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西山朋佳女流三冠(29)棋聖戦二次予選進出ならず 谷合廣紀四段(30)に一次予選決勝で敗れる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月17日。棋聖戦一次予選決勝▲谷合廣紀四段(30歳)-△西山朋佳女流三冠(29歳)戦がおこなわれました。

 持ち時間は各1時間。14時に始まった対局は15時50分に終局。結果は97手で谷合四段の勝ちとなりました。


 谷合四段は棋聖戦参加5期目で、初めて一次予選突破を決めました。


 西山女流三冠は自身2度目となる二次予選進出はなりませんでした。


対戦成績拮抗の両者


 今期棋聖戦一次予選、谷合四段は高野悟志六段、井出隼平五段、飯島栄治八段に勝って決勝に進みました。

 西山女流三冠は石田直裕五段(現六段)、高橋道雄九段、小山怜央四段に勝っています。


 年齢も近い両者。三段リーグ在籍時には5回対戦し、谷合2勝、西山3勝という成績が残されています。


 2019年後期の三段リーグ。谷合三段は14勝4敗の成績で四段昇段を決めました。西山三段は同成績ながらも順位の差でわずかに及ばず、四段昇段を逃しています。


 公式戦では両者は2回対戦しています。両者は振り飛車党で、戦型はいずれも相振り飛車でした。

 2023年7月の朝日杯一次予選は、87手で西山女流三冠の勝ち。

 2024年3月の棋王戦予選は106手で谷合四段が勝っています。


谷合四段、相振り飛車の戦いを制す


 本局は谷合四段先手。後手の西山女流三冠は「三間飛車」に振ります。対して先手の谷合四段は2八の飛車を8八へと転換します。相手の飛車が同じ筋にいなくても「向かい飛車」と呼ぶのは不思議なところ。戦型は相振り飛車となりました。

 相振り飛車でどのような駒組をするのかは、指す人によって特色が出るところです。本局では、谷合四段は金無双、西山女流三冠は美濃囲いを採用しました。

 豪腕で知られる西山女流三冠。角交換のあと、西山女流三冠は中段に角を打って攻めていく姿勢を見せます。対して谷合四段は時間を使って対応していきました。

 西山女流三冠の攻めをいったん受け止めたあと、谷合四段は西山玉のすぐ近くに桂を捨てて反撃。次第にペースをつかんでいきました。ただし谷合四段は時間が切迫していきます。

 77手目、銀を打ち込んで王手をしたとき、谷合四段は持ち時間を使い切ってあとは一手60秒未満で指す「一分将棋」に入ります。対して西山女流三冠は33分を残していました。

 79手目。谷合四段は攻める方向を変え、相手玉とは逆サイドに香を打ち、飛を取りにいきます。対して西山女流三冠はシンプルな飛の取り合いを選びました。結果的にはこの順が敗着となったか。代わりにいったん香を取ったあと、飛車を取り合う順が優ったようですが、そのあとに続くのも難しい手順でした。

 一手ゆるめば即逆転となる最終盤。谷合四段は飛角を捨てながら相手玉を下段に落とすセオリー通りの寄せを決め、正確に一手勝ちのコースをたどっていきます。

 97手目、谷合四段の金打ちの王手を見て、西山女流三冠は投了しました。

 谷合四段は勢いのある相手に勝利を収め、二次予選進出を決めました。

 今後もハードスケジュールが続く西山女流三冠。11月8日には棋士編入試験五番勝負第3局、上野裕寿四段戦が控えています。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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