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学生時の結婚・出産がもっと社会的に受け入れられるべきではないか?

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
若夫婦と赤ちゃん(ペイレスイメージズ/アフロ)

 この数年、働き方改革こそが、日本社会を変革できる可能性だと考えて、それに関する調査研究や提言活動など(注1)も行ってきた。その中の一つの重要なポイントは、やはり女性の社会進出や活躍であると考えている(注2)。

 では、どうするか。

 その一つの可能性・選択肢として、筆者は、誤解を恐れずにいえば、大学生頃に結婚出産・子育てをして少し落ち着いてから卒業・就職することが、ワークおよびライフの両面からみて、女性にとっての選択肢の一つとしてもっと真剣かつポジティブに評価されても良いのではないかと考えている(注3)。

 これにはいくつかの理由がある。

 まず、キャリアの面から。最近では、安倍政権は、働き方改革を重要なポイントとして取り上げ、長時間労働規制に関する様々な議論がなされ、多くのメディアなどでも、そのことが取り上げられ、大変注目を受けている。もちろん、体調を崩すなどの原因となる長時間労働などは解決すべき重大な問題・課題ではあるが、自分のキャリアを確立し、仕事で成果を出し、上を目指していくのであれば、ある時期長時間労働を含めて、徹底的に仕事をし、仕事を覚え、自己のキャリアの土台を築く必要がある。そのことは、仕事をしたことがあり、自分のキャリアを確立した、あるいは確立したことのある方なら、男女に関わらず、ご理解いただけるだろう。実際、世界中で活躍する人材は、少なくもある時期に長時間かつ猛烈に仕事をしている。

 ところが、男女に関わらず、大学を卒業して、就職するとすでに22歳ぐらいになり、その後に、仕事を確立することになる。つまり、20歳代後半あたりは、職場に慣れ、仕事を覚え、経験するうちにあっという間に終わり、キャリアを確立するために、猛烈に働く時期は、30歳前後になる。そうすると、女性の場合、その時期に、たとえその頃に結婚しても、仕事をしていると、その時期の出産・子育てはかなり厳しい。

 その場合、いくつかの選択がある。まず一つ目は、出産後、マミートラック(注4)に入り、比較的楽あるいは自由度の効く仕事に異動し、仕事と家庭を両立させる方法。その場合も、大変なことがあるし、その方向を希望する方もあり、それ自体は本人の選択の問題だろう。だが、最近では出産・子育てで中途で辞める女性が減ってきて、マミートラックを維持するための、組織内のポジションがなくなってきており、現状の組織体制を大きく変える必要も生まれていると聞く。また、女性がキャリアを積んで、場合により組織内で役職等の上を目指したいのであれば、一時はマミートラックでも、出来るだけ早く通常のキャリアに戻る必要がある。またやる気のある女性が、マミートラックに終始することになると、仕事への意欲を喪失したり、退職することも多いらしい。それは、本人にも組織そして社会的にも大きな損失だ。

 また結婚を機に退職すると、家庭や子育て等の時間は十分にあるが(注5)、仕事からは遠ざかるので、重要な時期をある意味で失うことになり、その後のキャリア形成においてマイナスになる可能性が高い。

 その結果、キャリアで頑張る女性が、結婚し、子どもを出産し、キャリアにおける土台をつくれるようになるには、どうしても30歳半ばぐらいかそれ以降になってしまう可能性が多い。

 ところが、である、ここに立ちはだかる壁がある。それが、「バイオロジカル・リミット」というものだ(注6)。それは要するに年齢に伴う妊娠における生物的な制約のことで、35歳を境に女性の妊娠率が急激に低下する事実や、父親の年齢と子供の疾患や障害の高い関係性があることなどを指している。最近の女性はそのことについて学んで知っているとのことだが、特に女性が、キャリア形成と妊娠・出産の間のナローパスを非常に厳しく認識しなければならない現実があるらしい。最近は、以前よりも高齢出産の事例が増えているようにも感じるが、男女共に年齢的なその制約がなくなっているわけでは決してない。

 そして、子育ても、子供が生まれた後も特に幼少期はかなりのエネルギーや体力を要することを考えると、まだ体力のある程度若い時期に出産・子育てを終えた方が、夫婦の負担の軽減やキャリア形成にも有効なのではないかと思う。

 また、学生の頃に結婚・出産し、ある程度の子育てをして余裕ができるぐらいの頃に卒業して就職すると、実は子育ては40歳代の半ばぐらいまでで終え、キャリアの方でバリバリ活躍できることにもなり、ライフとキャリアとの両立と仕事に専念できることのタイミングの歯車がうまく回るようになる。 

 さらに、筆者が、2、30歳代の女性に、そのような早期の結婚・出産はどうかと尋ねると、「それは良いこと」「いいことかもしれない」と回答する方が多かったということも付け加えておきたい。

 このように考えていくと、もちろん飽くまで本人あるいは夫婦間の選択の問題ではあるが、一つの可能性として、本記事で述べたような可能性があること、そしてそのような可能性が、社会的にもっと広く受け入れられてもいいのではないかと考える。いかがであろうか。

 ぜひ読者の方々から、そのような考え方に対する多くのご意見やコメント等をいただければと思う。

(注1)政策提言「新しい勤勉(KINBEN) 宣言」(PHP総研)

(注2「女性の活躍が新たな「多様性」を創造する…日本の成長と変革は「多様性」から生まれてきた!」(Yahoo!ニュース 2016/2/21)

(注3)もちろん、飽くまで個人の選択の問題で、全員がこうしなければならないというものではない。

(注4)「『マミートラック』とは、子どもを持つ女性の働き方のひとつで、仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのことです。職場の男女均等支援や仕事と育児の両立支援が十分でない場合、ワーキングマザーは往々にして補助的な職種や分野で、時短勤務を利用して働くようなキャリアを選ばざるをえなくなり、不本意ながら出世コースから外れたマミートラックに乗ってしまうことが少なくありません。」(出典:人事労務用語辞典)

(注5)それはそれで一つの選択なので、良いのであるが。

(注6)拙記事「「東大ママ門」のイベントに参加して考えた…仕事と出産・子育て問題の解決は、新しい日本を創ること」(Webronza2015年06月24日)

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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