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徳島ヴォルティスの「監督解任」は、Jリーグへの警鐘か?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 今年3月末、Jリーグで一つの”事件”が起きている。

 J2徳島ヴォルティスが、本拠地でザスパ群馬に0-1で敗れた後だった。ゴール裏に集まった徳島サポーターたちが怒り、試合後にクラブ社長に説明を求め、「吉田達磨監督の解任」を要求した。クラブが以前から「2試合の結果で判断する」と発信していたことも、怒りに拍車をかけたのだろう。

 社長など首脳陣は「発表への猶予」を求めた後、その日のうちに解任をサポーターに伝えた。

 そうした重大な決定は、たとえ決めていたとしても、その場ではなく改めて発表すべきことだった。主体性を失ったように映るからだ。

 その点で、プロサッカークラブの根幹が揺るがされるような事態と言える。

「徳島だけの話」

 そういう声もあるだろうが、はたして――。

徳島で起きた問題

 改めて、問題の深刻さに向き合うべきだろう。

 一つのプロサッカークラブが主体性を失ったように見える決定は、これからクラブがあらゆる局面でサポーターに左右される。「自分たちで決定できない」。少なくとも、そうしたレッテルを貼られた。これからその印象をはがすのは、相当な時間と体力が必要になるだろう。どんな結果であれ、決定を下すべきはクラブだったはずだ。

 結局、徳島は吉田監督解任後、ダイレクターも辞任した。また、主力だった島川俊郎は突然、現役引退を発表。柿谷曜一朗は家族や周囲を誹謗中傷する行為をやめるように訴えた。そしてクラブは混乱の中で西谷和希を契約解除にしている。

 その混乱ぶりは目も当てられない。綻びが至る所で出てきた。それを取り繕ったつぎはぎでカオスと化した。

 成績不振は間違いなかったし、解任で改善されることがあるかもしれない。しかし主体性を失ったように映る事実は、再び成績が振るわなくなった時、その過去が重くのしかかって来る。それを繰り返すうち、チームは絶望的に力を失うのだ。

クラブとサポーターの関係 

 どこでJリーグの常識はずれてしまったのか?

 そもそもの話、クラブ首脳や監督が試合後にゴール裏のサポーターに釈明したりする義務などない。

「ゴール裏に来て、説明しろ!」

 そんな言い方が今や徳島以外でもJリーグでは普通になっているが、それ自体が異常である。

 例えば最も進んでいる欧州各国のトップリーグで、「社長や監督がゴール裏で頭を下げながら飛び交う怒号に打ちひしがれる」などあり得ない。人権を無視したような野次も飛ぶ。そこに出て行って、建設的な会話などできるはずはない。

 さらに言えば、試合に負けた後も選手がスタジアムのサポーターに挨拶に行く行為も、そろそろ考え直すべきだろう。負けた後、サポーターは気が立っているだろうし、どうしてもきつい表現になる。しかし、それ以上に選手も本当は気持ちがすさんだ状態である。想像してほしい。そこに尊厳を傷つけるような言葉を浴びせられるのだ。

 もしスペイン、ラ・リーガで負けた後の選手の挨拶を義務化したら、どうなるか? お互いが衝突し、暴動に発展するだろう。

徳島は極端な例だが、Jリーグ全体ですべき議論

 では、サポーターはどう不満をぶつけるのか?

 それは試合中の自軍に対するブーイングで十分だろう。ピッチのことはピッチで完結させるべきで、何も応援は義務ではない。そこで我慢するから、試合後に暴発するのだ。

 首脳陣の不埒な経営に対しては、スペインではスタジアム全体で白いハンカチを振る。それは最高レベルの侮辱を与えるもので、別れのあいさつであり、「出て行け」という強烈な意思表示である。もちろん、会長などをののしる大合唱になることもあって(これはお勧めできないが)、ゴール裏での物々しいやり取りよりもマシだ。

 徳島の例は極端かもしれないが、多くのJリーグのクラブのサポーターが当然の権利で試合後の「挨拶」を求めている。負けた場合の反省を要求し、それがないと収まらない。「励まし」という人もいるだろうし、それが出発点なのだろうが、選手の中には負けた後の「同情」を惨めに感じる人もいるし、客観的には”晒し首”のような情景になる。怒号や侮辱的言動が飛び交うこともしばしばだからだ。

 何より、そうしたすさんだニュースがJリーグで出るだけで、例えば家族連れや女性は会場から足が遠のく。この儀式を苦手にしている選手たちは少なくない。一部の欧州挑戦した選手たちは、ほっとしているほどだ。

 今年4月、J2モンテディオ山形の渡辺晋監督は、敗戦後にゴール裏に挨拶に行って、罵声を浴びた上で液体を掛けられたという。チームは反発もせず、粛々とサポーターの怒りを受け止めた。しかし、ファンサービスは中止になった。

「徳島も監督を解任したし、自分たちも騒げば…」

 そんな風潮が少しでも高まっているなら、それは日本サッカー全体の危機だ。

クラブが断固とした態度を

 翻って、これはクラブの問題と言えるだろう。

 Jリーグはクラブ会長、社長、ダイレクターなどのスタッフ、そして監督などの人材に重大な問題を抱えている。選手たちが着実に成長する一方、マネジメントの人材難が目立つ。マネジメントで同じようなエラーを繰り返し、それを各クラブにまたがって行い、状況を劣化させている。

「社長や会長が、サポーターのSNSの書き込みに動揺し、流されるような人事を下す」

 そんなこともあるというが、こうなると末期的だ。

「チームを愛するサポーターを大事に」

 その精神が歪になって表れてしまい、振り回される形で、プレーヤーズファーストも、指揮官へのリスペクトも、あったものではない。

 かつてFCバルセロナは、熱狂的な応援を生み出していたゴール裏の過激なサポーターたちの不正を暴き、締めだした。それによって会長はひどい脅迫を受け、一時は空席が目立った。しかし同時に家族連れや有志が戻って、サッカーの熱気はむしろ増した。

 決定においては、毅然とした態度が必要になる。さもなければ、エスカレーションが起きる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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