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中国を北上するアジアゾウの群れ――うち2頭が「酒に酔っ払ってドロップアウト」とは本当か?

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国南部を北上するアジアゾウの群れ=中国メディアより筆者キャプチャー

 中国南部・雲南省の市街地に野生のアジアゾウの群れが出現し、騒ぎになっている。もともと群れはミャンマーとの国境近くにある自然保護区にいたが、昨年3月以降、北上している。長距離北上は珍しく、専門家の中には「ルートを間違えて、いまも“正しい方向に進んでいる”と思っているかもしれない」などの指摘が出ている。

◇「群れのリーダーに経験不足」か

 雲南省当局の情報によると、アジアゾウの群れは大人9頭(メス6・オス3)、亜成体3頭、子3頭の計15頭。5月30日午後6時ごろには、玉溪(Yuxi)市紅塔区洛河郷を移動し、今後も北上する可能性が高いという。省当局は、これまで警察官ら計450人以上、警察車両など228台、浚渫船4隻、ドローン3機を投入し、24時間態勢で監視している。

 国営新華社によると、もともと雲南省シーサンパンナ(西双版納)の国立自然保護区に生息する野生アジアゾウの一群だった。

 16頭の群れが昨年3月、シーサンパンナから普洱市(Puer)に入ったのが始まりだった。同年12月には普洱で子ゾウを出産して17頭に。今年4月24日に普洱市墨江県で2頭が離れたため、群れは15頭となった。5月16日には紅河ハニ族イ族自治州石屏県に到着。同24日に1頭が取り残されたが翌日には追いつき、そろって玉渓市峨山県に移動して29日夜、紅塔区に入ったという。

アジアゾウが通過した場所の位置関係=Baidu地図をもとに筆者作成
アジアゾウが通過した場所の位置関係=Baidu地図をもとに筆者作成

 アジアゾウは、中国国内では主に雲南省の普洱、シーサンパンナ、臨滄の3カ所に生息し、中国の国家1級重点保護野生動物に指定されている。30年以上にわたる保護活動の結果、1980年代初旬には193頭だったのが、現在は約300頭まで増えている。

 アジアゾウを研究する雲南大学生態環境学院の陳明勇(Chen Mingyong)教授は中国メディアの取材に「アジアゾウは一定の範囲内を循環しながら移動してきたので、今回のようにここまで北上してくるのは非常に珍しい」とみる。「群れのリーダーが経験不足で迷っているのではないか。ルートを間違えていて、いまも“正しい方向に進んでいる”と思っているかもしれない」と推測している。

◇「ゾウにも酒に強い・弱いがある」

 群れの移動に伴い、各地で被害も相次いでいる。

 現地メディアによると、器物の破壊など計412件が起き、56万1361平方メートルで農作物に被害が出た。暫定的な経済損失は約680万元(約1億1680万円)と見積もられているという。群れがさらに北上して都市部の昆明に入ると、食料を求めて家庭に入り込むことも多くなり、人的被害も出る恐れもある。実際、5月27日夜には、群れのうち6頭が自動車販売店に入り込み、店にあったバケツの水を飲み干したという。

 群れをどう扱うか、当局も頭を悩ませているようだ。

 すべてのゾウに麻酔をかけて、生息地に戻すことは可能だろうか? 中国科学院動物学研究所国立動物園博物館の張勁碩(Zhang Jinshuo)副館長は「アフリカゾウが分布する国では、麻酔をかけて生息地に移すことに成功した例がたくさんある。私の知る限り、シーサンパンナの国立自然保護区では、過去にアジアゾウを救出し、麻酔をかけて輸送したことがある」と話している。

 ただ、今回は15頭が群れになっているという特殊な状況にある。張勁碩氏は「1~2頭に麻酔をかけることはあっても、これほど大きなグループを扱ったことはない。一部に麻酔を打てば、他が怒ったり、ストレスを感じたり、何らかの特異な反応を示すことがある」と慎重に取り扱う必要性を強調している。

 また、陳明勇教授は▽安全性に配慮した電気柵を使って群れの方向を修正する▽食料を使って誘導する――などの方法を挙げている。

 ところで、普洱市墨江県で離脱した2頭について、次のような指摘がある。

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」は「脱落した2頭は、酒に酔っぱらったため、引き返さざるを得なくなった」と書いている。実際、群れは酒の醸造所付近で目撃されており、酒がめの蓋で遊んだり、酒に関心を示すようなしぐさを見せたりする様子が観察されている。張勁碩氏も中国中央テレビの取材に「ゾウは酒を好んで飲む。ゾウも人間と同じで、酒に強い、弱いがある」と解説している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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