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30分の1に低下した新型コロナの致死率 「5類」にすべきか?

倉原優呼吸器内科医
イラストACより

パンデミック当初、病院の廊下にベッドが並んでいた国や、酸素ボンベが足りなくて道端で倒れている人がいた国がありました。日本でも救急搬送困難例が相次いだ波もありました。ウイルスは変異を繰り返し、新型コロナワクチンと治療薬が普及し、致死率は大きく低下しました。今こそ、「5類」にダウングレードすべき時期なのでしょうか?

新型コロナの致死率は大幅に低下

横浜市立大学病院の研究グループは、ジョンズ・ホプキンス大学が提供しているデータを解析し、2020年1月から2022年8月までの世界における新型コロナ感染者数と死亡者数のデータを解析し、致死率を算出しました(1)。

これによると、パンデミック当初は世界的に8.5%と致死率は高いものでしたが、2022年8月には0.27%と約30分の1にまで低下したとのことです。

厚労省が公開している「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-」(2)を見ると、国内の致死率は第4波が1.85%と最も高く、第7波が0.12%と最も低いことが分かります(図1)。おおざっぱな致死率を見てもかなり低下していることが分かります。

図1. 各波の死亡者数(左軸)と致死率(右軸)(筆者作成)
図1. 各波の死亡者数(左軸)と致死率(右軸)(筆者作成)

「5類」論

政府は、「第7波の収束後に感染症法上の扱いを見直す」という方向で検討していました。しかし、10月に始まった臨時国会では、感染症法改正が議題として提示されているものの、この見直しについては含まれていません。

致死率が大きく下がったことにより、現在「新型インフルエンザ感染症」に位置付けられている新型コロナを「5類」にダウングレードすべきという議論が高まっています。

以下、「5類感染症」は季節性インフルエンザと同じ公衆衛生的な分類、「5類相当」は「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで骨抜きを進めるもの、として記載します。両者の違いについては、記事にしているので参照してください。

■「5類相当」と「5類感染症」の違いとは 議論の混同を避けて(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220804-00308562

「5類相当」に骨抜きが進んでいる

よく新型コロナは「2類相当」と言われますが、かなり骨抜きが進んでいます。自己検査と陽性登録を容認し、体調が悪くなった場合に相談するなど、個々の判断に任せている部分があります。

そして、長らく緩和できなかった「全数把握」の見直しが9月に行われており、「新型インフルエンザ等感染症の枠組みで骨抜きにしていく戦略」を継続しています(図2)。

図2. 感染症法上の新型コロナの「骨抜き」(筆者作成)
図2. 感染症法上の新型コロナの「骨抜き」(筆者作成)

今後、一般外来や一般病床による新型コロナ診療が日常化すれば、「5類相当」へのほぼ骨抜きは完了と考えてよいでしょう。

「5類感染症」にするメリット

「5類感染症」にするメリットとして、「どの医療機関でも診られるようになる」という意見を耳にします。

しかし、今や「発熱患者お断り」というクリニックはほとんどないので、外来診療のキャパシティが大きく増えるわけではありません。また、現行の枠組みだからこそ加算されている「新型コロナ特例点数」もなくなります。

入院は、現在もコロナ病棟が請け負っていますが、「5類感染症」になったからといって、非コロナの患者さんと同室に入院させるわけにはいきません。インフルエンザと同じように、院内における隔離が必要になります。

もし、「5類感染症にするので全医療機関は新型コロナを診療するように」とお達しを出そうとしても、そういった要請が出せるのが「新型インフルエンザ等感染症」の強みだったわけで、制度上の自己矛盾を孕むことになります。

過渡期の緩和は明解がない

分科会メンバーらの有志による『「感染拡大抑制の取り組み」と「柔軟かつ効率的な保健医療体制への移行」についての提言』(3)では、専用病棟でなくてもよい、個人防護具(PPE)の着用を少し緩和させる、などの策が紹介されています(図3)。

図3. 幅広い医療機関が参画する体制を構築するための案(参考資料3)
図3. 幅広い医療機関が参画する体制を構築するための案(参考資料3)

過渡期の対策は「100から一気に0へ」というわけにはいかず、グラデーションをつけながら徐々に緩和していかざるを得ません。当然ながら各論はポジショントークになるので、専門家やキーオピニオンリーダーによって意見が異なります。

まとめ

新型コロナの感染症法の位置づけについては、「最終的には政治判断になる」という結論になりますが、決定前に専門家の意見が反映できる仕組み作りが望まれます。

今後、整備を進める感染症危機管理の司令塔組織や日本版CDCの設立に期待したいところです。

(参考)

(1) Horita N, et al. J Med Virol. 2022 Oct 17. doi: 10.1002/jmv.28231.

(2) データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(URL:https://covid19.mhlw.go.jp/)

(3) 第93回(令和4年8月3日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 参考資料2(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000972889.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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