新生バレンシアは本物か。相次ぐ監督交代の末に到着したマルセリーノが起こす変革。
「生みの苦しみ」という言葉がある。近年のバレンシアを指し示すのに、これ以上的確なものはないだろう。
振り返れば、この数シーズンは混沌の渦に巻き込まれてきた。2012年夏にエメリ監督が退任して以降、ペジェグリーノ、バルベルデ、ジュキッチ、ニコ、ピッツィ、ヌノ、G・ネビル、アジェスタラン、プランデッリ、ボロと監督交代が繰り返されてきたのである。過去5年の監督数はリーガトップの数字で、これにマラガ(過去5年で6人)が続く。
10人の指揮官が代わる代わるバレンシアを率いる中、「スペイン第3のクラブ」の地位を争うアトレティコ・マドリーはシメオネが長期政権を築き、安定した成績を残してきた。2013-14シーズンには、レアル・マドリーとバルセロナの2強時代に風穴を開けるように、リーガエスパニョーラ制覇を達成。バレンシアは完全に置いてけぼりを喰らっている。
■マルセリーノの就任と大型補強
そして今夏、破滅へのロンドに終止符を打つため、バレンシアが招聘したのがマルセリーノ監督だ。マルセリーノ監督は昨年夏、シーズン開幕を直前にしてビジャレアル指揮官を電撃退任。規律を重んじる個性の強い性格で、選手からの信頼を得るのに苦労したといわれている。
マテウ・アレマニーSD(スポーツディレクター)は、指揮官を満足させるため、この夏積極補強を行っている。4000万ユーロ(約52億円)を費やし、一挙7選手を獲得。そこにはそこにはMFファビアン・オレジャナとFWシモーネ・ザザを完全移籍で獲得するために支払った2100万ユーロも含まれているため、実質1900万ユーロで大量補強を敢行した。
バレンシアはGKネト、DFガブリエウ・パウリスタ、MFネマニャ・マクシモビッチを完全移籍で、DFジェイソン・ムリージョを買い取り義務付きのレンタルで、MFジョフレイ・コンドグビア、アンドレアス・ぺレイラ、ゴンサロ・グエデスをレンタルで獲得している。なかでも、コンドグビアの加入は指揮官にとって大きかった。4-4-2を基本システムとするマルセリーノ監督は、プレシーズンで守備力に長けたボランチが不足していると気付いた。自ら電話を掛けてコンドグビアを口説き落とし、思惑通り手中に収めたのである。
■細部への拘りにカンテラーノの台頭
マルセリーノ監督は、この数年率いてきたチームで、選手の体重を厳しくチェックしてきた。それはバレンシアも例外でなく、今季は特別に栄養士を雇って各選手の食事を制限する徹底ぶりだ。毎日体重計に乗るのは当然ながら、2週間に一度体脂肪率を計り、選手のコンディションが管理されている。
そしてマルセリーノ・バレンシアの特徴に挙げられるのが、カンテラーノの台頭だ。26名のトップ登録選手には、カンテラ出身のGKハウメ・ドメネク、DFホセ・ルイス・ガジャ、トニ・ラト、ナチョ・ビダル、MFカルロス・ソレール、FWナチョ・ヒルが入っている。正GKの座をネトに譲るハウメを除いては、ここまでの5試合で全員が出場機会を得ている。
バレンシアは過去にDFフアン・ベルナト(現バイエルン・ミュンヘン)、MFイスコ(レアル・マドリー)、MFダビド・シルバ(マンチェスター・シティ)、FWパコ・アルカセル(バルセロナ)ら優秀なカンテラーノを輩出してきた。バレンシアで頭角を現すとビッグクラブに掻っ攫われる危険性が高まるジレンマはあるが、彼らの成長こそがバレンシアニスタの希望の源になるのだ。
■4年ぶりのチャンピオンズリーグ出場を目指して
アトレティコが第3のクラブの名を恣(ほしいまま)にする一方で、バレンシアがトップ3に入ったのは、2011-12まで遡る。4位の座でさえ、2014-15シーズン以来、確保できていない。
だから「今季こそ」という思いは強い。第2節に敵地サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーに2-2と引き分け、続く第3節は本拠地メスタージャでアトレティコ相手にスコアレスドローを演じた。開幕節ラス・パルマス戦(1-0)、第4節レバンテ戦(1-1)、第5節マラガ戦(5-0)とリーガ開幕から5戦無敗を維持している。
15-16シーズンに予選プレーオフを勝ち抜いてチャンピオンズリーグ(CL)出場を果たしたバレンシアだが、以降欧州最高峰の舞台から遠ざかっている。バレンシアニスタの期待を乗せて、マルセリーノ・バレンシアは挑戦の道を行く。