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eスポーツ市場のさらなる発展に必要なのは、40歳以上の「シニア世代」を取り込む仕組みづくり

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「バーチャファイター2 チャンピオンシップ『あそぶ!ゲーム展』杯」 (筆者撮影)

「2018ユーキャン新語・流行語大賞」において、「eスポーツ」がトップテンに選ばれた。事実、昨年あたりから日本国内でもeスポーツのニュースがゲーム専門のメディア以外でもしばしば報道されるようになり、日本テレビはeスポーツ番組の「eGG」を、同じく毎日放送は「YUBIWAZA(指技)」の放送を開始するなど、その存在が以前にも増して注目されるようになった。

では、現在のeスポーツ界隈の盛り上がりを、単なる一過性のブームで終わらせずに、今後のゲーム産業・文化の発展へとつなげるためには、いったい何をすることが必要なのだろうか?

そのヒントになりそうなものを、埼玉県川口市のSKIPシティ彩の国ビジュアルプラザにて開催されている、「遊ぶ!ゲーム展ステージ3:デジタルゲーム ミレニアム」の関連イベントとして去る3月16日に行われた、「バーチャファイター2 チャンピオンシップ『あそぶ!ゲーム展』杯」 の現地取材で偶然にも見付けることができた。

それは、40歳以上のシニア世代を対象にしたeスポーツ興行の実施、およびスタープレイヤーたちを活用することである。

「鉄人」もゲスト出演。シニア世代を楽しませた「バーチャファイター2」大会

「バーチャファイター2」とは、1994年にセガが発売して大人気を博したアーケード用対戦格闘ゲームのこと。翌1995年には家庭用のセガサターン版も発売され、こちらも販売本数が約127万本(※)となる大ヒットとなった。

(※販売本数の出典は、KKベストセラーズ刊「テレビゲーム・ランキング・データブック1995.9~1998.8」による)

本作は当時のゲームセンターにおける、対戦格闘ゲームのブーム期を代表をするタイトルのひとつで、最盛期には日本一のプレイヤーを決める全国大会も開催された。各地のゲームセンターで連戦連勝を重ねたプレイヤーが、やがて全国的に有名となる一大コミュニティが形成されたり、「鉄人」としてセガから公式に認定され、テレビやイベントに多数出演するスタープレイヤーが誕生したことでも歴史に残る作品だ。

「バーチャファイター2」ゲーム画面(デジタルSKIPステーション提供) (C)SEGA
「バーチャファイター2」ゲーム画面(デジタルSKIPステーション提供) (C)SEGA

本大会は、当日の午前中に行われた予選を勝ち抜いた一般参加者の12名と、本戦にシードされたゲスト2名によるトーナメント戦方式で行われた。ゲストとして招かれたのは、前述の「鉄人」に認定されていたスタープレイヤーであり、ゲーム雑誌「ファミ通」での活躍ぶりも有名な新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏(※)だ。

(※筆者注:以下、本稿では両氏の呼称を当時のリングネーム、すなわちプレイヤー名で統一させていただく)

大会の選手兼解説役として登場した新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏(筆者撮影)
大会の選手兼解説役として登場した新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏(筆者撮影)

参加者のなかには、わざわざ青森県や新潟県から駆け付けた人もいて、勝っても負けても本当に楽しそうにプレイしていた。プレイステーション3版の本作では、現在でもオンライン対戦が遊べることもあって、トータルで数万にもおよぶ試合数をこなしたり、「今でも現役」と壇上での挨拶時に公言した猛者もいたのだからすごい。

本戦に進出した参加者のほとんどが40代で、最年少が34歳という異色の(?)大会となったが、優勝者はまるで25年前のゲームセンターからタイムスリップして来たのではないかと思わせるほど、正確かつ華麗にキャラクターを操り相手を圧倒していた。若かりし頃とまったく変わらない、プレイヤーたちの底知れぬ情熱と、今なお彼らを夢中にさせる本作のパワーには改めて驚かされた。

だが、筆者がそれ以上に驚いたのは、すでに四半世紀も前の古いゲームであるにもかかわらず、ただ観戦しているだけでも掛け値なしにすごく楽しめたことだ。それだけ楽しめたのは、かつて本作を遊んだことがあったので、参加者たちが操作の難しい必殺技や連続技を決めていることが、ある程度はわかったからだ。自身も参加者たちと同じく、学生時代にブーム期を体験した世代であり、当時の熱気にあふれたゲームセンターの懐かしい光景が思い起こされたのも大きな理由のひとつだ。

そこで、筆者はふと思い付いた。昨年あたりから、eスポーツが世間的にも注目され始めたこのタイミングで、現在は40歳を過ぎたスタープレイヤーたちによる、往年の名作ゲームを使ったシニア世代向けの大会、あるいはプロゴルフのシニアツアーや、野球のマスターズリーグのような興行を実施すれば、eスポーツ市場がより活性化するのではないだろうかと。

本大会のゲストと参加したプレイヤー全員で記念撮影。ほぼ全員が40歳以上で、25年前のゲームを使った、実にフレッシュな試みの大会であった(筆者撮影)
本大会のゲストと参加したプレイヤー全員で記念撮影。ほぼ全員が40歳以上で、25年前のゲームを使った、実にフレッシュな試みの大会であった(筆者撮影)

今こそ往年のスタープレイヤーを活用し、eスポーツ市場のさらなる活性化を図るべき

マスコミでも報道される機会が増えたとはいえ、筆者は普段、ゲーム好きで同世代の友人との会話においてeスポーツが話題になることは正直あまりない。

さらに友人のなかには、eスポーツという単語そのものを毛嫌いする人が少なからずいる印象も受けている。自分が若かりし頃に参加していた、ゲームセンターなどで行われていたゲーム大会と、今のeスポーツ界隈でやっていることは基本的に同じだという考えが根底にあり、「何を今さら」などと思っているからだ。

しかし、eスポーツに関心がないシニア世代であっても、もし新宿ジャッキーやブンブン丸氏など、同世代のスタープレイヤーたちが「プロゲーマーとして、eスポーツに参戦決定!」というニュースを耳にしたら、少なからず興味を示すのではないだろうか。なおかつ、本大会でも使用した「バーチャファイター2」のように、同世代のゲーム好きなら誰でも知っているであろう名作を使用すれば、(メーカーが許諾するかどうかはさておき)さらに関心が増すはずだ。

本大会の参加者が、「一緒に大会に参加できてうれしい」と壇上でコメントしたり、大会後にはサインを求めるなど、今なお新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏のネームバリュー、カリスマ性は健在だ。ならば、彼らを起用しない手はないだろう。

今までeスポーツには見向きもしなかった、シニア世代を誘う伝道師の役割は彼らこそがふさわしい。おそらくシニア世代に限れば、ゲーム好きを自称する芸能人よりも、彼らを起用したほうが訴求力がはるかに高いと思われる。

本大会終了後、筆者の取材に快く応じてくれた新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏(筆者撮影)
本大会終了後、筆者の取材に快く応じてくれた新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏(筆者撮影)

今なお意欲満々の両巨匠

では、本大会にゲスト出演した新宿ジャッキー、ブンブン丸の両氏は、現在のeスポーツ界隈の状況をどう見ているのだろうか? 大会終了後に尋ねてみたところ、新宿ジャッキー氏は「見ているのは楽しいですし、盛り上がってほしい気持ちはものすごくあります」とのことで、とても好意的なご様子だった。

ブンブン丸氏に至っては、「もし賞金1,000万円の大会を開いてくれたら、本気でやろうかなと思います」と大会中に語っていた。筆者からも、「バーチャファイター2」などの古いタイトルを使用した、シニアプレイヤー同士でのeスポーツ興行がもしあれば、参加する意思があるのかを改めて伺ったら、「僕は今はフリーですし、もしシニアプロとしてできる環境があれば、状況にもよりますが競技として面白いと思います」と話してくれた。

とはいえ、本大会では両氏とも優勝できずに敗退となってしまった。若い頃に比べて反射神経や操作技術、あるいは基礎体力などが衰えたため、もはや昔と同様のパフォーマンスを披露するのは不可能なのだろうか? この疑問については、両氏ともに否定した。

「手というよりは、頭が動いていないんです。実際に測定したことがないので断言はできませんが、反応とかは昔に比べてもそんなに落ちていないと思います。2手先、3手先を常に意識して動くみたいなイメージがまったくできていないから、動けていなかったんですね。みんながプレイしているのを見ていると連続技とかを思い出しますので、そこから自分の手に落とし込むのは、それほどたいへんではないのかなと思います」(新宿ジャッキー氏)

「そう、そういうフワフワした感じでしたね。本大会の前に200~300試合ほどやりましたが、昔のことを思い出したり、確認をする作業がメインになってしまったので、特に初日はもどかしさがありました。だんだん思い出してきて、昔のような感覚でできるようになってくると楽しくなりましたね。ただ、昔と同じように、そういうことを意識していなくても自然にできるようにするためには、相当なリハビリをしないと厳しいという気はしています」(ブンブン丸氏)

つまり、かつてのような立ち回りができなかったのは、もう遊ばなくなって久しいからやり方を忘れていたのが原因であって、加齢による技量の衰えではないというわけだ。十分なトレーニング時間と環境さえ確保できれば、昔と同じ感覚でプレイすることがもし可能なのであれば、往年の強さを取り戻した「鉄人」の勇姿を、もう一度この目で見てみたいと思うのは筆者だけであろうか?

また、突飛な考え方かもしれないが、若い世代がシニアツアーなどの開催を機に彼らの存在と強さに注目し、やがてプロレスや将棋などと同様の世代間抗争へと発展することによって、新たな興行の形態が生まれる可能性も秘めているのではないだろうか。

eスポーツ市場活性化のためにも、本大会のような40歳以上のシニア世代が継続的に楽しめる環境の構築が望まれる(筆者撮影)
eスポーツ市場活性化のためにも、本大会のような40歳以上のシニア世代が継続的に楽しめる環境の構築が望まれる(筆者撮影)

シニア世代はプレイヤーとしてだけでなく、豊富な社会経験を生かしての営業や、運営面からeスポーツを支える側としても大きく貢献できるはずだ。新宿ジャッキー氏も、「今、圧倒的に求められているのは運営力ですとか、スポンサードしてもらうための力みたいなものではないかと思います」と指摘していた。

ならば、最近プロになったばかりの若手よりもシニア世代のほうが、マネタイズや運営組織のマネジメント力で上回るのは自明の理であり、若手にとっても経験豊富な先輩の存在は心強いはずだ。また、自身のゲーム体験を元にして、今までにない新たなイベントを創出する可能性も期待できるだろう。

将来を担う若者たちの支持がなければ未来がないのはもちろんだが、eスポーツを短期間のブームで終わらせないためには、今まさに働き盛りで購買・消費意欲を大いに持ち、なおかつ団塊ジュニア世代にあたり人口も多い、シニア世代をさらに取り込むことも必要なのではないだろうか。

なお、「バーチャファイター2 チャンピオンシップ『あそぶ!ゲーム展』杯」の動画は、下記サイトにて現在公開されているので興味のある方はぜひご覧いただきたい。

・SKIPシティ/SKIPチャンネル

http://www.skipcity.jp/channel/

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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