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「バケモノのようだ」と大迫傑に言わしめたナイキの新作厚底レーシングシューズ“アルファフライ3”

和田悟志フリーランスライター
写真提供NIKE

 今やマラソンや駅伝などにおいてレーシングシューズは厚底がスタンダードとなった。その登場によって世界のマラソンは高速化が一気に進んだ。まさに“厚底革命”が起こったといっていい。

 その厚底革命を牽引してきたのがナイキだ。新作のナイキ エア ズーム アルファフライ 3に至るまでアップデートを重ねてきた。

 以前はマラソンシューズといえば底が薄くて軽量のものが常識だったが、2016年のリオ五輪でエリウド・キプチョゲら、カーボンプレートを搭載した厚底レーシングシューズのプロトタイプを履いた選手が上位を席巻。翌年の2017年にキプチョゲが2時間切りを目指す「Breaking2」に挑み、多くの人にその存在が知られるようになった。

 同年7月には製品化されたナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%が登場し、2016年から17年を境に世界のマラソンシーンはすっかり様変わりした。

アルファフライ3のプロトタイプでトレーニングをするキプチョゲ(写真提供NIKE)
アルファフライ3のプロトタイプでトレーニングをするキプチョゲ(写真提供NIKE)

 その後もアップデートが繰り返され、厚底シューズは進化を遂げてきた。

 2021年の箱根駅伝では、ナイキのシューズの着用率は96%にものぼった。現在は他のメーカーも技術を駆使し製品を開発し、その種類は多岐にわたる。

 今年の正月はナイキのシェア率が43%ほどと以前に比べれば減少したものの、依然として最も履かれたメーカーだった。(参考:文春オンライン

 そのナイキの最新の厚底レーシングシューズがアルファフライ 3だ。1月4日にプロトタイプのカラーリングが発売されると、オンライン等ですぐに完売となったが、待望の新カラーの “ボルト/コンコルド”が発売になった。(2月15日にオンラインで先行販売。2月22日に一般発売開始)

アルファフライ3の新色 “ボルト/コンコルド”(写真提供NIKE)
アルファフライ3の新色 “ボルト/コンコルド”(写真提供NIKE)

 昨年10月8日のシカゴ・マラソンでは、ケルビン・キプタム(ケニア)が、アルファフライ3を履いて2時間0分35秒の世界新記録を打ち立てている。女子では“トラックの女王”シファン・ハッサン(オランダ)が、ブダペスト世界選手権からわずか6週間後だったにもかかわらず、2時間13分44秒の世界歴代2位で優勝を飾った。

アルファフライ3を履いて世界記録を打ち立てたケルビン・キプタム。公認大会での2時間切りを目指していたが、2月11日に交通事故に遭い、亡き人となったのが惜しまれる(写真提供NIKE)
アルファフライ3を履いて世界記録を打ち立てたケルビン・キプタム。公認大会での2時間切りを目指していたが、2月11日に交通事故に遭い、亡き人となったのが惜しまれる(写真提供NIKE)

 キプタムは、本来ならさらなるハイパフォーマンスを見せてくれたはずだ。若くして交通事故死してしまったことが悔やまれる。

 そして、日本を代表するマラソンランナーの大迫傑(Nike)もまた、アルファフライ3を勝負シューズに選んでいる。

「(昨年の)1月だったかな。ケニアに行った時に、ナイキの開発チームの方々が来ていて『新しいシューズがあるから、傑も履いてみなよ』と言われてプロトタイプを履かせてもらったんです」

 こう話すように、プロトタイプの段階からこのシューズを試してきた。

昨年末の合同インタビューにて、大迫はアルファフライ3を手にシューズや自身のマラソンについて語った(写真提供NIKE)
昨年末の合同インタビューにて、大迫はアルファフライ3を手にシューズや自身のマラソンについて語った(写真提供NIKE)

 大迫のマラソン挑戦は厚底レーシングシューズの歴史と共にあると言っていい。まさに厚底革命が起こった2017年のボストンで初マラソンに挑むと快記録を連発。18年、20年には二度も日本記録を更新した。さらに、21年の東京五輪では6位入賞を果たしている。

 その後、一度は現役を退いたものの、復帰後も第一線で活躍を続けている。その足元にはやはりナイキの厚底レーシングシューズがある。

 大迫は“シンプルに速く走れるかどうか”という一点でシューズを選んできた。そして、昨年10月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)はアルファフライ3で走り3位に入っている(現時点では今夏のパリ五輪の3枠目の有力候補だ)。

 これまでにもアルファフライシリーズやヴェイパーフライシリーズに足を入れてきた大迫は、アルファフライ3について「良い意味でアルファフライっぽくないシューズ」と言う。その進化はどんな点にあるのか。

「前作のアルファフライ2は、もちろん反発のあるシューズだったんですけど、中足部の作りで好き嫌いが分かれていたように思います。僕自身も、その点がちょっと気になっていたので、ヴェイパーフライをレースで履いていました。

 アルファフライ3は、プロトタイプを(2023年の)東京マラソンから履かせていただいていますが、かなりしっくり来ています。バランスが非常に良くて、さらに軽くなった。反発がしっかりありつつも、引き続きクッションもしっかりしているので、非常に履きやすいシューズになっている印象があります。

 実際にレースで履いてみて、僕のランニングフォームに非常に有効だなと思いました。しかも、最後まで脚が残っている。体感としてはそんな印象が強かったです」

イラスト提供NIKE
イラスト提供NIKE

 “2”からのアップデートで、見た目にも分かるのがソールの形状だ。これまでのモデルは踵部と前足部が分かれていたが、“3”は連結している。これにより、ランナーのペースや接地パターンに関わらず、踵からつま先へスムーズな体重移動を実現している。

 また、過去最大数の女性テスターからのフィードバックを生かして開発されたのも特徴だろう。中足部のサポート性が従来のモデルよりも向上。さらに、シリーズ史上最軽量を実現した。トップアスリートだけでなく、幅広い層のランナーに対応する1足に仕上がっている。

「自己記録を更新しようと思っているランナー全員に、このシューズは良いと思います。普通のランニングシューズから履き替えたらきっと驚くと思う。足を入れた時の感じもそうですが、走ってみると全然違うのが分かる。“バケモノ”のようなシューズになっています。ただ走るだけではつまらないと思っていた人が、こういうシューズを履くと、ランニングにハマっていくと思います」

 大迫もこんなことを話していた。

 大迫に“バケモノ”と言わしめるほどのシューズがどんなものなのか気になっていたところ、実際に試す機会を得た。

 筆者にとっては、前モデルの“2”に初めて足を入れた時にも驚きは大きかった。初代モデルは“トップランナーのもの”という印象が強かったが、一般ランナーにも扱いやすくなっていたからだ。

 ところが、“3”に足を入れてみると、さらに驚いた。従来のモデルと同様に反発力がありしっかりと疾走感が得られるだけでなく、着地した時の安定性、ライド感が増している印象が強かった。言うならば、これまでのモデルではその反発力の強さゆえに“走らされている”気がしていたが、“3”はしっかりと自分の足で疾走している実感があった。

 また、蹴り出しがスムーズで、スピードを上げるのも自在で、走るのが楽しかった。

 まだ数キロ走ってみただけだが、鈍足の筆者でもハーフマラソン以上の距離でも着用できるのではないか。長い距離のレースで試してみようと思う。

 また、重量は“2”が28cmで249gだったのに対して、“3”は220gになった。“2”を履いた時に重さが気になったことはなかったが、実際に“3”に足を入れてみるとその違いは明らかだ。これはトップランナーほど大きなメリットになるのではないだろうか。

 アルファフライ3は、汎用性が高いだけでなく、トップランナーのニーズにもしっかり応えているシューズといえるだろう。

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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