異例の「議長継続」が意味するものとは? 杉並区議会の「慣習」に変化の兆し
東京都の杉並区議会で、議長が従来の「交代サイクル」を超えて継続している。これまでは、コロナ期間の例外を除き、1年ごとに議長が交代する慣習が続いていた。しかし、現在の井口かづ子議長は2年目になっても、その職を続けている。
異例の「2年目の議長」だが、区議の中には「むしろ1年で議長が交代して、たらい回しになるほうが異常な事態」と指摘する声もある。杉並区議会は2023年の選挙で、女性議員が過半数となるなど変化が起きている。議長継続もその変化の一つといえそうだ。
9月10日から第3回定例会が始まる杉並区議会で、井口議長はどのように議会を運営していくのだろうか。
2000年以降の議長の「在職期間」
以下は、杉並区議会で2000年以降に就任した議長の在職期間を並べたものだ。これを見ればわかるように、60代の河野庄次郎議長から、81代の脇坂達也(たつや)議長まで、ほとんどは在職期間が約1年で終わっている。
唯一の例外は、79代の井口かづ子議長で、2019年5月から21年5月までの2年間、在職した。これは、2020年初めに発生した新型コロナウイルスの感染拡大が背景にあり、極めて異例のことだった。
これまでの杉並区議会の慣例では、議長は就任から1年が経つと「辞職」して、別の議員に席を譲るのが当たり前だった。
しかし、2023年5月に就任した井口かづ子議長は、1年が経過しても辞職せず、その職を続けている。
背景にある「議会のパワーバランス」の変化
異例の「議長継続」の理由について、ある区議は次のように述べる。
「現在の杉並区議会は、ある種の混乱状態にある。議長が変わると、ますます混乱が広がるので、井口さんに続けてほしいという声が多かった」
背景にあるのが、2023年4月の区議選で、それまで議会で大きな勢力を誇っていた自民党系の会派が議席を減らし、議会のパワーバランスが変化したことだ。
翌5月の井口議長の選出も特異な誕生劇だった。井口氏は自民党所属であるにもかかわらず、非自民系の議員たちの支持によって議長に選ばれたからだ。
※参考記事:「クーデターが起きた」女性議員半数以上の杉並区議会で「女性議長」選出
※参考記事:「波乱の幕開け」となった杉並区議会、議長選出めぐり自民「混乱しております」
今回の議長継続について、井口氏に尋ねると、次のような説明が返ってきた。
「これまでの慣例と区議会の現状を踏まえたとき、自身の身の振り方について、さまざまなご意見がある中でどうするべきか、正直悩むところもありましたが、総合的に判断させていただき、僭越ながら継続することとしました」
法律が定める議長の任期は「4年」
そもそも、なぜ議長が1年で交代してしまっていたのか。区議の一人の解説はこうだ。
「議長になると、成人式などさまざまな催しに出て、名前や顔を売ることができる。議員の任期は4年だから、議長を1年交代で回していけば、4年で4人が議長になれる。それで、1年で辞職するのが当然になっていた」
だが、このような慣習に批判的な区議もいる。たとえば、一人会派の堀部康(やすし)議員だ。
「議員を辞職するならともかく、そうでないなら、法定どおり議長職を継続すべきです。そのことは、昔から議会でしばしば問題にしてきました。おかげで、最近は同様の意見を持つ議員も出てきたので、私としては理解が広がったものと受け止めています」(堀部議員)
本来、区議会の議長の任期は、地方自治法で議員と同じ「4年」と定められている(同法93条、103条)。
しかし、堀部議員によると「法定の任期4年をまっとうした議長は、戦後(現行憲法の規定に基づく地方自治法の施行後)、まだ一人もいない」という。
「1年交代のたらい回しは弊害が大きい」
井口議長は、どこまで議長を続けていくのだろうか。
「もともと法定の任期からすると、4年続けるのが基本だと思いますが、強い不満を持っている議員もいるようです。井口議長も、耐えかねて途中で音を上げてしまうかもしれません」
堀部議員はこう指摘しながら、次のように要望していた。
「内輪の掟で1年交代のたらい回しを続けるのは、コンプライアンスが重視される時代に弊害が大きいと感じています。せめて2年は、議長の職をまっとうしてもらいたいと思います」