えーっ、蜘蛛(クモ)って交尾しないの。交接って何それ。
蜘蛛(クモ)の生殖行動は、人間から見るとまるで人工授精のようで、ちょっと変わっている。クモは一般的に虫(ムシ)として扱われることも多い(昆虫に擬態するクモもいる)が、昆虫ではないので、生活様式が昆虫と大きく異なっても不思議はない。
昆虫はたいてい、雄と雌が互いの交尾器を接触させて交尾する(トンボのようにワンクッション置いた間接の交尾もあるが)。しかし、クモの雄は、腹部から出した精子を、頭部近くにある触肢(歩くための8本の脚とは違う手のように見えるもの)の中にあらかじめ吸い込んでおいて、その触肢を雌の腹部の生殖口に差し込んで精子を注入する。注射器を使った人工授精のような雰囲気だ。
これを便宜的に「交尾」と表現することもあるが、厳密には「交接」と呼ぶようだ。先日久々にこの「交接」を野外で観察できた。昆虫の交尾とは全く違って、神秘的な儀式のようでもあり、しばし見とれてしまった。
「そんな手作業のような生殖行動の何が楽しいのか」、などと人間感覚で判断してはいけない。クモの生殖行動は、子孫を残すための命がけの仕事であり、愛だの恋だの言っていられないのだ。
クモの雄は、通常雌よりかなり小さい。種類によっては体重が何十分の一とか、百分の一とかいうこともある。そして、交接の際に雌に食べられて、栄養になってしまうこともある。「子孫を残すためなら、食べられても本望」という雄もいるだろうか、命が惜しいとか、他の雌とも交接したいとか思う雄もいるだろう。
触肢で交接していれば、雌に襲われる危険を感じたらすぐに逃げ出せるかもしれない。クモの雄はそれ以外にも、雌に食べられる確率を減らすため、さまざまな工夫をしているらしい。脱皮して成体になった直後で食欲のない雌を選ぶとか、餌を食べた直後の満腹の雌を選ぶとか、種類によっては、交接の前に雌に餌をプレゼントする雄さえいるという。それを思えば、人間の雄の求愛など楽なもの(個人の感想です)と言えるかもしれない。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)