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元世界王者が語った高校生の井上尚弥「ヘッドギアの中で爆竹が爆発したかと思った」

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:松尾/アフロスポーツ)

世界バンタム級4団体統一王者・井上尚弥(30=大橋)は、高校時代からその逸材ぶりを発揮し、今や世界を席巻するボクサーだ。

驚異的なパンチを武器に、数々の世界王者たちをマットに沈めてきた。

過去にそのパンチを体感した一人、元WBC世界フライ級王者・五十嵐俊幸(39)が、高校時代の井上尚弥の貴重なエピソードを語ってくれた。

ーーー五十嵐さんが現役時代、井上選手とスパーリングしたのはいつ頃ですか。

五十嵐:井上選手がロンドン五輪を目指していた頃だったので、おそらく2012年くらいだと思います。

当時、彼は高校3年生で、階級が近いということでスパーリングさせてもらいました。

ーーーその時が初めてですか。

五十嵐:最初で最後でしたね。

ーーー初印象はどうでしたか。

五十嵐:向かい合った瞬間に「あ、本物だ」と感じました。

18歳の高校生相手に、一回り近く年上の私が、全力を出すのは大人気ないことなんですけど、正直そうせざるを得ないくらいの力量を感じ取ったのを覚えてますね。

ーーー当時、五十嵐さんは世界ランキング1位でしたよね。

五十嵐:はい。

ーーー実際にやってみて、どういうところが優れていると感じましたか。

五十嵐:一番特筆すべきはパンチ力。大げさな話ではないのですが、スピード、パワー、細かいコンビネーションのテクニックだったり、もう全て持っているんだなっていう印象を受けました。

ーーー欠点がないと。

五十嵐:はい。向かい合った瞬間に感じ取れました。中途半端にやったら、やられるのが見えたんで、意を決してやりましたね。

ーーースパーは3分3ラウンドですか。

五十嵐:そうでしたね。

ーーー内容はどうでしたか。

五十嵐:向こうはまだ1ラウンド目で様子見していましたが、僕はもう最初から全力で当たんないとやられるっていう覚悟があったんで、早い段階で左のロングフックを打ち込みました。

それがたまたま井上選手に当たって、バランスを崩したシーンがあったんです。見ていたジムの方から「相手は高校生だぞ、少しは考えてやれ」と叱られました。

それからパンチを打つことに躊躇していたら、残りのラウンドは動くサンドバッグ状態でした。

打たれ続けるなか、くらった左フックの衝撃は今でも覚えています。

14オンスのグローブで、ヘッドギアもつけていたのに、ギアの中で爆竹が爆発したのかと思いましたから。

ーーーすごい衝撃ですね、パンチの質が違うんですか。

五十嵐:質もそうですね。破壊力、今思えばキレがあるのではないかと思います。

ーーー当時はライトフライ級で体重も軽いと思いますけど、今までに感じたことがないような衝撃だったと。

五十嵐:はい。約20年アマとプロでやってきて、あんな経験をしたのは彼のあの一撃だけでした。

ーーー 数々の世界王者と試合やスパーリングした経験があっても、ですか。

五十嵐:ですね。物理的にあんな衝撃が来るのはおかしいだろうという感じだったので。

山中慎介さん(元WBC世界バンタム級王者)とのスパーで左をもらって、上下逆さまになるぐらいの衝撃を受けたことがあったり、

ソニー・ボーイ・ハロ(元WBC世界フライ級王者)とやった時に、フックを喰らって、視界がぼやけて相手が5人に見えたこともありました。

それもすごいことなのですが、あの一発は異質でしたね。

だってヘッドギアの中に何も仕込んでないのに「なんでそこで爆竹爆発するの?」っていう、物理的におかしい現象が起こったのは、後にも先にも、あの一発だけだなと。

ーーーもし試合でもらっていたらと考えるとどうですか。

五十嵐:その瞬間に意識なくなるんじゃないですか(笑)。

当たったのもこめかみだったので、リアルに8オンスのグローブでもらったら、意識があったとしても、ドネア対モンティエルの試合の再現みたいなってしまうのではないかと。

ーーー 五十嵐さんが現役時代に井上選手と対戦する話はありましたか。

五十嵐:彼が階級を飛ばしていったので、特にそういった話はなかったですね。

ーーー井上選手は今回の試合で4階級目の挑戦となりますが、当時はここまで活躍すると思いました。

五十嵐:デビューする前から知っていて、プロでの初戦も当然見たんですけど、もう世界チャンピオンなることは分かりきっていました。

ライトフライ級でベルトとった時も、まあ、そうだろうなと。

最初にびっくりしたのは、1階級飛び級したスーパーフライ級でオマール・ナルバエスに2RKO勝利した時でした。

そのあたりから、ファンやボクシング関係者の想像を超えた選手になったのかなと。

正直、今回の4階級までは想定内かもしれませんが、ここから先フェザー級とかなってくると、もう誰の想像も追いつかないですよね。でも、成し遂げると思います。

ーーー フェザー級でも5階級制覇を達成できると。

五十嵐:体のポテンシャルを見ているといけるのではないかと。スーパーフェザー級もあり得るかもしれません。

ーーー今度のフルトン戦についてどう見ますか。

五十嵐:KOにこだわる発言はありませんでしたが、井上選手が中盤から終盤にかけて倒すか、判定で井上選手が勝利するのではないかと思います。

ーーー今回の試合は問題ないと。

五十嵐:おそらく。井上選手の壁はまだ先にあると思います。

ーーー今後、井上選手にどのような期待をしますか。

五十嵐:日本のボクサーが成し遂げていないことは全て成し遂げて欲しいです。

多くのボクシングファンに新しい世界を見せてくれたら、元ボクサーとしても嬉しいですね。

元WBC世界フライ級王者・五十嵐俊幸 著者撮影
元WBC世界フライ級王者・五十嵐俊幸 著者撮影

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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