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“アップデートを重ねていく” ――パリ五輪マラソン代表、大迫傑が自身の競技観やシューズについて語る

和田悟志フリーランスライター
写真提供NIKE

 5月中旬、パリ五輪マラソン代表の大迫傑(NIKE)にシューズについて話を聞く機会があった。

 ボストンマラソンを走り終えて約1カ月が過ぎ、ちょうどパリ五輪に向けて立ち上げ段階にあった時期で、話はシューズについてのみならず、自身の競技観に及んだ。

5年、10年のスパンで見たときに大きな差になる

「今まではそれが正解だったとしても、これが正解だと思い続けているうちに古いものになる。それはアスリートも一緒。練習内容もそうで、日々アップデートされていく。

 変化を恐れないというより、逆に変化しないと、どの世界でも付いていけなくなってしまう」

 大迫は度々環境を変えてキャリアアップを図ってきたアスリートだ。

 東京出身の大迫は、自ら強くなる環境を求めて、高校は長野にある強豪・佐久長聖高に進んだ。

 早稲田大学在学中には駅伝で活躍しながらも、世界と戦うために、在学中にアメリカに渡り、当時世界の長距離シーンを席巻していたナイキ・オレゴン・プロジェクトの門を叩いた(大学卒業後、当初は日清食品グループに所属しながら同プロジェクトの練習に参加していたが、のちにアジア人として初めて所属が認められた)。

 そして、モハメド・ファラー(イギリス)やゲーレン・ラップ(アメリカ)といった世界のトップランナーの背中を追いながら、着実に力を付けていった。

「大学は成功体験を得やすい現場だと思います。ただ、視座が低いと、成功体験を実業団に持っていってしまい、そこから前に進めなくなってしまうので、長い目で見ると恐いように思います。

 自分の肉体もそうですが、常に進化したいですし、相対的に活躍できなくなることに対して緊張感のようなものはあります。

 だから、フルモデルチェンジしているわけではなくても、今回はこれができたから次はこれをしようという、マイナーチェンジ、マイナーアップデートを常にしています」

 長く競技者であり続けることは決して簡単なことではない。それもトップレベルであるのなら尚更だ。

 現状を維持するのではなく、大小関わらず変化を積み重ねてきたからこそ、大迫は長きに渡ってトップランナーであり続け、世界と戦うことができているのだろう。

「その場にとどまっているのか、もしくは、見えないところでもいいから年々アップデートしていくのか。5年、10年のスパンで見たときに、それは大きな差になる」

 それを自ら示してきたからこそ、大迫のこんな言葉には説得力が伴う。

写真提供NIKE
写真提供NIKE

”これまでと違う”と感じたペガサスシリーズの進化

 大迫が「一番マイレージを踏むシューズ」と言い、普段から愛用しているのがナイキペガサスシリーズだ。

 1983年に登場して以降アップデートを重ね、今年6月には最新作のナイキ ペガサス 41が発売された。

「ペガサス 40 まではマイナーチェンジという感じでしたが、40から41はフルモデルチェンジしたかのような足入れ感のアップデートがあったように思います。特にクッション性はこれまで以上に増しました。それでいて、反発力もしっかりある。

 ロードでもトレイルでも走りやすいですが、特にロードで(シューズの性能を)感じると思います」

 足を入れた時のファーストインプレッションをこのように口にする。

 実際、ペガサス 41 は、前モデルで使用されていたミッドソール素材よりもエネルギーリターンが 13 %以上高い、リアクトX フォームという素材を使用。前足部とヒールに搭載された Air Zoom ユニットとの組み合わせにより、優れたクッショニングと高い反発性とを両立している。

「ペガサスシリーズは 30 頃から履いていますが、いろいろ新しい技術を取り入れてきて も、全てのバランスが良い。他のシューズだと好き嫌いが分かれるかもしれないですが、 ペガサスを履けないという人はあまりいないですよね。

 ペガサス 41 は、足を入れて立った瞬間に良い意味で“これまでと違う”と思いましたが、バランスの良いシューズという印象は変わりません」

 ペガサスはランニングシューズの定番として多くのランナーの支持を集めているシューズで、履き心地の良さは従来のままだ。

 だが、実際にはこれまでにアップデートを重ねて、着実に進化をしてきた。それはどこか大迫のキャリアにも重なる。

インパクトの強いボルトカラーのペガサス 41に足を入れる大迫(写真提供NIKE)
インパクトの強いボルトカラーのペガサス 41に足を入れる大迫(写真提供NIKE)

 大迫は、普段のジョグやロング走ではペースによってシューズを履き分けているという。

「(1kmあたりのペースが)3分40秒から45秒ぐらいだったらペガサスを履きます。3分20秒から25秒で走るとなると、(レーシングシューズの)ヴェイパーフライやアルファフライを履いています。その中間がペガサス ターボですね。3分30秒でもペガサスを履く時もあります。

 アルファフライは順行しやすいので、同じペースで走りやすい。ロングランや一定のペースで走るときはアルファフライが多いです。

 一方で、ヴェイパーフライは対応力が高く、後半にケイデンス(回転数)を上げやすい。基本的に短い距離の時はヴェイパーフライを履くことが多いかもしれません」

 こう話すが、今回のペガサス 41には“アルファフライに似ている部分”を感じるのだと言う。

「アルファフライほどの反発性ではないですが、その一端は見える。その延長線上にあるシューズなのかなと感じました。ペガサス 41は、良い感じに沈み込んで反発を得られるので、ミディアムから少し速いロングランの間でも使えると思います」

 つまり、ペガサス 41は、レーシングシューズとジョグシューズとをこれまで以上にシームレスにつなぐ1足と言えそうだ。

 レベルを問わず、どのランナーにとっても最も多い練習がジョグだろう。そのジョグで活用するシューズの進化が、ランナーにもたらす恩恵は大きいのではないだろうか。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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