全日本選考会に東洋大は1年生4人をエントリー。“鉄紺の覚醒”へ、勢いをもたらすルーキーズ
新年度を迎えて2カ月が過ぎ、大学長距離界の今季の戦力が少しずつ見えてきた。春先好調だったチームの1つが東洋大だろう。
“鉄紺の再建”をスローガンに掲げて臨んだ今年1月の箱根駅伝では、前年の総合10位から4位と躍進。強豪校として復活を印象づけた。
”鉄紺の再建”から”鉄紺の覚醒”へ
新シーズンを迎えてもその勢いは続き、5月の関東インカレでは鉄紺の存在感を示した。
10000mでは、長く戦列を離れていた石田洸介(4年)が28分08秒29の自己新をマークし6位入賞。小林亮太(4年)も自己ベストで同7位と2年連続の入賞を果たした。
ハーフマラソンでは、主将の梅崎蓮(4年)が2位に入り、3年連続で表彰台に上った。また、薄根大河(2年)も4位に入り得意のロードで力を示した。
そして、5000mではルーキーの松井海斗が5位、西村真周(3年)が7位に入った。
全学年の選手が活躍し長距離3種目できっちりと得点を上げて、対校戦の1部残留も決めた。
関東インカレで好成績を上げた東洋大だが、前半戦にはもう1つ山場がある。それが6月23日に行われる全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会だ。
昨季は、箱根駅伝ではV字回復を果たしたものの、11月の全日本大学駅伝は14位に終わりシード権を逃していた。現状では箱根駅伝と出雲駅伝の出場権は手にしているが、全日本大学駅伝に出場するには関東地区の選考会を勝ち上がらなければならない。
この選考会には早稲田大や法政大、帝京大の箱根のシード校、さらに、東海大や順天堂大といった強豪校もおり、好調の東洋大であっても、決して油断はできない。
この戦いに向けて、福島・猪苗代で5日間の合宿を敢行していた東洋大を訪ねた。
チームを勢いづけるフレッシュな力
この合宿には全日本選考会のメンバーにエントリーされた13人が参加していたが、そのうち4人が1年生(内訳は4年生4人、3年生3人、2年生2人、1年生4人)。フレッシュな力が目立っていた。
「1年生がとても元気なので、下からの突き上げという面でも、全体に相乗効果が生まれて練習に取り組めています。通常1年目から結果を出せる選手は少ないと思いますが、今年はそういう選手が多い」
主将の梅崎がこう話すように、ルーキーたちが東洋大を勢いづけている。
「1年生が早い段階で結果を出せることは、チームにとってもすごく良い刺激になったと思いますし、“上級生も負けていられない”という気持ちになり、良かったと思います」
小林もこのように言葉を続ける。
全日本選考会にエントリーされた4人は松井海斗、宮崎優、内堀勇、迎暖人。いずれも即戦力として期待がかかるルーキーたちだ。
その筆頭は、関東インカレで早速入賞を果たした松井だ。
「1年生が頑張っているというよりも、4年生や3年生が練習で引っ張ってくれるから、自分たちも伸びやかにポイント練習ができる」
好調の要因を聞くと、真っ先にこんな謙虚な答えが返ってきた。
「自分のペースでうまく調整しながらケガなく進められている」と言う。また、高校時代は貧血に苦しむことがあったが、東洋大に入って寮の食事で改善されたことも、順調に滑り出した要因の1つだ。
埼玉栄高時代は5000mでインターハイ7位の実績があり、全国高校駅伝でも2年時に5区区間賞、3年時に1区2位と大舞台できっちり結果を残している。
さらに3月末の世界クロスカントリー選手権ではU 20男子8kmで日本人2番手の19位に入り団体4位に貢献した。トラック、ロード、クロスカントリーと様々なフィールドで活躍している。
高校時代の5000mの自己記録13分56秒81はインターハイでマークしたもので、関東インカレでは13分51秒77まで伸ばした。記録会ではなく、勝負がかかった舞台で自己ベストをマークできるのも強さを備えている証だろう。
「大学4年間の中で、日本だけじゃなくて世界で活躍できる選手になることを目標にしています。駅伝も大切にしたいし、トラックで個人でも活躍できるような、オールラウンダーの選手になりたい」と志も高い。
宮崎と内堀も、関東インカレでは鉄紺のユニフォームをまとった。だが、宮崎は5000m28位、内堀は10000m29位という結果になった。
「関東インカレはものすごく緊張して思うような走りができなくて、悔しい結果になりました。この経験を得て、普段の練習に対してよりいっそう緊張感をもって、プレッシャーにも耐えられるように練習に取り組んでいきたいと思いました」とは宮崎。
「鉄紺のユニフォームを着る責任感、緊張がすごくありました。それまで東洋大に入ったという実感が薄かったのですが、関東インカレの舞台に立ったことで改めて実感できました」と内堀。
それぞれ重圧のなかでレースを走ったことで、決意新たにまた一段高い目標に向かうきっかけになった。
ともに長い距離を得意とするタイプ。宮崎は全国高校駅伝1区3位の実績がある。内堀は今年2月の神奈川ハーフで、高校生ながら1時間4分20秒の好記録をマークしている。両選手とも高校時代から5000m13分台をマークしているが、距離が延びるほど活躍の機会が増えそうだ。
迎は、元実業団ランナーの忠一(ただかつ)さんを父に持つ。だが、中学時代はバスケットボール部に所属。陸上は高校から始めた。自身が走り始めて、父のすごさに気づいたという。(※忠一さんは、現在、JR東日本コーチ。学法石川高とコニカミノルタでは東洋大の酒井俊幸監督とチームメイトだった)
迎は、関東インカレに出場した同期の3人にライバル心を燃やす。
「3人は大学に入る前から(5000mで)13分台を持っているし、関東インカレにも出場した。さらに、松井は入賞もしていて、本当にすごい。自分は彼らの背中を追いかけないといけないですし、この3人だけじゃないんだぞっていうところを見せられるようにしたいと思います」
こう話すように、大学に入って自己記録を連発しており、3人との差をぐんぐんと縮めている最中だ。
酒井監督の彼らへの評価も高い。
「(合宿でも)練習をきちんとこなしていますね。たぶん上級生たちは、一緒に練習してみて、記録以上に“1年生は強い”と思っているのではないでしょうか」
実際に、取材で訪れた日の練習は、3000m+2000m+3000mというハードなメニューだったが、1年生が先頭を引っ張る場面もあった。最後は、今季好調の西村真周(3年)ら上級生が意地を見せたが、ルーキーズも踏ん張った。
難なくこなせているように見えても、「高校時代はあまり走ってこなかったので、大学に入って練習量がだいぶ増え、今が一番疲労が溜まっていて、苦しい状況です」と松井は話す。厳しい鍛錬を乗り越えた先に、また一段成長を見せてくれるのだろう。
かつて東洋大では、柏原竜二、設楽啓太、悠太兄弟、服部勇馬、弾馬兄弟らも1年目から活躍し、のちにエースに上り詰めた。とはいえ、現時点でルーキーが4人も主力に名を連ねるのはなかなかないことだろう。
さらに遡れば、現コーチの大西智也氏の代も1年目から活躍した選手が多かった。そして、その代が4年生になった時には箱根駅伝で初優勝を果たしている。
今季のチームは“鉄紺の覚醒”をスローガンに掲げる。チームに刺激をもたらすルーキーズが“覚醒”を促す存在であることは間違いない。
8人の選手が4組に分かれて10000mを走り、その合計タイムを競うのが全日本選考会。最終エントリーでは、1組に松井、箱根10区区間賞の岸本遼太郎(3年)、2組に宮崎、網本佳悟(3年)、3組に石田洸介、西村真周、4組に梅崎 蓮、小林亮太が登録され、1年生は2人が出走予定だ。どんな走りを見せてくれるのか、注目したい。