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ヴィニシウスはレアルの「救世主」になれるのか?ジダンを悩ませる「7つのギアを持つ男」

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶヴィニシウス(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

彼は、レアル・マドリーの救世主になれるだろうか?

「彼」とは、ヴィニシウス・ジュニオールである。リーガエスパニョーラ第12節、マドリーは敵地サンチェス・ピスファンでセビージャと対戦した。56分にフェラン・メンディのクロスに飛び込み、ネットを揺らしたのはヴィニシウスだった。

記録上はセビージャGKボノのオウンゴールになった。だがその決勝点で、公式戦4試合で未勝利が続いていたマドリーは白星を飾っている。

セビージャ戦のマドリーのスタメン/筆者作成
セビージャ戦のマドリーのスタメン/筆者作成

■ヴィニシウスのギア

「ヴィニシウスは素晴らしいフィジカル能力を備えている。普通の車のギアは5段だ。だが彼には7段のギアがある」とはブラジル代表を率いるチッチ監督の弁である。

だがそれは彼の努力の賜物だ。近年のマドリーでは、クリスティアーノ・ロナウド(現ユヴェントス)、セルヒオ・ラモス、カゼミーロらがジムでトレーニングを行う選手の「常連」だった。現在、そこにヴィニシウスも加わっている。昨季、ロックダウンの期間では、自宅で5時間に及ぶトレーニングを行っていたという。マドリーのフィジカルトレーナー、グレゴリー・デュポンが指定したメニューの倍以上のトレーニングをヴィニシウスは行っていた。

ヴィニシウスのパーソナルトレーナーであるチアゴ・ロボは語る。

「ヴィニシウスはモチベーションで動くタイプではない。彼は自分の信念に従って動く。『これは好きではない。だけど必要だから、やる』という考え方だ」

単位(万/ユーロ)/筆者作成
単位(万/ユーロ)/筆者作成

■現れたライバル

ヴィニシウスは2018年夏にマドリーに正式加入した。マドリーは彼の獲得に際してフラメンゴに移籍金4500万ユーロ(約54億円)を支払っている。

この数年、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長は「若手推進プロジェクト」を実行してきた。なかでも、南米のマーケットからの選手獲得には力を注いできた。国際フットボール部門トップのフニ・カラファトを重宝しながら、ヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエス(移籍金4500万ユーロ/約54億円)、ヘイニエル・ジェズス(移籍金3000万ユーロ/約36億円/現ドルトムント)を確保してきた。

だがマドリーは2019年夏に移籍金1億ユーロ(約120億円)でエデン・アザールを獲得。ジネディーヌ・ジダン監督の要望だった。ヴィニシウスにとっては強力なライバルが現れる格好になった。

時には、ヴィニシウスに不慣れな右ウィングでのプレーが求められるようになった。アザールが左ウィングのファーストチョイスだったからだ。それでも、諦めずにフィジカルトレーニングを行い、得点力を向上させるためにシュート練習に励んだ。

昨季、リーガ第6節オサスナ戦でゴールを決めると、人目を憚らずに涙を流した。「ケガをしてから、苦しかった。幸せを感じられていなかった。これだけゴールが決められない時間を長く過ごしたことはない。試合で良いプレーができていると思えていなかった」と試合後にヴィニシウスは語った。

アザールの度重なる負傷離脱で、ジダン監督が彼を戦力に数えるのは難しい状況だ。「7つのギアを備える男」が、マドリーの左サイドを支配しようとしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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