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高まる新型コロナ「5類相当」への引き下げ論 実態はすでに引き下げになりつつある

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

新型コロナウイルスの感染症法上の扱いを見直そう、という声は少なくありません。アルファ株、デルタ株と比べてオミクロン株は弱毒化しましたが、第6波では多くの高齢者が死亡しました。毒性が以前より低いとはいえ、感染者数が多かったためです。とはいえ、弱毒化していることは事実であり、入院勧告や就業制限措置などにあたる保健所等の負担を減らすため、新型コロナを「5類相当」に引き下げるべきという議論が高まっています。

新型コロナの分類の経緯

新型コロナの行政上の位置づけの経緯は表1のようになっています。

表1.新型コロナの行政上の位置づけ(筆者作成)
表1.新型コロナの行政上の位置づけ(筆者作成)

指定感染症」とは、1~3類に分類されていない感染症のうち、これらに相当する対応が必要になったときに、原則1年を期限として政令で指定する感染症のことです。指定は1年延長することが可能ですが、新型コロナは継続的な対応が必要と考えられ、「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みに移行しました。行政上、さまざまな措置を弾力的に運用しやすい枠組みだったためです。

表2は1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症をまとめたものです。なお、「〇:可能」というのは、そういう措置が可能というだけで、そうしなければならないというものではありません。

表2. 1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症(筆者作成)
表2. 1~5類感染症と新型インフルエンザ等感染症(筆者作成)

新型コロナのための新たな類型をつくるべきという意見もありましたが、柔軟に対応できるのは「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みであり、2021年時点では、少なくとも季節性インフルエンザと同等に扱うことはできないという判断でした。

すでに「2類相当」からは骨抜きになっている

表2を見ると、新型コロナを含む「新型インフルエンザ等感染症」はどちらかといえば1類に近いと思うのですが、「2類相当」とよく報道されています(この是非は記事では割愛します)。現在議論されているのは、これを「5類相当」に引き下げることであり、行政の負担が緩和されることが期待されています(表3)。

表3. 新型コロナを5類相当に引き下げるメリット・デメリット(筆者作成)
表3. 新型コロナを5類相当に引き下げるメリット・デメリット(筆者作成)

ちなみに、新型コロナはすでに相当なダウングレードを余儀なくされています。

たとえば、当初全ての陽性者に入院勧告が行われていましたが、現在は自宅療養、ホテル療養が可能となっています。そして、入院勧告されるのは、重症化リスクが高い患者さんに対してのみです。感染者数が多かった第6波では、軽症者の健康観察を自身が行うよう切り替え、濃厚接触者については事業所では同定しないという策も講じられました。

さらに、すでに医療ひっ迫時に保健所が全感染者を追跡することをやめています。人的資源が豊富であれば、濃厚接触者も含めて広く追跡することが可能ですが、実質これは撤廃されています。

つまり、現在の「新型インフルエンザ等感染症」という分類を維持しつつも、すでに感染対策と社会経済活動を両立させる対応を取っているわけです。

今後正式に「完全5類」になるとしても、「新型インフルエンザ等感染症」は柔軟的な運用ができる特例枠みたいなものなので、現時点ではこの枠組みの中で可能な範囲で「5類相当」へどんどん骨抜きにしていけばよいと思います。

「完全5類」には懸念も

しかし、新型コロナを「新型インフルエンザ等感染症の5類相当」ではなく、「5類感染症」(完全5類)にしてしまうと、この変幻自在なウイルスの前では愚策となってしまう可能性があります。

このまま毒性がどんどん弱まって、新型コロナが風邪のようになってくれるというのは、あくまでわれわれ人類の希望的観測であって、次の変異ウイルスがそのようにふるまってくれる保証はありません。

行政の負担を軽減することを最も重要とするなら、重症度に応じて、たとえば入院が必要な新型コロナのみを報告するような骨抜きはあってもよいと考えます。実際、陽性者の全数報告は、オミクロン株流行下では無駄が多いです。

現在、保健所の指導があるために、プレハブ小屋まで作って新型コロナ疑いの発熱者を診療しているクリニックがたくさんあります。これがもし「完全5類」になってしまうと、検査や治療の公費負担は減ります。患者さんの自己負担だけでなく、医療機関の経営も問題になります。

国の医療費負担などが限界を迎えつつあるために「完全5類」を選択するのなら、やむを得ないとは思います。

まとめ

「2類相当」vs「5類相当」は、分かりやすい対立構造ですが、そもそも対立させる必要はありません。

ダウングレードできる部分は「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで「5類相当」に間引けばよいですし、「完全5類」にすべきかどうかはその後の議論でもよいと考えます。「5類にすれば万事解決」みたいな論調もありますが、そこまで単純化できる命題ではありません。

「完全5類」になっても、医療現場の対応は今と変わりません。発熱者に対して新型コロナの検査をおこない、新型コロナの患者さんとそうでない患者さんを同じ部屋に入院させることはなく、そして、適切な個人防護具なしでケアすることもありません。

今後の新型コロナの感染症法の位置づけについては、政府が厚労省や財務省の意見を参考にしつつ決定されることになるでしょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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