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会津から世界へ――400mハードル山内の五輪挑戦

和田悟志フリーランスライター
写真は2019年日本選手権4×400mリレーの時のもの。383番が山内(写真:松尾/アフロスポーツ)

東京オリンピックは夢物語だったが…

 “2020東京オリンピック出場”

 3年前の春、陸上競技・男子400mハードルの山内大夢(早大4年)は、地元・福島のテレビ番組でそんな目標をはっきりと口にしていた。

 両親ともに全国区の陸上選手で、陸上一家に育った山内は、会津高校の監督でもあった父・淳一さんの指導を受けて、高校3年時にインターハイで全国2位となった。また、全国高校選抜300mHでは日本一のタイトルを手にし、U20日本最高記録(当時)をも打ち立てている。伸び盛りで勢いがあった18歳の山内少年が、そんな大志を抱くのも当然のことだったかもしれない。

 しかし、シニアの壁はなかなか分厚かった。

「高校3年生の時は、インターハイで2番にもなったので、大学生で東京オリンピックを迎えるということはチャンスだと思っていたんですけど、大学に入って現実を見ました。

 正直、2020年ではなく、その先の世界選手権やオリンピックを見据えて、ワンステップずつ進んでいこうと思いました」

 早大入学後、1、2年生の頃は日本選手権に出場することも叶わなかった。

 ようやくその舞台に立つことができたのは大学3年生の昨年のこと。本来であれば、東京オリンピックの選考レースとなっていたはずの大会だ。だが、オリンピックは1年延期になり、日本選手権も6月から10月に延期された。

 この時点では、山内は東京オリンピックに出場するために必要な記録(※)を破っていなかった。(※「参加標準記録」といい、400mハードルは48秒90を有効期間内にクリアしなければならない。もしくは、ワールドランクで出場資格を得ることが五輪出場の必須条件) 

 また、山内は日本選手権で5位と健闘したが、五輪出場枠の3位以内には入れなかった。仮に昨年に東京オリンピックが開催されていたとしても、昨年の実力では、山内は東京オリンピックに届いていなかった。

1年延期で五輪出場に一歩前進

 しかし、オリンピックが1年延期となったことで、山内にチャンスが巡ってきた。

 今年5月9日に開催された東京2020テストイベントREADY STEADY TOKYOで、参加標準記録を破る48秒84をマークしたのだ(順位は2位)。

 家族には動画などを送って現状報告をしているが、この結果にはさすがに驚かれたという。もっとも、驚いたのは、山内自身もだったが…。

「あの記録は、会場が新国立競技場だったりと、雰囲気などの外的要素も影響して出たタイムだと思っています。自分の今の実力に見合ったタイムではないかなと正直思っているんです」

 山内はこう謙遜するが、これで2021年6月24日〜27日に大阪で開催される日本選手権で3位以内に入れば、夢物語に過ぎないと思っていた東京オリンピック出場が現実のものとなる。

 会津高出身の陸上選手には、2008年北京オリンピック男子マラソン代表の佐藤敦之氏や全国都道府県対抗男子駅伝で福島県チームを優勝に導いた安西秀幸氏がいるが、五輪出場が決まれば、佐藤氏に次ぐ快挙だ。

日本選手権優勝で五輪を決めたい

「日本選手権は3番以内が絶対条件になるので、3番以内を狙っていくのはもちろんですけど、”3番以内”という控えめな気持ちではなくて、優勝を狙っていく気持ちで取り組んでいきたいです」

 山内は、日本選手権に向けて強い意気込みを口にする。

 なぜなら、男子400mハードルで五輪の参加標準記録を突破しているのは、黒川和樹(法大2年)、安部孝駿(ヤマダホールディングス)、豊田将樹(富士通)と、山内を含めるとすでに4選手もいるからだ。

 日本選手権は厳しい戦いになるのは必至だ。

 特に、同じ大学生の黒川は、今最も勢いがあると言っていい。READY STEADY TOKYOで、山内に先着し1位だったのが黒川だった。5月は、静岡国際、READY STEADY TOKYO、関東インカレと、山内がフィニッシュする少し前には常に黒川がいた。先行逃げ切り型の黒川に対し、山内は後半追い上げ型だが、必死に追い上げるも、あと一歩が届かなかった。

 ちなみに、山内が持っていた300mHのU20日本最高記録を、高校時代の黒川は0秒01上回った。2人には浅からぬ因縁があった。

 関東インカレでも、やはり前半で黒川に大きな差を付けられた。

「1台目の入りはスムーズにいけたかなと思うんですけど、2台目、3台目とバランスを崩し、ハードリングと走りが分離していた。ちょっとしたミスの積み重ねが、フィニッシュ時の差になっているのかなと思います」

 山内は、現状をこう分析する。

 後半が持ち味の山内だが、前半の課題をクリアできれば、日本一は十分に見えてくるだろう。

「オリンピックに出るだけじゃなくて、その先に世界で戦える選手になれるように上を目指したい。一戦一戦集中して、まずはしっかりとオリンピック出場を決めたいです」

 現状に満足せず、先を見据える。さらに強くなるための手段として、是が非でも五輪代表の座を勝ち取るつもりだ。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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