コロナ病棟を閉鎖する大病院 「5類」化で何が変わるのか 医療従事者の目線は?
5月8日から新型コロナは「5類感染症」に移行します。マスク着用も緩和され、世間は通常モードへ移行しつつありますが、医療従事者目線で改めてこの課題について触れたいと思います。
「5類」化で変わること
「5類感染症」に移行することによって、どのようなことが変わるでしょうか?
全数把握となっている感染者数は、一部の医療機関でカウントされる定点把握へ移行する見込みで、1日感染者数は発表されなくなるでしょう。
現在、約3,000の医療機関で新型コロナを受け入れていますが、「5類」化により、すべての医療機関、すなわち約8,200の医療機関で診療することを目指しています。
医療費の自己負担も少し増える見込みです。3割負担の場合、現在は初診料2,590円がかかりますが、これが5月8日から最大で4,170円まで増えます。10月以降、治療薬の補助がなくなると、数万円の自己負担になる可能性があります。
さて、医療従事者の目線では「5類」化に関して、いろいろな課題があります。
補助金は半減
新型コロナを受け入れるための病床を確保する医療機関への補助金は、段階的に廃止されます。まず、重点医療機関である一般病院では、1床あたりの補助金がこれまでの約半額に減額されます。
そのため、コロナ病棟を廃止し、コロナ禍前の診療体制に戻す医療機関が出てくるでしょう。収支が潤った医療機関もあるかもしれませんが、通常診療に戻してコロナ前の経営に戻したいという気持ちを持っている病院は多いはずです。
新型コロナの「初診入院」はどうなる?
大病院の多くでは、「初診の方は紹介状が必要」と掲示されています。いきなり大病院を受診しても、スムーズに診療がすすまないことが多いです。
これは医療機関ごとに機能分化しているためです。大病院ほど重症・複雑な病気を診療し、軽症例はかかりつけ医に診てもらうという形になりつつあります。
オミクロン株以降、コロナ病棟では多くの初診患者さんを受け入れてきました。紹介状を持たないまま行政の入院調整を経由して飛び込みで入院してくることもあり、中には、なぜ腎臓の機能が悪いのか、なぜこの薬を飲んでいるのか、など詳細が分からないまま治療を開始することもありました。
自治体からの入院要請に応じてきましたが、「5類」化によりその責務が終了します。この調整機能を残す自治体もあると思いますが、すでに複数の大病院はコロナ病棟を削減・廃止する方向に舵を切っています。これは、上述した補助金の半減も影響しています。
大病院では、積極的に初診の新型コロナ患者さんを診療することが減っていくかもしれません。また、「5類」化以降、入院先が簡単に決まらない事態が増える可能性もあります。
私の住んでいる大阪府では、退院や後方支援を調整していた行政のサポートセンターが廃止されることが決まっています。
押し付け合う構図は避けてほしい
現状、新型コロナが「5類感染症」に移行しても、個室隔離や病棟内隔離などの措置が必要です。そうでなければ、入院患者さんに新型コロナを広げてしまうことになります。
予定手術のために個室に入院予定のかかりつけの患者さんより、初診の新型コロナの患者さんを優先して入院させる医療機関は、今より少なくなると思われます。
インフルエンザと同じようなありふれた感染症として新型コロナを診療していくとしても、診れば診るほど医療機関が苦難を背負うという構図だと、「5類」化以降、真の意味で「診療できる医療機関」は増えないかもしれません。
自治体は今後、医師会等と連携して「かかりつけ患者さんしか診ません」という医療機関に対して診療を限定しないよう促す方針です。しかし、どの程度実効性があるかは未知数です。
次の波が来るとき、「救急搬送できない・入院できない」という過去と同じようなボトルネックが起こらないことを祈るばかりです。