【45歳定年時代】世代交代リストラのために企業がやるべき3つのこと
■一石を投じた新浪氏の「45歳定年制」発言
サントリー新浪剛史社長の発言が炎上した。
経済同友会の夏季セミナーにて踏み込んだ発言をしたからだ。その内容とは、【45歳定年制】である。
「45歳定年制にして、個人は会社に頼らない仕組みが必要だ」
この発言はまたたく間に広がった。SNSでは批判が相次いだ。
「45歳で定年退職して、どうしろと言うのか」
「単にリストラではないか」
まさか炎上するとは思わなかったのだろう。翌日10日の記者会見で新浪氏は、
「45歳は節目であり、自分の人生を考え直すことは重要だ」
「首を切ることでは全くない」
などと弁明した。
しかし、はたして新浪氏の発言は的外れだったのだろうか。筆者は決してそう受け止めていない。いやむしろ、雇用環境を活性化させるうえで一石を投じたとも言えるのではないか。
人材流動性が高い国ほど労働生産性が高いことはわかっている。何より「世代交代」「新陳代謝」というキーワードが、日経新聞などの記事で頻出しているのはご存じの通りだ。今後、雇用環境変化に応じキャリア見直しは不可欠であり、新浪氏の発言は決して時代と逆行したものではなかったと言える。
■「世代交代リストラ」の必要性
それでは、なぜ企業は「世代交代リストラ」をしなければならないのか。
(※日本では「リストラ=解雇」と一般的に解釈されるが、「リストラ=事業の再構築」が本来の意味である)
前提として、「人生100年時代」の到来があげられる。「人生100年時代」という表現が日本でも広まったのは5年以上も前の話だ。「人生80年時代」の考え方はもう通用しない。とくに今回取りざたされた【45歳】ぐらいの世代の人は、60歳以降にではなく80歳以降に「老後」がくる。このことは決して忘れてはならない事実である。
おさらいのため、「人生80年時代」と「人生100年時代」のライフステージの差を記しておこう。
○「人生80年時代」のライフステージ
・ 0~20歳:教育
・21~60歳:仕事
・61~80歳:老後
○「人生100年時代」のライフステージ
・ 0~20歳:教育
・21~80歳:仕事
・81~100歳:老後
このように「人生100年時代」の仕事ステージは、おおよそ20~80歳までである。そして約60年間のこの仕事ステージを、複数に分解するのが一般的な考え方だ。高校や大学を卒業したあと、80歳まで一度も転職することなく一社で勤め上げるというのは現実的ではない。
だから、
○「人生100年時代」の仕事ステージ(事例)
・20~40歳:1社に勤務
・41~60歳:2~3社で複業
・61~80歳:個人事業主
といったように、40代以降に自身のキャリアの再構築が必要だ。企業は事業のリストラ(再構築)が必要だが、個人もキャリアのリストラ(再構築)を考えなければならないのである。
つまり、いま50代、60代ならともかく、40代なら
「60歳近くまで会社にお世話になる」
という発想は持たないほうがいい、ということだ。
ご縁があって入社した従業員と、できる限り長く一緒に働きたい。そう願う会社は実のところ多いものだ。しかし事業の再構築をせず、VUCAの時代に柔軟対応できる企業は一握り。キレイゴトは言っていられないのだ。
■世代交代リストラのために企業がやるべき3つのこと
NECが45歳以上の希望退職者を募り、グループで約3000人の削減に踏み切った。いわゆる「黒字リストラ」を実施したのはコロナ前である。昨今では、業績を上方修正したホンダも世代交代を見据えて2000人の希望退職者を募った。
長年勤めた会社を突然辞めるのには覚悟が必要だ。だから従業員にマルチキャリアを考えてもらううえで、会社にも責務がある。その責務とは「啓蒙」「仕組みづくり」「リスキリング」この3つだ。
やはり第一に「啓蒙」だ。今回のように、突然「45歳定年制」という発言を聞けば誰でもビックリする。発言者に対して不信感を覚える人もいるだろう。だから定期的に勉強会を開くなど、丁寧な啓蒙活動が必要だ。そうでないと「会社都合のリストラ」だと誤解される。
第二に、新浪氏の発言にもあった「仕組みづくり」である。複業や兼業を承認(もしくは推奨)する制度を設け、スムーズにマルチキャリアの道を歩めるような仕組みをつくるのだ。
第三に、「リスキリング」。つまり学び直しである。とくにデジタル化時代に対応できない中高年のリスキリングは待ったなしである。どんなキャリアを選ぼうと、ITリテラシーが低くては起業や独立はもちろんのこと、複業や兼業の道を選ぶことも困難だ。
ドラッカーは著書『明日を支配するもの-21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社)で
「本業を持ちながら、第二のキャリアを築くこと」
の重要性を説いた。企業側は「世代交代リストラ」を、個人は人生100年時代に向けた「マルチキャリア」を強く意識していかなければならない。そんな時期に来た。
「100年」と言われた人生が、さらに伸びる可能性も出てきたのだから。