北朝鮮サッカーで"わかっていること" 競技用語が"独特"…「攻撃違反」「連絡」の意味は?
謎のチーム、と言われる。北朝鮮サッカー代表のことだ。
2024年2月末からおよそ1か月間、日本の男女代表がこの国の代表チームと対戦する。
2月24日 女子代表 パリ五輪アジア最終予選(アウェー)
2月28日 同ホーム
3月21日 男子A代表 北中米W杯アジア2次予選(ホーム)
3月26日 同アウェー
ひとつ、よく知られていることがある。そのサッカー用語が"独特"だということ。ヘディングを「頭当て」、PKを「11メートル蹴り」などと言う。日本も韓国も多くはサッカーの宗主国イギリスに倣い、英語を用いている。しかし北朝鮮は別の基準から「自国語化」している。
韓国でこれが最初に話題になったのは02年W杯の時期。4強入りした大会での決勝トーナメント1回戦イタリア戦が北朝鮮でも録画中継された。これがそのまま韓国でも放映され、韓国ネットユーザーの間でちょっとした話題になったりもした。
ここではその後韓国各メディアで紹介されてきた「北朝鮮サッカー用語」をまとめてご紹介する。なでしこジャパンのパリ五輪出場を100%確信・応援しつつ、ちょっとした「観戦のつまみ」としてぜひ。
ポジション別
ゴールキーパー:北「門番(ムンチギ)」/南「ゴールキーパー(コルキーポー)」
ディフェンダー:北「防御手(パンオス)」/南「守備手(スビス)」
センターバック:北「最終防御手(チェジョンパンオス)」/南「センターバック(センターバック)」
サイドバック:北「翼防御手(ナルゲパンオス)」/南「サイドバック」
サイドの選手を「翼(ナルゲ)」と呼ぶのは韓国との共通点。確かに韓国ではTV中継などでは「サイド」という使われるが、草サッカーなどで年配者の世代はいまでも「翼」という言い方をする。
ミッドフィルダー:北「中間防御手(チュンガンパンオス)」または「中間(チュンガン)」/南「MF(ミドゥピルド)」
トップ下:北「中間攻撃手(チュンガンコンギョクス)」/南「攻撃型ミッドフィールダー」
フォーワード:北「攻撃手(コンギョクス)」/南「FW」
ストライカー:北「力攻撃手(ヒムコンギョクス)、背負い攻撃手(ペギムコンギョクス)」/南「ストライカー」
FWのことを「攻撃手」と呼ぶのも南北共通。双方で「センターフォワード」のみを指す場合が多い。韓国ではサイドのFWは「ウインガー」と呼び、「攻撃手」とは区別される場合が多い。
プレー用語
パス:北「連絡(リョンラク)」/南「パス(ペス)」
クロス:北「長い連絡、長距離の連絡(キン リョンラク、チャンゴリ リョンラク)」/南「クロス」
シュート:北朝鮮と韓国で共通「シュート(シュッ)」
ルール用語
オフサイド:北「攻撃違反(コンギョク・ウィバン)」「攻撃違い(コンギョク・オギム)/南「オフサイド」
ファウル:「反則(パンチク)」北朝鮮と韓国で共通
イエローカード/レッドカード:「イエローカード/レッドカード」北朝鮮と韓国で共通
その他
コーナーキック:北「角から蹴り(クソクチャギ)」/南「コーナーキック)」
フリーキック:北「ボール蹴り(ボルチャギ)/南「フリーキック」
ペナルティキック:北「罰蹴り(ボルチャギ)」「11メートル蹴り(シビルミートーチャギ)」/南「페널티킥(ペナルティキック)」
上記では紹介されないが、想像以上に"大胆"に使われる英語は「チーム(ティム)」だ。「労働新聞」などにも自国代表を「朝鮮チーム」というケースが多い。
もうひとつ違う観点で論じるべきは「現場でも本当にそう言っているのか?」という点だ。筆者は2011年のロンドン五輪予選@中国に参加した北朝鮮代表を取材したことがあるが、確かにパスを「連絡」と言っていた。いっぽうで在日コリアンの北朝鮮代表歴のある選手は「オフサイドは英語でそのまま言っていた」との証言も。また「ワールドカップ」は以前、「世界蹴球選手権(セゲチュックソンスクォン)」と言っていたが、22年カタールW杯の中継時には「ワールドカップ」との表現が見られた。
北朝鮮では1966年に最高指導者金日成氏の指示によって人工的に作られた「文化語」を標準語としている。平壌の言葉を基準に、浄化による語彙整理を加えて作られた人工的なもので、同地で発行された「朝鮮語大辞典」(1992年)によると、「主権を握った労働階級の党の指導のもと、革命の首都を中心地とし、首都の言葉を基本にして、労働階級の志向と生活感情に合わせて革命的に洗練され美しく育てられた言葉」と定義される。最も特徴はもともと漢字が由来の言葉を朝鮮語固有の言葉に、英語由来のものを漢字の言葉や朝鮮固有語に置き換えたもの。この影響で英語由来の言葉が多く用いられているサッカー用語が上記のような形になっている。いわば現地の政策によるものなのだ。