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「将棋は本当に楽しいです。今日3敗した私が言うのですから・・・」Vtuber将棋初心者大会予選2日目

松本博文将棋ライター
(画像提供:ポメヒ)

 将棋界では日々、いろいろな対局、イベントがおこなわれている。藤井聡太竜王(七冠)と佐々木勇気八段の竜王戦七番勝負も熱い。福間香奈女流五冠と西山朋佳女流三冠の、ずっと続いていくライバル対決も熱い。トップを争う棋士、女流棋士たちはもちろん、高い技量を持った上で、日々鍛錬を努力・研究を重ね、真剣勝負の場に立っている。だからこそ、観戦者の感動を呼ぶ。

 一方、アマチュアであっても、準備を積み重ねてきた人たちの思いがこもった勝負もまた、尊く熱い。現在進行中のVtuber将棋初心者大会(Vtuber Shogi Challenge CUP 略称:VSCC卵)は、予選から激熱の進行を見せていた。


 10月6日、竜王戦七番勝負第1局が終わった日の夜。VSCC卵、予選2日目の対局がおこなわれた。


 参加者は以下の通り。(かっこ内はコーチ役のアニキ)

爆冥アイン(四宮式)

月音ゆき(香坂まくり)

ゆめ心中(おぐらぱん)

悪使天魔(甘党あずを)

 皆さん、各界隈で活躍されているVtuberだ。将棋は級位者で、この大会に向けて短期間のうちに、大変な熱量をもって上達にはげんできた点は共通している。

 予選の全局を紹介したいところだが、それは映像を見ていただくことにして、本稿では最初の対局を振り返ってみたい。

「ただやん」でもあきらめない

 ▲月音(つくね)ゆき-△ゆめ心中(ここな)戦。先手・月音ゆきさんは棒銀で攻めていき、端で銀香交換をして、相手陣のスキに歩を垂らした。

 教科書に出てくるような、理想的な攻め方だ。月音ゆきさんの勉強のほどがうかがえる。

 ゆめ心中さんはこのあと、飛車をタダで取られてしまう「ただやん」をしてしまった。将棋は誰でも最初のうちは「ただやん」との戦いである。ゆめ心中さんはあきらめない。そこから勝負を捨てず、指し続ける姿勢が素晴らしかった。

 長手数の末、最後は月音ゆきさんが、ゆめ心中さんの玉を詰まして勝ちきった。


 月音ゆきさんは最終的に2勝1敗の成績をあげた。

「一局も楽だったり、一方的に蹂躙されるみたいなこともなく。お互いにいい勝負できたなっていうのがありましたね」


 ゆめ心中さんは残念ながら0勝3敗。しかし短期間でかなり上達された様子がうかがえた。


 観る将棋ファンでもあるというゆめ心中さん。最後にこうコメントした。

「将棋は本当に楽しいです。今日3敗した私が言うのですから、間違いないと思います」

 豊島将之九段の名言をリスペクトした「観る将」として優勝の言葉だろう。今後も自分のペースで「指す将」も続けていただきたい。


大会屈指の名局

 ▲爆冥(ばくめい)アイン-△悪使天魔(おしてんま)戦は、大会屈指の名局だった。

 戦型は相振り飛車。爆冥アインさんが勝勢になったと思われたところから悪使天魔さんが粘って逆転する。図は悪使天魔さんが銀を取りながら△3七馬と入り、先手・爆冥アインさんの玉に迫ったところだ。


 級位者同士とは思えないような局面で、力の拮抗した同士が全力を尽くせばこうなるという、見本のような一局だろう。

 ここでの形勢は、悪使天魔さんが勝勢。しかし爆冥アインさんはあきらめない。▲3八金打が執念を感じさせる力強い受けだ。

 対して△2七桂と打てば、先手玉は詰んでいた。悪使天魔さんがさらに経験を重ねれば、こうした筋はほどなく、一目で見えるようになるだろう。

 本譜、悪使天魔さんは△2六馬と逃げた。落ち着いた手で、普通はわるくない。しかしこの場合には▲2二飛という王手馬取りがあった。これはまた逆転か!? そう思ったところに△6二飛という、作ったような返し技があった。


 上図で▲2六飛成と馬を取れば、△6八飛成と金を取り返す手がある。多くの人が見ている舞台で、この進行は熱い。

 このあとも力のこもった攻防は続いていく。悪使天魔さんは入玉を果たした。


 後手玉はもうつかまりそうに見えない。先手玉は受けても持ちこたえられそうにない。ならば後手勝ちかと思いきや。▲8八銀!△同馬▲6九桂! 目の覚めるような3手1組のハードパンチがあった。


ポメヒ「ウソだろう!?」


 運営さんが思わず声をあげてしまうような、見事な王手龍取りだ。

 これでまたまた逆転模様。最後は爆冥アインさんが悪使天魔さんの玉を詰ませて、195手の大熱戦に終止符を打った。


 悪使天魔さんは最終的に1勝2敗で予選を終えた。

「一局も楽だったり、一方的に蹂躙されるみたいなこともなく。お互いにいい勝負できたなっていうのがありましたね」


 途中はタップミスもあり「終わった・・・」と思ったという爆冥アインさん。絶体絶命のピンチを何度も切り抜け、最終的には3勝0敗で予選通過を果たした。

「本当にいま、めちゃくちゃうれしいです。もともと格闘ゲームとかいろいろやってて。大会とか出たりとかよくあって。入賞とかもしたことあるんですけど。今日ほど緊張して、根(こん)つめてやって、嬉しかったのは、初めてです」


 いい将棋は、観戦者を疲れさせる。竜王戦第1局が終わってぐったりした自分は、この予選を見て、またぐったりした。他の観戦者も同様だっただろう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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