橋下徹氏は沖縄の人々に謝罪すべき―「風俗活用」「米軍批判は外国人差別」の論理破綻
沖縄県・うるま市で、米軍属で元海兵隊員のシンザト・ケネフ・フランクリン容疑者が、20歳の女性会社員に性的暴行を加え、殺害、遺体遺棄した事件について、とんでもない暴言が飛び出した。発言の主は、おおさか維新の会の前代表、大阪市前市長の橋下徹氏。「米兵等の猛者がバーベキューやビーチバレーでストレス発散できるのか。風俗の活用でも検討してはどうだと言ってやった。これは言い過ぎたとして撤回したけど、やっぱり撤回しない方がよかったかも」等と自身のツイッターに投稿。さらに、「今回の事件で米軍基地の存在が事件の原因だとして、米軍基地を否定する主張を自称人権派は展開している。これこそまじめに活動している米兵等への人権侵害だよ」等、とも投稿。沖縄の現地紙や基地問題に取り組む市民らから反感の声が上がっている。
◯橋下氏の主張に沖縄二紙も批判
橋下氏の「風俗活用」発言には、昨日25日に首相官邸前で行われた抗議集会(関連記事)でも、批判の声がいくつもあがった。アジア女性資料センターの竹信三恵子さんは「政府や米軍の問題を女性たちに負わせるな!と言いたい」と憤り、I女性会議の池田万佐代さんも「沖縄の状況を理解しない政治家がますます米軍犯罪を許容させている」と指摘した。また、沖縄の地方紙の沖縄タイムズも26日付けのウェブ版で橋下氏の投稿を取り上げ、「沖縄戦で軍事占領され、米施政権下で強制接収された土地に基地ができ、県民が望まない形で駐留する軍人や軍属の事件であることや、沖縄の過重負担などには触れていない」と指摘。同じく、現地紙の琉球新報も23日付けのウェブ版で「橋下氏は米軍関係者の犯罪を米軍基地ある故とする報道を『移民差別』だとし、地位協定で保護されている米軍関係者と移民と同一視した。論理のすり替えと批判が出そうだ」と報じている。
◯あまりに短絡的な橋下氏の主張
今回の一連の橋下氏の主張には、大きく分けて2つの問題がある。一つは、「風俗を活用すれば米兵による犯罪はなくなる」という短絡的かつ女性達の人権を無視した発想。もう一つは、在日米軍への批判を「真面目な米軍兵士への人権侵害」「差別」とする、沖縄の状況や米軍基地問題の構造的な部分を無視した、悪質な論理のすり替えだ。
「米軍犯罪抑止に風俗活用」という橋下氏の主張は、大阪市長時代の2013年5月13日の会見に、従軍慰安婦制度と絡めて、発言。国内外の反発を受け、撤回したという経緯があるように橋下氏の「持論」なのだろう。だが、朝鮮戦争時代、在日米軍兵士と日本人女性との売買春が在日米軍の黙認、或いは積極的な推進により、日常的に行われていたが、米軍による犯罪はなくならず、むしろ、売春街周辺での強盗、強姦、暴力事件などが多発した。
参考:
東アジアの米軍基地と性売買・性犯罪
http://www.geocities.jp/hhhirofumi/paper75.pdf
また米軍兵士に「風俗を活用」させたとしても、今度は風俗業界に従事する女性達が殺されたり、怪我を負わされたりする可能性も高い。実際、韓国では、米兵がいわゆるセックスワーカーの女性を殺害し懲役15年の判決を受けるという事件が起きている。なぜならば、基地から戦地に派遣される米兵達は極度のストレス状態にあり、また米軍の訓練においても、差別や暴力を助長することが積極的に行われているからだ。筆者がインタビューしたあるイラク帰還米兵も「上官がイラク人捕虜をナイフで殺せたら、ビール券をやるぞ、と言っていてショックを受けた」「米軍兵士らはイラクの人々を人間とみなしていなかった」と話していた。仮に在沖米軍兵士に「風俗を活用」させたとして、風俗従業員女性が殺される事態になったら、橋下氏は自身の言動の責任を取るつもりはあるのだろうか。
◯悪質なすり替え
沖縄二紙が指摘するように、橋下氏の主張は、沖縄の状況や米軍基地問題の構造的な部分を無視した、悪質な論理のすり替えだ。橋下氏は在日米軍への批判に対し「まじめに活動している米兵等への人権侵害」「差別」だと評している。
あまりに低レベルな詭弁なので、いちいち反論するのもバカバカしいが、これらの主張にも反論しておく。問題は、真面目な米兵がいるかいないかではなく、在日米軍という組織の問題だ。沖縄県基地対策課によると、1972年の本土復帰以来、殺人・強盗・強姦・放火などの凶悪犯罪が574件も発生している。つまり毎年13件の米軍兵士による凶悪犯罪が沖縄で起き続けており、その度に「綱紀粛正」「再発防止」が強調されるが、一向に事態が改善される気配がない。橋下氏は日本企業の例え話をしているが、一般企業だって、社員が重大犯罪を犯し、しかもそれが何度も繰り返された上、その社員らを企業がかくまうようなことがあれば、当然、批判されるし、経営者の責任も問われるであろう。まして、在日米軍は、日米安保条約に明記されているように「日本その他極東の平和と安定」のために日本にいられるのである。一般企業より、その責任ははるかに重い。その在日米軍が沖縄の人々の命や尊厳を繰り返し奪い、現地の社会に不安と過度のストレスを強いているのならば、その駐留の是非自体を問われてもおかしくない。
そもそも、在日米軍兵士の犯罪とその他の外国人犯罪とを混同すること自体、基地問題の本質を理解していない。一般の外国人と異なり、在日米軍兵士は、日米地位協定により様々な特権があり、刑事事件を起こしても、日本の警察当局がその特権に捜査を阻まれることが少なくない。 地位協定により、公務執行中の米兵・軍属に対する第一次裁判権は米軍側にあり、公務外での犯罪でも、米兵等が米軍基地内にいるときは、その身体は、起訴されるまで日本側に移されない。そのため、犯罪を犯した米兵が基地に逃げ込み、そのまま帰国してしまうということが相次いだ。その上、日米密約(1953年)において、米兵等による公務外の犯罪においても「日本国にとって著しく重要と考えられる事例以外は、第一次裁判権を行使するつもりがない」と日本側が自ら、一次裁判権を放棄してしまっている。酷いことに、沖縄米兵少女暴行事件(1995年)以降も、1996~2011年までの米兵による女性暴行事件のうち8割強が不起訴で、逮捕すらされなかったのだ。
〇中学校で習うことも理解していないのでは?
ネット上で、日米地位協定のことを指摘された橋下氏は、「集団的自衛権の行使を認めてこそ、対等になれる」とも書き込んでいるが、これも論外。集団的自衛権の行使を禁止する日本国憲法は、言うまでもなく、国の最高法規であり、それを日米地位協定と同列にするなど、いかに破たんした論理か、法律の専門家でなくてもわかるはずだ。日米地位協定は、日米安全保障条約に基づくものであり、条約より憲法の方が高位にあることは、中学校の公民の授業で習うレベルの話だ。おおさか維新の会の前代表として、安倍政権をフォローしているのかどうかは知らないが、破たんした論理を振り回して、これ以上、沖縄の人々の心を傷つけるのは、やめるべきだろう。
(了)