スペイン代表のEURO2020への道。正守護神争いと、中盤に組み込まれるフィジカル型の選手。
変化の波に襲われながら、スペイン代表は前進を続けている。
6月19日にルイス・エンリケ前監督の退任が正式に決定した。家庭の事情で3月26日からチームを離れていたルイス・エンリケ前監督だが、8月29日に9歳の娘が5カ月の闘病生活後、骨肉腫で亡くなったことを明かした。
後任には、ロベルト・モレノ監督が就いた。L・エンリケ前監督の下で、アシスタントコーチを務めていた人物だ。
■フィジカル型の選手
ルイス・エンリケ政権では、フィジカル型の選手が必ず中盤に組み込まれていた。最初、選ばれたのはサウール・ニゲスだった。
このポジションには、高いフィジカル能力を備えた選手がいなければいけない。ハードワークが可能で、労を惜しまずにチームのために走れるプレーヤーだ。なおかつ、二列目から飛び出して、ゴール前に顔を出すことが求められる。スペインの4-3-3で、潤滑油の役割を担うのだ。
ただ、ロベルト・モレノ政権においては、少し変更が加えられている。
41歳の指揮官が率いるチームを見ると、守備の職人(守備の要/ポジショナルなアンカー)+創造的な選手+フィジカル型の選手が基本的に中盤に置かれている。EURO2020予選で、それは顕著に表れていた。
その予選の2試合目から指揮を執り始めたロベルト・モレノ監督は、ロドリゴ・エルナンデス、セルヒオ・カナレス、サウール(マルタ戦)、ロドリゴ、サンティ・カソルラ、セルジ・ロベルト(フェロー諸島戦)、ブスケッツ、パレホ、ファビアン(スウェーデン戦)、ブスケッツ、サウール、ファビアン(ルーマニア戦)、ロドリ、パレホ、チアゴ・アルカンタラ(フェロー諸島戦)と9選手を中盤で起用してきた。
また、アウェーのフェロー諸島戦ではイスコが左WGに、ルーマニア戦ではダニ・セバジョスが左WGに置かれ、可変式4-4-2が形成された。戦術に多様性を持たせる、という意味でルイス・エンリケ前監督とロベルト・モレノ監督は同じ方向を辿っている。
■デ・ヘアとケパ
もうひとつ、スペイン代表の懸念材料がある。ケパ・アリサバラガとダビド・デ・ヘアの正守護神争いだ。
EURO2016で、ビセンテ・デル・ボスケ当時監督はイケル・カシージャスの代わりにデ・ヘアを正GKに据えた。だがデ・ヘアは代表戦で期待に応えるパフォーマンスを見せられなかった。
カシージャスの後釜という重圧に加え、デ・ヘアには性的暴行事件に関与した疑惑からスキャンダルの可能性が取り沙汰されていた。そのなかで、彼はEURO2016に臨んだが、スペインはイタリアに敗れてベスト16敗退。デ・ヘアに対する疑念は晴れなかった。そして迎えた2018年のロシア・ワールドカップでは、被枠内シュート数12本で11失点を喫した。あるメディアでは、91,6%が失点に繋がると書き立てられた。
デ・ヘアに対する批判は増すばかりだった。ルイス・エンリケ前監督は当初、デ・ヘアへの信頼を明確にしていた。しかしながら、ケパがチェルシーに移籍すると、少しずつ状況が変わっていく。
L・エンリケ政権が発足して、UEFAネイションズリーグにおいては全4試合でデ・ヘアが先発した。分岐点になったのは3月に行われたEURO2020予選だ。ノルウェー戦でデ・ヘアが、マルタ戦でケパが先発した。以降、欧州予選5試合でケパが、1試合でデ・ヘアがスタメンに名を連ねている。
こんにち、GKの役割は多岐に渡る。シュートストップは当然ながら、ハイボールの対応、ビルドアップへの参加、正確なフィード...。FKまで決めてしまうゴールキーパーがいるのだから、まさにトータルフットボールの体現者といっていい。
デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)、ケパ(チェルシー)、パウ・ロペス(ローマ)と、スペイン代表に招集されている3人のGKが国外でプレーしているのは、史上初である。彼らは各国リーグ、それぞれのチームのプレースタイルに合わせる必要がある。昨季、マウリシオ・サッリ監督のチェルシーでゴールマウスを守ったケパが、スペイン代表で存在感を高めているのは偶然ではない。
確かに、黄金期の始まりは美しかった。故ルイス・アラゴネスに率いられ、スペインは2008年に欧州の頂点に立った。それは実に、44年ぶりのことだった。EURO2008、2010年南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012と主要大会3連覇を成し遂げた。
だが、そのメンバーで残っているのはセルヒオ・ラモスのみだ。
スペイン代表は新たなフェーズを迎えている。栄光に輝いたラ・ロハ(スペイン代表の愛称)の幻影を追い払うかのように、ロベルト・モレノ監督のチーム作りが進められている。