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えちごトキめき鉄道の今年最大のヒット商品は何か?  禁断の特等席!

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
えちごトキめき鉄道で運転している国鉄形観光急行列車。

えちごトキめき鉄道(新潟県上越市・以下トキ鉄)では、リゾート列車「雪月花」や国鉄形車両を使用した観光急行などの観光列車を運転しています。

ローカル鉄道は人口減少やモータリゼーションなどにより、どこも例外なく利用客の減少が進んでいますが、それを食い止めるべく、あれやこれやと乗客を増やす努力をしなければなりません。トキ鉄では月曜日から金曜日までの地域の足を維持していくために、土休日に観光で稼ぐというスタイルでいろいろと観光政策を展開しています。

その一つがリゾート列車「雪月花」で、大きな窓の専用車両で沿線の景色を眺めながら新潟の食材を使ったおいしいお料理を楽しんでいただく列車です。

こんな列車で、おいしいお料理をいただくコースでしたらお客様がご満足いただくのはある意味当たり前ですから、これではニュースになりません。

実は、今年登場した最大のヒット商品というのは、何もお料理は出ませんし、座席も硬い席でけっして座り心地もよくありません。

まして、車内では飲食禁止という厳しい規則に従っていただきます。

それが嫌なら降りてください。

そうきっぱり申し上げてお約束いただいたうえでご乗車いただける「商品」が、今年最大のヒット商品なのです。

そのお席というのがここ。

急行列車の運転席です。

ふつうなら絶対に入れない禁断の特等席。

誰もが憧れるお席です。

つまり、「立入禁止」をビジネスモデル化した商品ということになります。

運転席はちびっ子だけじゃなく、大人もあこがれる興味津々の場所です。
運転席はちびっ子だけじゃなく、大人もあこがれる興味津々の場所です。

このお席は1つの列車で限定1名様。

土休日の観光急行運転日に1日3往復設定していますので3名様限定のお席です。

料金は27500円(税込)

それにプラスして3000円の1日乗車券が必要ですから、3万円を超える金額です。

前述の雪月花が乗車券込みで通常コースで24800円ですから、お料理もサービスも何もないこの硬い座席がトキ鉄の最高額商品なのです。

お客様はまるで少年のように目を輝かせて約2時間のコースをお楽しみいただく仕組みです。

もちろんご乗車の前には免許証などご本人確認ができる書類のご提示と誓約書にサインをしていただく必要があります。

・付き添いの方のお手伝いを必要としないこと。

・酒気を帯びていないこと。

・日本語を理解できること。

・走行中は移動できないこと。

・大型機材等の持ち込み禁止。

・飲食禁止。

・乗務員に話しかけないこと。

・乗務員室内の危機には触れないこと。

などなど。

こういう厳しいお約束を守って、硬い座席に座り、何もサービスはありませんが、皆さんニコニコで、限定1席ですから予約開始と同時にほぼ満席となる人気商品が、トキ鉄の今年最大のヒット商品なのです。

何が最大かというと、利益率と予約率でしょうか。

お料理やサービス品などの原価が発生しませんから、ほぼ全額が利益。

そして、限定1席ですから予約率はほぼ100パーセント。

もちろん立ち会いスタッフの人件費などはかかりますが、特別に発生するコストではありませんから、会社にとっては有り難い商品でありますが、お客様にとっては子供のころからの希望がかなうまたとない商品なのです。

この商品の名前は「クロザ」。

ロザというのはグリーン車座席を示す業界用語で、クというのは運転席のこと。

つまり運転席のグリーン座席という意味合いの禁断の特等席なのです。

昨日30日は都内からお越しになられた女性のお客様でした。

かなりテンション高くワクワクされている感が伝わってきました。

昨今ではモノ消費からコト消費へと移り変わってきていると言われています。

トキ鉄のクロザは運転席乗車を体験する商品ですが、走行中という「時間」を楽しむ商品ですから「トキ消費」とでも言えましょうか。

このクロザですが、1月から車両が検査に入るため急行列車が運休となります。

従いましてクロザも乗ることができませんが、3月中旬から運転再開となりますので、クロザも再開できる予定です。

春以降になりますが、えちごトキめき鉄道でぜひ、限定1名のトキ消費をお楽しみください。

鉄道は夢と希望を乗せて走るものです。

ローカル鉄道の旅で夢を見て、皆様どうぞよいお年をお迎えください。

※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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