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北朝鮮の大口径ロケット弾の正体は超大型ロケット弾

JSF軍事/生き物ライター
 北朝鮮発表より装軌車両型の大口径ロケット弾発射機と超大型ロケット弾発射機の比較

 3月30日、北朝鮮は「3月29日に国防科学院が超大型放射砲の戦術的・技術的特性を再度実証する目的で試験射撃を行った」と発表しました。なお金正恩の視察は行われておらず、超大型ロケット弾が発射される様子と無人島に着弾する様子の写真が発表されています。(※放射砲とは多連装ロケットの北朝鮮での呼び名)

 その写真に写っていたのはクローラーの脚周りを持つ装軌式車両に6連装の発射機が搭載されているものでした。これは従来発表されてきた超大型ロケット弾(装輪式4連装発射機)のものとは全く別の車両です。

北朝鮮発表より2020年3月29日「超大型ロケット弾」の発射試験
北朝鮮発表より2020年3月29日「超大型ロケット弾」の発射試験

 これは昨年の2019年7月31日と8月2日に発射され翌日に「大口径操縦放射砲(大口径誘導ロケット弾)」と発表されていた発射車両の特徴と一致します。昨年の公式発表では発射機にモザイクを掛けた写真で公表されていたものが、今回はモザイク無しで公開されました。

 なおこの装軌式車両は北朝鮮版ATACMS短距離弾道ミサイルの発射車両にも酷似しており、発射機は異なりますが車体は準同型と思われます。(※ただし北朝鮮版ATACMSの車両とは起倒用の油圧シリンダーの構造は異なっている)

北朝鮮が2019年に公開した「大口径ロケット弾」
北朝鮮が2019年に公開した「大口径ロケット弾」
北朝鮮発表より北朝鮮版ATACMSと超大型ロケット弾(装軌型)
北朝鮮発表より北朝鮮版ATACMSと超大型ロケット弾(装軌型)
北朝鮮発表より「超大型ロケット弾」装輪式4連装型と装軌式6連装型
北朝鮮発表より「超大型ロケット弾」装輪式4連装型と装軌式6連装型

 なお今朝の発表で北朝鮮は「超大型放射砲武器体系(超大型多連装ロケット武器システム)」という表現を用いており、超大型ロケット弾にはシステム化された幾つかの種類がある事を示唆しています。つまり昨年「大口径操縦放射砲」と表記したのは兵器の固有名称ではなく一般名称であり、装軌式車両型は「超大型放射砲武器体系」の中にある一つの形態であったと受け取ることが出来ます。

ロケット弾の飛行性能に残る謎

 今回3月29日の試験は北朝鮮東部から発射され北東の日本海沿岸の無人島に着弾、韓国軍の観測では2発が確認され、水平距離230km最大高度30kmの浅い角度で低く飛ぶディプレスト軌道でした。なお滑空やプルアップなどの複雑な機動は行われていません。長細い形状のロケット弾では特殊な動きは行えないのです。水平距離と最大高度だけを見れば昨年7月31日と8月2日の「大口径操縦放射砲」発射時に近い性能ですが、この昨年の発射時は韓国軍によって最大速度マッハ6.9という射程からは考え難い高速が観測されている謎がまだ残っています。

 また2019年に複数回の発射試験が行われた超大型ロケット弾の最大射程は通常軌道による水平距離380km最大高度100kmが観測されています。しかし2020年3月9日に発射された超大型ロケット弾は通常軌道だったにもかかわらず、水平距離200km最大高度50kmと最大射程が半減しています。このことから「超大型放射砲武器体系」は発射車両が2種類用意されているだけではなく、まだ確定ではないもののロケット弾の方も複数種類の異なるものが既に用意されているのではないかと疑いを持てます。

【関連】380km→200km? 何故か最大射程が大幅に短くなった北朝鮮の超大型ロケット弾の謎

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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