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「ドラクエ」や「ときメモ」「ロマサガ」 名作ゲームのリメーク続々 なぜ

河村鳴紘サブカル専門ライター
11月に発売予定の「ドラゴンクエスト3」の戦闘シーン

 「ドラゴンクエスト3」や「ときめきメモリアル」「ロマンシング サガ2」など、一昔前の名作ゲームが、パワーアップして続々と復活する流れにあります。そしてSNSでも話題になるなど目立っていますが、なぜでしょうか。

◇リメークの積極活用 業績に貢献

 実はリメークそのものは2000年代から活発で、今に始まったことではありません。そして一部の熱烈なゲームファンは「完全新作のゲームを遊びたい」と考えて、リメークを批判する傾向にあります。ネットの声(評判)を何かと気にするゲーム会社ですが、それでもリメークは積極的に活用されました。

 メーカーがリメークをする理由は大きく三つ。一つ目は既に昔のファンがいるため一定の売り上げが見込めること。二つ目は開発コストが抑えられること。三つ目は、購入者が安心して買えることです。

 エンタメコンテンツは「合う」「合わない」の相性があり、ゲームは特にその振れ幅が大きい傾向にあります。キャラクターやストーリーはもちろん、操作方法、表現など挙げていけばキリがありません。リメークは過去に成功したから出すわけで、買う側もどんなテイストか分かりやすいのです。

 またリメークを活用して、期待の新作の販売拡大を図る戦略もありました。スクウェア・エニックスはニンテンドーDS用ソフト「ドラゴンクエスト9」(2009年発売)を発売する前、「4」「5」「6」をリメークして“ドラクエ熱”を高める計画を立て、実際に「9」は400万本以上を売る成功を収めました。「6」の発売は、発売を延期した「9」の後にずれ込むなど、思惑通りとはいきませんでしたが、それでもリメークの3作はそれぞれ100万本以上売れ、当時の関係者を驚かせました。

◇コンテンツの質量強化 時代の流れ

 大手ゲーム会社は近年、有力コンテンツの囲い込みを図っており、買収に積極的。そしてコンテンツを質と量の両方で強化をする一端として、昔の作品を今まで以上に次々と復活させており、公式サイトにもリメークの特設ページを作ってアピールしています。さらにいえば、任天堂もソニーも、有料のネットサービスで昔のゲームを遊べ、特設サイトでリメークをアピールするなどしています。

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 世界のゲーム市場規模は年々拡大しており、今後も伸びると見られています。日本貿易振興機構(JETRO)が今年7月に発表した「米国におけるゲーム市場の動向」によると、2023年は2314億ドル(1ドル145円で約33兆円)で、2030年には5568億ドル(80兆円)に拡大する推計もあります。

 特に昔のゲームの人気は、当時の思い出の楽しさもあってか、驚くほどの人気になることもあります。ファミコンゲームが遊べた「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(2016年発売)は、普段ゲームを遊ばない人たちも注目して品薄となり、2018年には再生産をするほどでした。

◇ゲームのパワー実感した安倍マリオ

 名作の復活が盛り上がる上での、象徴的なターニング・ポイントがありました。2016年のリオ五輪の閉会式で、安倍晋三元首相(当時)が、マリオのコスプレをして、話題になったことです。東京五輪を世界にアピールする手段として、アニメやマンガではなく、ゲームのキャラクターを選んだのです。

リオ五輪の閉会式で、マリオのコスプレをした安倍晋三元首相
リオ五輪の閉会式で、マリオのコスプレをした安倍晋三元首相写真:アフロスポーツ

 マリオのように、長期にわたりシリーズがいつもヒットを飛ばしているゲームで、かつ国民の大多数がほぼ知っているキャラクターは、そういません。長寿の人気シリーズはいくつもあるのですが、ここまで認知度の高いものはなかなかありません。そしてゲームのシリーズものは、目先を変えるため、舞台やキャラクターもよく変わることも影響しているのでしょう。

 ゲーム業界を長年取材をして感じるのは、大手ゲーム会社はコンテンツの見切りの判断が早い傾向にあることです。人気シリーズでも売れ行きが鈍ると、放置してそのまま……というのは別段珍しくなかったのです。さらに言えば「続編もの」よりも、新しいアイデアを盛り込む新機軸の作品を高く評価する傾向もありました。その職人気質は、ゲームの強さの一つではあるのですが、コンテンツの徹底活用という視点では、課題がありました。

 カプコンのように2000年代前半からゲーム「バイオハザード」を映画で展開、ゲーム以外でコンテンツを活性させていた例もあります。ただし、多くのゲーム会社は総じて、本業のゲーム開発に注力するのを良しとしていました。ここでも「餅は餅屋」という職人気質がありました。もともとゲームは利益率が高いビジネスで、コンテンツを徹底的に活用せずとも済んだこともあるでしょう。

 ですが2010年代はスマホゲームのヒットでビジネスが変わり、ゲームと言えどもこれまでのような“かじ取り”が難しくなったこともあり、各社とも戦略の見直しを迫られました。任天堂はかつて否定したスマホゲームを出し、ソニーはPCの展開を含めたマルチ戦略を強めています。

 そして以前であれば、やはり否定的だったゲーム原作の映像化ですが、各社とも現在は積極的です。ゲームのテイストを前面に押し出したアニメ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の成功は記憶に新しいでしょう。原作ゲームのテイスト、キャラクターを大事にしたことで、ゲームというメディアの存在感の大きさを改めて示しました。

 その中で、かつては下に見られていたリメークの立ち位置も変わっています。昔のテイストの作品を提供するにはとどまらず、以前よりも格段にパワーアップさせるのが当然……という流れになっています。中には「ファイナルファンタジー7」シリーズのように、新作のレベルにあるリメークもあります。

◇昔のゲーム活用の動き 今後も 

 今のゲームビジネスは、既存ユーザーのロイヤルティー(忠誠心)を高めてソフトを売るのと並行して、新規・離脱ユーザーを獲得するため、ゲームを遊べる間口(プラットフォーム)を増やすことが重視されています。任天堂は依然として自社のゲーム機にこだわっていますが、ソニーもソフトメーカーも自社のソフトをマルチに展開するのは普通になっています。映像化もあって、昔のゲームが再び注目されて躍進できるチャンスがあるわけです。

 ただし課題もあります。名作ゲームの復活ですが、ネットの話題になっても、そこで終わってしまってはもったいない話。ゲームファンだけの話題で終わらせず、販促などに力を入れて、売り上げという結果を出すこと。そして数年先、さらにその先を見据えたブランディングも含めてどうするかです。ただし新作コンテンツを開発することも必要で、そのバランスも重要にはなるでしょう。ともあれ昔のゲームという資産をより活用したゲーム会社の動きは今後も続きそうです。

 そして出版社やテレビ局などがゲームのビジネスに乗り出しているように、激しい争いは続き、合従連衡も含めて予想外の動きもあり得る話でしょう。ゲーム以外のコンテンツもあり、数年先すらも予測しづらいところですが、注視したいところです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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