは適切ではなさそうです。しかし、性別や雇用形態の違いなどを見ていくと、「高給」ととらえることもできます。
男女別の平均年収を見ると、男性が532万円、女性が293万円となります。男女雇用機会均等法、同一労働同一賃金などありますが、平均値は依然として男性が高く、女性が低くなっています。
正規と非正規に分類すると、正規労働者の平均年収は496万円、非正規労働者の平均年収は176万円となり、さらに男女に分けると正規・男性550万円、正規・女性384万円、非正規・男性228万円、非正規・女性153万円となっています。
「400万円」を上回るのは正規の男性だけで、非正規や女性の労働者からみれば「高給取り」といえるでしょう。また、企業規模によっても給与水準は違います。従業員5000人以上の事業所ですと平均年収は男性522万円、女性248万円なのに対し、従業員5人未満の事業所では男性376万円、女性215万円です。
また、業種によっても平均給与は異なり、最も高い「電気・ガス・熱供給・水道業」は715万円、最も低い「宿泊業・飲食サービス業」は251万円となっています。このように平均年収「400万円」を上回る企業は限られており、正規の労働者でも勤め先によっては「高給取り」といえるかもしれません。
年収400万円の手取りはどうやって計算する?
さて実際の暮らしぶりはどうなのか、手取り金額から見てみましょう。400万円を12ヶ月で割ると、一月あたり33.33万円となります。この金額は「支給額」とか「額面」と呼ばれる数字です。
毎月の支給額(交通費を含む)が33万円であると仮定した場合、社会保険料の計算根拠である標準報酬月額は34万円のテーブル(給与月額33~35万円相当)に該当します。
標準報酬月額34万円の場合、健康保険料(東京都)が16,728円、厚生年金保険料が31,110円、源泉徴収税額が7,820円、住民税が14,967円となり、これらを差し引いた後の259,375円が手取りになります。つまり、支給額の79%が実際に使える金額です。※健康保険料額は都道府県により異なります。
年収400万円の生活水準は?
手取り約26万円では、実際にどのくらいの生活感になるのでしょうか。
総務省の家計調査(調査年月2021年7~9月)によると、働く単身世帯の手取りは平均27.4万円と、年収400万円の手取りとかなり近い金額です。そこで月の支出、つまり生活費のデータも近いと仮定してみていきます。
月の支出の内訳は、社会保険料38,871円、食料37,794円、住居23,193円、水道・光熱8,293円、被服4,989円、保健医療6,643円、通信6,824円、教養娯楽18,495円、交際費12,390円、その他。合計15.8万円で、差し引き11.6万円が毎月の黒字といえます。手取りの4割以上を貯蓄に回せる計算になりますが、「住居」費に注意が必要です。家計調査の対象者には実家暮らしや持ち家の人などが含まれており、一人暮らしの場合にかかる家賃よりもかなり少なく出ているといえます。実際にはこの2~3倍程度(5~8万円)かかると考えておくと良さそうです。その場合であっても家計は黒字を保てることがわかります。結婚や出産などで養う人が増えるととたんに出費はかさみますが、単身者であれば老後に備えた積立などにお金を回す余裕もあるでしょう。
年収400万円だと住宅ローンはいくら借りられる?
さて年収の高い・低いが大きく影響するものに、ローンの借入限度額があります。
年収400万円だと住宅ローンでいくらぐらい借りられるでしょう。銀行など金融機関は審査基準が公開されていませんので、公表されている国の住宅ローン「フラット35」をみていきます。
フラット35は「年収400万円」未満か以上かで借入限度額が大きく変わります。400万円未満だと、年間の返済額は年収の30%に制限されますが、年収400万円以上であれば35%まで拡大されます。つまり年収400万円以上あれば返済能力は比較的高いと判断される、とも言えます。この基準に従うと、年収400万円なら年間返済額は140万円まで借りられます。毎月11.7万円相当まで払い続けられると判断されるわけです。
頭金なしで35年ローンを組む場合、固定金利1.56%(現在の最多金利帯)とすると、最大3,780万円の借り入れが可能です。
なお用意できる頭金の金額によっては金利優遇も受けられ、金利を抑えられれば借入限度額はさらに増えます。ただし借りられる金額が増えたとしても返済できるかどうかは別問題です。無理のないよう返済計画をしっかり立てることをおすすめします。
年収400万円なら自動車ローンにも障害なし?
他にはマイカーが必要であれば、自動車ローンなども十分支払えるでしょう。銀行のカーローンは金利が低いのですが、審査が厳しく時間がかかるので、カーディーラー経由でのローン利用が簡単です。自動車価格300万円を借りた場合、金利4%で返済期間5年なら毎月の返済額は56,096円、残価設定型ローンなら5年後の残価設定150万円で毎月33,124円となります。ただしマイカーには駐車場代や自動車税、自動車保険など維持費もかかるので、ローンを組む場合は慎重な判断が必要です。
奨学金を借りていた場合は返済も可能でしょう。日本学生支援機構の利息つき貸与型奨学金を総額500万円借りた場合、20年かけて返済するのですが、現在の金利は変動で0.268%、卒業後の毎月返済額は21,398円(20年返済の場合)です。都市部でなければカーローンと奨学金返済の両立もできそうです。
年収400万円の価値は地域によって異なる
しかし中には家賃や物価などの生活コストが高い地域もあります。大手の住宅情報サイトを確認すると、東京都内の人気駅だと単身者向けで家賃10万円を超える物件も目立ちます。また2020年の小売物価統計調査によると、東京都の生活費は全国を100として、食料品が103.4、教養娯楽は104.9、住居費は134.5にのぼります。東京、特に23区内で生活するには年収400万円は苦しい金額となるでしょう。このように「年収400万円」の価値は立場や地域などの要素によって変わります。ただ生活にゆとりある「高給取り」というには心もとない金額といえるのではないでしょうか。学生と話していると、多くが経済的に豊かな生活を諦め、働くことに価値を見出せないでいる印象を受けます。若者が十分な収入を確保できなければ、少子化がさらに加速し、将来の年金原資である社会保険料の絶対額も増えません。若者の収入を増やしていくような政策や支援が求められると言えるでしょう。
※参考資料
家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)9月分及び7~9月期平均
【2022/2/16追記】日本学生支援機構の利息つき貸与型奨学金の金利と卒業後の毎月返済額を修正しました。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】