「心を開こう、誰にでも」: Apple クリスマスCMから学ぶ人間関係の心理学
心を開くことが人間関係の基本。身近な人とも。世界でも。
■フランケンのクリスマス
2016年のクリスマスシーズンCM。今年は、アップルのCMが印象的でした。
人里はなれた小屋に一人で暮らすフランケンシュタイン。今年のクリスマス、彼はみんなと仲良くなるために知恵を絞りました。
小さな手回しオルゴールの曲を、iPhoneに録音します。首のところの、いつもはボルトが差してあるところに、クリスマスの電飾を入れようと通販で注文もしました。
大切なシルクハットのほこりを払ってかぶり、彼は村のみんなが集まる大きなクリスマスツリーのもとへ。
けれども、大男フランケンシュタインの姿を見た村人たちはおびえます。刺すような怖い目でにらむ人もいます。
iPhoneから流れる曲に合わせ、かすれた声で、おずおずと歌い出すフランケン。一人ぼっちの歌が寂しく響き、電飾も一つ消えてしまいました。どうしたらよいかわからないフランケンに、小さな女の子が手招きします。
消えた電飾を直してあげて、フランケンと一緒に歌い出す女の子。元気を取り戻して、もう一度歌い出すフランケンに、今度は村人みんなの歌声が重なって、大きな合唱になっていきました。
曲名は「There's No Place Like Home for the Holidays」(ホリデーを過ごすのに家ほど良いところはない)。
そうして、画面に表れることば。
「心を開こう、誰にでも」
Open your heart to everyone
■心を開く
心を開くとは、自分の思いを正直に示すことです。心を開くとは、相手に向かって温かな関心を示すことです。これが、人間関係の基本です。どの人にも心を開くことなんかできないでしょうが、でも人間関係を作るためには、心を開くことが必要です。
アップルのCMの中で、フランケンシュタインはみんなと仲良くなりたいという思いを勇気を持って示します。日本の昔話「泣いた赤鬼」のようです。
赤鬼も、見た目は怖いのですが、人間と仲良くなりたいと思っていました。
「心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます」(浜田廣介作「泣いた赤鬼」)。
けれども赤鬼の心は通じず、青鬼の自己犠牲的な協力が生まれるわけですが、現代ならスマホやネット通販があるということでしょうか。
心を開く(自己開示する)ことは、大切ですが、開き方が重要です。どう開くか、いつ、どの程度開くかです。フランケンは、良い方法と良いいタイミングを考えましたが、それでも一人ぼっちでは成功しなかったことでしょう。
人は、心を開いたいるときこそ、その心を受け入れられないと深く傷つきます。
心の開き方が器用な人もいますし、最初から受け入れてもらいやすい人もいます。でも、そうではない人もいます。
■温かな関心
誰かが心を開いてきたら、温かな関心を示しましょう。不器用な人もいるし、私たちが先入観を持ってしまっていることもありますが、開いてきた心に向かってナイフを突き刺すことはやめましょう。
フランケンシュタインや赤鬼はファンタジーですけれども、心を閉ざしている人はたくさんいます。みんなから心を閉ざされている人もたくさんいます。
みんなから心を閉ざされたら、そう簡単に心を開こうとは思えません。誰かが心を閉ざしていたら、その人に心を開こうとは思えないし、温かな関心など持てません。
こうして、人間関係は冷たくすれ違い、不信が生まれます。
それは、親子や夫婦でも、クラスの友人間でも、宗教と宗教、国と国との間にも起こることでしょう。
社会心理学の研究によれば、私たちはよく知らない相手には敵意を持ちやすくなります。相手のことを知るだけでも、好意がわいてきます。
2016年AppleのクリスマスCMは、分断の危機にある世界へのメッセージの意味もあるということです。