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日本の未来描く「国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ」 日本が抱える7つの課題とは?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
国土交通省国土審議会計画部会のホームページより

国土総合開発法と全国総合開発計画

 日本の国土整備は、国土計画に基づいて行われています。戦後最初に作られた国土計画は、1962年に策定された全国総合開発計画(全総)です。これは、1950年に制定された国土総合開発法に基づいて策定されました。これ以降、地域間の所得格差、大都市圏の過密問題、地方の過疎問題、社会資本整備などの課題に対処しつつ、均衡ある国土の発展のため、およそ10年ごとに5次にわたって全総が策定されました。1969年新全国総合開発計画(新全総)、1977年第三次全国総合開発計画(三全総)、1988年第四次全国総合開発計画(四全総)、1998年21世紀の国土のグランドデザイン(五全総)です。

国土形成計画法

 全総が作られた高度成長期には、モノが量・質ともに不足し、インフラなどの量的整備が優先されました。ですが、モノがある程度充足したことから、2005年に国土総合開発法が国土形成計画法に改正されました。国土形成計画法の第一条には、「この法律は、国土の自然的条件を考慮して、経済、社会、文化等に関する施策の総合的見地から国土の利用、整備及び保全を推進するため、国土形成計画の策定その他の措置を講ずる」と目的が記され、国土形成計画の策定を義務付けています。

 この法律に基づき、2009年に国土形成計画が、2016年に第二次国土形成計画が作られました。さらに、先週7月15日に、新しい国土形成計画作成のため、「国土形成計画(全国計画)中間とりまとめ」が発表されました。これを読むと、国が考えているこれからの日本の姿を知ることができます。

国土形成計画

 法第二条に国土形成計画とは、「国土の利用、整備及び保全を推進するための総合的かつ基本的な計画」であるとし、①土地、水その他の国土資源、②海域、③震災、水害、風害その他の災害、④都市及び農山漁村、⑤産業、⑥交通施設、情報通信施設、科学技術に係る研究施設その他の重要な公共的施設、⑦文化、厚生及び観光に関する資源の保護並びに施設、⑧国土における良好な環境及び良好な景観、の8つの事項を扱うと記されています。

 また、法第三条に、基本理念として、「我が国及び世界における人口、産業その他の社会経済構造の変化に的確に対応し、その特性に応じて自立的に発展する地域社会、国際競争力の強化及び科学技術の振興等による活力ある経済社会、安全が確保された国民生活並びに地球環境の保全にも寄与する豊かな環境の基盤となる国土を実現するよう、我が国の自然的、経済的、社会的及び文化的諸条件を維持向上させる国土の形成に関する施策」を定めると記されています。

 要約すると、国土の自然的条件を考慮して、日本の経済、社会、文化等に関して国土の望ましい姿を示す長期的、総合的、空間的な基本計画だと言えます。国土形成計画には全国計画と広域地方計画がありますが、先週公表されたのは、全国計画の中間とりまとめです。

暮らし続けられる国土を目指した新たな国土形成計画

 モノがある程度充足した日本社会では、価値観やライフスタイルが多様化し、行政や事業者に求められるサービスの質や内容も幅が広がりました。さらに、デジタル化によって、日常生活や社会経済活動も大きく変化しました。とくに、コロナ禍の中、テレワークが急速に普及し、暮らし方や働き方、生き方が大きく変わりつつあります。その結果、交通インフラや都市インフラといったハード整備のあり方も変わりつつあります。そこで、新しい国土形成計画の策定に当たっては、モノの整備よりも、地域交通・医療・福祉・関係人口・女性活躍などの「人々の活動」が重視され、暮らし続けられる国土を実現することの大切さが謳われています。

克服すべき7つの課題

 新しい国土形成計画では、日本が抱える7つの課題を克服すべきと記されています。まず、避けて通ることができない課題として、①人口減少と少子高齢化、②巨大災害の発生、③気候変動、が挙げられています。

 2050年には人口が約1億人まで減少し、高齢化率は37.7%に達する見込みです。また、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝沿いの地震、首都直下地震などの発生が心配されています。さらに、気候変動に伴う猛暑、台風の強大化、豪雨災害の増加などの課題もあります。

 一方で、私たち自身が生みだしている課題として、④東京一極集中、⑤地方の暮らし、⑥国際競争力、⑦エネルギーと食料、の問題があります

 東京一極集中により、東京の過密や、都民中間層の貧しさの問題に加え、地方の若者、特に女性の流出による地方の衰退が懸念されます。地方では、医療・福祉、教育、交通、買い物などの日常生活機能、産業の成長・創造などの産業機能、自然、文化・芸術、娯楽、教養といった文化的機能の維持が難しくなっています。そんな中、日本の国際競争力はこの30年間で1位から30位程度へと低下しています。さらに、世界の人口増と国際情勢の悪化の中、エネルギーと食料の安定供給が難しくなりつつあります。

 これらの課題を克服し、暮らし続けることができる国土を作る必要があります。

課題解決のための基本的な考え方

 中間とりまとめでは、これらの課題を解決するに当たっての基本原理として、①民の力を最大限発揮する官民共創、②デジタルの徹底活用、③生活者・事業者の利便の最適化、④分野の垣根を越えること(横串の発想)、の4つが掲げられています。

 金の面でも人の面でも、行政中心の取組には限界があります。民の力を最大限活用するため、様々な階層で、官民が連携・協働して課題解決に当たる必要があります。これは、政府が進めようとしている「新しい資本主義」(新たな官民連携、社会課題解決と経済成長、国民の持続的な幸福)の考え方にも通じます。

 また、情報革命が叫ばれる中、テレワークが進み、5GやWeb3.0、IoTやビッグデータ、ロボット、MaaSや自動運転、などの実現によって地方の課題などを解決することができます。これは、国の「デジタル田園都市構想」(全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会)とも合致します。

 さらに、多様化する価値観やライフスタイルの中、一人一人が豊かに生き生きと暮らせる社会にするため、生活者の目線で地域課題を解決していく態度も必要になります。

 これらを進めるには、従来の縦割りを是正し、国と地方、異なる省庁間、官と民、異なる業種間など、組織や分野を越えて連携・協働する必要があります。これによって、部分最適を脱して全体最適化ができ、着眼大局・着手小局の態度で様々な課題を乗り越えられます。

課題克服の例示、3つの重点分野とは

 中間とりまとめでは、7つの課題を4つの原理で克服する例示として、3つの取り組むべき重点分野が示されています。①地域生活圏、②スーパー・メガリージョンの進化、③令和の産業再配置、の3つです。

 地域生活圏は、地域の関係者がデジタルを活用して自らデザインする新たな生活圏です。デジタルの発想を活用し、官民共創で地域課題を解決することで、人口が少ない地域でも日常生活、産業、文化の3つの機能を維持しようとする試みです。圏域の人口規模は、地域の事情によって増減しますが、10万人前後が想定されています。

 スーパー・メガリージョンとは、リニア中央新幹線や5Gといった高速移動・高速通信で実現される大都市圏のことです。多様な産業経済に加え、豊かな自然、古くからの歴史、様々な文化などが一つの大都市圏域に存在することで、多様なニーズに応じて、あらゆる暮らし方と経済活動を可能にし、日本の将来をけん引しようとするものです。

 令和の産業再配置は、巨大災害によるリスク軽減とカーボンニュートラル実現を同時に実現するために、産業の構造転換や再配置を進め、機能を補完し合える国土構造にすることで、持続可能な経済にしようとするものです。

 今回の中間とりまとめは、国土審議会傘下の計画部会での議論に基づくものですが、計画部会では、今後さらに、エネルギーや食料の安定供給、防災・減災、国土強靱化、カーボンニュートラルへの対応、交通ネットワークなどについて議論を行うとのことです。日本の将来を左右する大事な計画です。計画部会のホームページを通して、議論の様子をウォッチしてみてはどうでしょう。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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