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17歳佐賀西鉄バスジャック殺人事件から20年:事件を防ぐために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:高速バスのバスジャック対策(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■西鉄バスジャック事件

2000年5月3日、佐賀県の天神バスセンター行き高速バスで発生。2人が負傷して女性1人が死亡。逮捕されたのは、17歳の男子高校生。ネット上のハンドルネームから、当時「ネオむぎ茶事件」などとも呼ばれた。

バスジャックをしたときのセリフ「おまえたちの行き先は天神じゃない。地獄だ」も報道された。

乗客は、怪我を負い、命を失い、恐怖の時間を過ごした。そして、逮捕された少年も家族も、地獄の日々を過ごしたことだろう。

■佐賀バスジャック事件の経緯

報道によれば、少年はもともと優等生だったというが、挫折と失望を繰り返していくことになる。

中学校でのいじめ被害→家庭内での暴力加害と家族の悩み→周囲に挑発され高校入試直前に校舎から飛び降りて重傷→高校に入学したが、すぐに中退→

ネットの2チャンネルに没頭、ハンドルネームはネオむぎ茶→「ネットでバカにされた」と感じる→孤立感・劣等感・攻撃心→家庭内暴力の悪化→親は警察や精神科に相談→

親は警察や精神科に相談したが、どちらにも納得のいく対応をしてもらえず、そこでマスコミでも有名な東京の精神科医に電話で相談→

この精神科医が連絡を取ったことで、地元の病院が対応し、佐賀県内で保護者の同意による医療保護入院(本人からすれば強制的な入院)→

不本意入院→不満→外泊時のドライブの希望を親に断られる→「親に見捨てられた」と感じる→孤立感の深まり→「目立ちたい」(愛されたい)→

2000年5月1日豊川17才主婦刺殺事件「殺人の体験をしてみたかった(人を殺してみたかった)」→「先を越された」思い→2000年5月3日バスジャック→人質逃亡→「裏切られた」と感じて怒る→殺人→逮捕→

「大きく報道されてうれしい」「親を心配させて、関心を引きたかった」・両親が謝罪・簡易精神鑑定→本格的な鑑定へ→解離性障害の診断→医療少年院→2006年仮退院→社会復帰へ

■20年後の関係者の苦悩

(事件の)約2カ月前、署に男性の両親から「息子がインターネットの通信販売で購入した刃物を持って自室にこもっている。不可解な言動もみられる」と連絡があった。〜

警察も当時としてできる範囲の対処をした。だが、事件は防げなかった。「男性や家族の悩みをもう少し聞いてあげることができていたら、結果は違っていたかもしれない」。

出典:防げなかったバスジャック 「あの子か…」署員の苦悩いまも 5/3(日) 西日本新聞

記事によると、佐賀県警は「少年相談総合センター」(現・少年サポートセンター)を設置し、悩みを抱える子どもとその家族への支援を続ける。

■事件は防げなかったか。今後はどのように類似の事件を防ぐか

警察は「自傷他害の恐れあり」となれば、その人を「保護」できる。精神科でも、本人や家族の同意がなくても「措置入院」させることもできる。

ただ、どのような状況が「自傷他害の恐れあり」であり、どのような状態なら「措置入院」させて良いのか、判断は簡単ではない。地域によって、判断が異なることもある。

たしかに、警察や病院の対応が違っていれば、事件は防げたかもしれない。しかし、事件の原因は警察と病院だけではない。家族だけが原因でもない。

事件の原因は、複合的だ。

上に示したように、事件までの経緯の中では、様々なことが起こり、多くの人が関わっている。どこかで誰かが違う対応をし、何かが少しでも違っていたら、事件は起きなかったかもしれない。

少年は、優秀だった。親も、愛がある有能な人だった。

だが、逮捕後の供述によれば、少年は「親は専門家の方ばかり見て、自分を見てくれなかった」と供述している。

親を責めれば良いわけではない。警察や病院や、子供のことのいじめっ子や、ネットで馬鹿にした人たちを、責めれば良いわけではない。本人だけを責めて済む話ではない。それだけでは、防犯につながらない。

誰かを責めれば良いわけではないが、忘れて良い出来事でもない。

このような事件は、レアケースだ。滅多に起きない。だが、私たちはこういうことも起こり得ることを忘れてはいけない。被害者が出る可能性を無視してはいけない。

コロナ感染が広がる中、世の中ではギスギスした雰囲気が広がっている。怒りが蔓延している(怒りを良い方向に生かす方法:コロナ離婚、コロナ退職を防ぐアンガーマネジメントの心理学:Yahooニュース個人有料)。

医療スタッフとして、教員として、警察として、親として、ネットユーザーとして、今それぞれの場所で、第二の事件を防ぐためにするべきことがあるはずだ。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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