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森保ジャパンの4-3-3が凡庸に見える理由。2022年のW杯イヤーの鍵は久保、三笘、田中碧?

小宮良之スポーツライター・小説家
日本代表の指揮をとる森保監督(写真:松尾/アフロスポーツ)

 12月7日、森保ジャパンは来年1月21日、ウズベキスタンとのトレーニングマッチに向けたメンバーを発表した。メンバーは初招集の荒木遼太郎(鹿島アントラーズ)、瀬古歩夢(セレッソ大阪)などを含めて国内組のみ。Jリーグ全体がオフに入るため、選考選手には「コンディションを維持してほしい」という合図だろう。

 代表の主力は欧州組だが、この試合で戦力の底上げができるか。すでに2022年の戦いは幕を開けている。1月27日には、いよいよカタールワールドカップ出場を懸けた中国戦だ。

 W杯イヤー、森保ジャパンはどう戦うべきか?

4-3-3が凡庸に見える理由

 カタールワールドカップ・アジア最終予選。森保ジャパンはオーストラリア戦で1-0とどうにか勝利を収め、土俵際で残っている。

 この一戦で、森保一監督は4-3-3を採用した。その結果自体は評価できるが、プレー内容が改善されたわけではない。遠藤航をアンカーとしてバックラインの前に置いて守備を分厚くし、前線からのプレスの強度を高めたことで守備の強度が上がり、変更は功を奏したが…。

 スキルが低いにもかかわらず、パスをつなごうとしたオーストラリアとのかみ合わせが良かったに過ぎない。

 森保式4-3-3で一番似ているのは、南アフリカワールドカップで岡田武史監督が採用した4-1-2-3だろう。当時は阿部勇樹をアンカーに置くことで守備を補強。一方で、前線の大久保嘉人、松井大輔にも激しいプレッシングと帰陣が要求され、チームの構造が守りから作られていた。

 当時は最善の策だったが、10年以上も月日が経っている。しかも、アジアのかつてよりレベルダウンしたオーストラリアにホームで使って勝っても、明るい希望は見いだせない。4-3-3に囚われたベトナム、オマーン戦は、勝利したものの戦線が延びすぎ、内容はむしろ悪化していた。

 森保ジャパンの4-3-3が凡庸に見える理由とは――。

守備的な戦術

「いい守りがいい攻めを生む」

 森保ジャパンの論理は、そこに土台がある。事実、ディフェンス面の人材は、酒井宏樹、吉田麻也、冨安健洋と世界に比肩。その堅固さを軸にし、チームを作るのは、一つの手立てだろう。東京五輪代表も、同じ構造だった。

 ただ、ワールドカップ最終予選は各選手のコンディションの問題もあって、守備に乱れが出ていた。そこで4-3-3にして、ボランチの遠藤をアンカーに配置。センターバックとトライアングルを組ませ、守備を補強したのだろう。一方で全体のプレッシング、リトリートの強度を上げ、システムを運用している。

 一方で攻撃に関しては、個人のスピード、スキルに頼ったところが大きい。

 全体的に後ろが重たいチームになっていることで、前線と距離が間延びしやすく、中盤はスペースを分担できず。パスで緊密な距離感を選手同士で取れないため、ネガティブな選択でセーフティ過ぎてしまうか、無理に出そうとして狙われる。結局、攻撃はパス一本で単発になりやすく、再び攻撃を受け、それがストレスを生む悪循環だ。

 そもそも、4-3-3を攻撃的に運用するのは難しい。各選手が「ボールを失わない」という高いスキルが求められるし、サイドには相手を圧倒するアタッカーが不可欠で、組織としてもトレーニングされている必要がある。さもなければ、守備を分厚くした4-1-2-3の”旧式”リアクション戦術として運用するしかないのだ。

 では、森保ジャパンは人材不足なのか?

久保、三笘、田中、橋本がキーマンか

 10,11月の代表戦はケガで招集されなかったが、久保建英は4-3-3の申し子と言える。右サイドから左足を用いて侵入し、コンビネーションを使って相手の守備網を引きちぎれる。まるで乱舞する刃だ。

 気になるのは、森保ジャパンはオーストラリア、ベトナム、オマーン戦と、先発に左利きが一人もいなかった点だろう。

 ボール回しが凡庸で、意外性が乏しかった。右利きだけだと、どうしても体を開かないといけないだけに、右回りでのボールが少なくなる。左サイドバックに中山雄太が入るだけで、簡単にボールが出るようになったのは偶然ではない。タッチラインを味方に幅を広く使うことで、斜めの角度での左足パスが通るのだ。

 また、左サイドの三笘薫は逆の左サイドから中に入り込み、ゴールに迫れる。そのドリブルは「うまい」のレベルを超え、相手に脅威を与えられる。オマーン戦の決勝点もそうだったが、その突破がゴールに直結する。

 4-3-3は久保、三笘のような崩し役が不可欠だ。

 そして田中碧は川崎で証明していたように、難解な攻撃サッカーを引き回せるだけのインテリジェンスの持ち主と言えるだろう。それだけでなく、身体的にも恵まれ、相手のラインをブレイクできるし、味方のラインを守れる。ダイナミズムをチームに持ち込める。

 また、インサイドハーフの一角としては橋本拳人を強力に推す。田中と同じく、チームにダイナミズムをもたらせる。ロシアでは昨シーズン、チームのポイントゲッターとしても活躍し、プレーの幅を広げている。アンカーも務められる選手で、長谷部誠と同じく周りを使って攻守を動かせるし、一対一でボールを奪う能力は遠藤航と比べても何らそん色はない。

 4-3-3をアグレッシブに運用するための人材はいるのだ。

ボールありきの戦いを

 もっとも、森保監督は「ボールありき」の戦い方を目指していない。それが岡田ジャパンの回帰になったわけで、攻撃は「伊東純也のスピードが戦術」に近く、とにかく彼にめがけてボールを入れる。徹頭徹尾カウンタースタイルで、たとえ失敗しても守備をすぐにセットできるメリットはあるわけだが…。

 しかし、日本サッカーの活路はやはり「ボールありき」にある。肉体的にそこまで屈強ではない一方、ボールスキルが高い選手は多い。ボールを大事にした戦いに没頭してはまずいが、そこを切り捨てたら、世界の強豪には太刀打ちできないだろう。

「世界では攻めてもらえるから、縦に速い攻撃、カウンターがはまりやすい」

 そんな推測もあるが、本気で押し込まれたら攻撃どころではないだろう。先制された時点で、完全に後手に回る。巻き返すことはほぼ不可能だ。

 もし4-3-3でボールを握れないなら、4-2-3-1に戻すべきだろう。2018年、森保ジャパン発足当時のほうが、サッカーの兆しが見えた。ウルグアイをも破ったチームを、アップデートすることはできないか。

        古橋亨梧(上田綺世)

        鎌田大地(南野拓実)

三笘薫(中島翔哉) 久保建英(伊東純也、堂安律)

    田中碧(守田英正)橋本拳人(遠藤航)

中山雄太(旗手怜央)   酒井宏樹(菅原由勢)

  冨安健洋(伊藤洋輝)  吉田麻也(板倉滉) 

        権田修一(谷晃生)

 これだけの人材がいるチームは、アジアでは一つもない。例えば両翼は守備の強度を考えると難しい選考だが、個でもコンビネーションでも崩せる選手で戦う道を模索すべきだろう。どこかでリスクを犯し、チームを強くしていくべきではないか。

 凡庸さは、「魅力的」に変わるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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