封じ手はまさかの同飛車大学? 藤井聡太挑戦者(18)が強攻含みに指し掛けとして王位戦第4局1日目終了
8月19日。福岡県福岡市・大濠公園能楽堂において第61期王位戦▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太棋聖(18歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。
昼食休憩後、木村王位は角を四段目に上がりました。横歩を取った藤井挑戦者の飛車に、そっと触るかのような柔らかな手でした。
「横歩三年のわずらい」
という言葉があります。藤井挑戦者は手をこまねいていると、飛車を生け捕りにされます。
藤井挑戦者は1時間27分考え、15時頃、じっと飛車を元の筋に戻りました。それから1筋の歩を成り捨てたあと、じっと自陣二段目に打って収めました。局面が長引けば、1歩得が活きてきます。
38手目。木村王位は藤井挑戦者の飛車の背中から歩を打ちます。加藤治郎名誉九段(1910-96)の分類によれば「蓋歩」(ふたふ)という手筋。飛車を封じ込めて、そう簡単には自陣に引かせないという手です。
ここで再び藤井七段が考え始めます。17時を過ぎ、そろそろ18時の封じ手の時刻を意識する時間となります。
ABEMA解説は橋本崇載八段と山口恵梨子女流二段。橋本八段はB級2組2回戦では藤井棋聖(当時七段)と対戦しました。
橋本八段は形勢が傾いたあと、終局までずっと相手の仕草を観察していたそうです。
藤井棋聖が38手目を考慮中、橋本八段が声をあげました。
橋本「あっ、でもなんか、もぞもぞしてるよ。もぞもぞもぞもぞしてる。あっ、指すよ、これ。癖わかったもん。自分の将棋そっちのけで仕草を見てたから。あまりにも将棋が必敗過ぎて。ああ、これ指すわ。ほら、ちょっと見て。ほら、右手がいまちょっと。指そうとする手をちょっと抑えて」
橋本八段の言う通り、藤井棋聖は盤上に右手を伸ばします。そして38手目、角筋を開けました。
山口「どうして当てるんですか、先生! すごい!」
橋本「いや伊達に自分の将棋を犠牲にして一日、この天才を観察してたわけじゃないんで。指す前に手をもぞもぞもぞもぞするんですよ」
山口「そんな癖があるんですか?」
橋本「うん」
互いの角筋がオープンになったあと、木村王位は角交換をします。藤井挑戦者が席を立っている間、41手目、木村王位は飛車取りに銀を立ちました。
席に戻ってきた藤井挑戦者。記録係の池永四段から棋譜を受け取って目を通します。
17時46分頃。藤井挑戦者は池永四段に話しかけ、封じ手用紙の図面を作ってもらいたい旨を告げました。
おそらくは飛車を逃げる一手のように見えるところ。封じ手のタイミングとしてはいい頃合に思えます。
それから橋本八段はコンピュータ将棋ソフトの読み筋を見て大きな声をあげることになります。
「えっ、同飛車成が最善手なの? これ? マジで? ひええ・・・!」
橋本八段はしばらく絶句しました。
「もう・・・。疲れました、将棋考えるの」
「同飛車成」とは△8七同飛成。飛車を切って銀と刺し違えるという、まさかのような攻め手です。もし藤井挑戦者が封じ手でその手を書いていたら、明日2日目は朝から大変な衝撃が走るでしょう。
藤井挑戦者の代表的な名手に「△7七同飛成」という手があります(石田直裕五段戦、2018年6月、竜王戦5組決勝)。もしかしたら伝説の「同飛車成」の衝撃再現となるのでしょうか。
「同飛車大学」といえば、副立会人の豊川孝弘七段が使う定番のフレーズです。
ここで同飛車大学は実現するのか。
18時。立会人の中田功八段が、手番の藤井挑戦者が封じ手をすると決まった旨を告げます。
早めに封じ手の意思を示した藤井挑戦者ですが、なかなか封じる意思を見せません。もしかしたら、同飛車成の変化が有力と気づいて、その変化を読み進めているのかどうか。
木村王位はやや怪訝そうな表情を浮かべているようにも見えます。木村王位からしても同飛成はまさかという一手でしょう。
18時7分頃、藤井挑戦者は池永四段に消費時間を尋ねます。封じ手をする側は、自分の時間を使える限り、時間を使って考えることができます。
18時19分頃。藤井挑戦者は盤側を向きました。
「封じます」
藤井挑戦者は中田八段から封じ手用紙、封筒、赤ペン、のりを受け取って別室に向かいました。
橋本「いったい何を考えていたんだ」
その答えは中田功八段が預かった封筒の中の紙に記されています。
明日2日目は午前9時から再開。封じ手開封の瞬間から目が離せない展開になるのでしょうか。
筆者手元のコンピュータ将棋ソフトもまた「同飛車大学」を最善と読んでいます。